4歩目 「嘘の様な恋でした。」②

   ほんの少し、距離を取って歩く。
手を繋いだりするのは、まだ早い気がして。
社川くんの鞄から垂れ下がる紐を掴むのも、
何だか違う様な気もしてる。どうしたものかな。

とはいえ──やはり体格差もあってか、
一度距離が開くと、なかなか追いつけない。
あの初対面から今日までの間に聞いたのだが、
彼の身長は178cmと、なかなかの高身長だった。
私は153cm。4~5cm程分けて欲しい、切実に。

少し間が開くたび社川くんが立ち止まって、
私が追いつくまで待ってくれる。
そんな小さな優しさに触れるたびに、
心の中で、ほのかに暖かい気持ちが揺らめく。

   この暖かい気持ちの名前は知っているけれど、
今はまだ──と、見て見ぬふりをした。

   まだまだ夏の盛りだから、と途中水を買って、
水に濡らして巻くタイプのネッカチーフに
しっかり水を掛けて、首に巻き直す。
何だか勿体ない使い方しちゃったね、なんて
笑い合いながら駅の方へと戻る。

   ──何故こうも、楽しい時間というのは
過ぎ去りゆくのが早いのか。
取り留めもなく話している間に、駅に着いた。
別の路線に乗るので、改札を過ぎたらお別れだ。

「それじゃあ、また学校でね」
私がそう言うと、社川くんは短く、
「おぅ。またな」
とだけ言って、自分の乗る路線のホームへ
さっさと行ってしまった。
何だか少し────寂しい。

   その日以降も、変わらず毎日遊んだり話したり。
だから、私に好きな人ができた時だって、
この『友人』という心地よい関係が続くのだと、
そう思っていた。

────あの日、あのメールが届くまでは。

   冬のある夜、社川くんからメールが届いた。
「何か、相模といるとドキドキするんだよね。」
…………うん? 見間違い、かなぁ……?
『ドキドキって、何?どゆこと?』
と、返事を返してみる。
すると、1分と待たずに返事が来た。

「何かさ、相模の事好きかも、って思ったんだ。」
あー……えーっと……。
『それ、ってさ……』
返事を打っている最中、電話が掛かってきた。

   社川くんから、だ。

「えーっと……もしもし?」
『もしもし。今、平気?』
「え、あ、うん。平気だよ」
(家族がすぐそこに居るけど、とは言えなかった。)
「それで、えっと……用件はなぁに?」
『メールでも言ったけどさ、』

   『俺、相模の事……好きかも。』

耳がバカになったのかと思った。
だって、そんな──私を好きだと思ってそうな
そんな素振りを見せた事なんて、なかったのに。
文字で伝えられた想いを声で改めて伝えられ、
私は軽くパニックになった。
「えっと……返事は明日、いつものバス停で、
どういう意味か分かりやすいように伝えるね」
……なんて、自分でもよく分からないような
そんな答えを返してしまうくらいに。
『ん、分かった。それじゃ、おやすみ』
プツン、と通話が切断される音を聞いて、
急激に我に返った。

   私、さっきの電話なんて言った……!!?

枕に顔をうずめて、声にならない声を上げながら
ベッドの上でバタバタと小さく身悶える。

え、というか待って……?
さっき私、社川くんに告白された……?
メール……うん、見間違えていない。
さっきの電話も、一言一句聞き間違えなかった。

社川くんが……私を……?えぇ……??

   まともに寝つけないまま迎えた翌日。
学校に着いていつもの場所に向かって──、
そして、彼の姿を見つけて。
いつもの解散する時間まで何をしていたかを、
正直よく覚えていない。
それくらい、気もそぞろだったのだろう。
それだけ、昨日の出来事による衝撃が強すぎた。

   授業も部活も何とか無事に終え、
社川くんと2人で、最寄りのバス停まで歩く。
仲良くなった日から今まで、「夜遅いから」と
毎回バスが来るまで一緒に待っててくれている。
そんな、ちょっとしたお気に入りの場所に
なりつつあるバス停に着いた──着いてしまった。

   「あ、のさっ」
声をかけたのは、私からだった。
「あの、ね……昨日の話、ちゃんと考えたよ」
そう言いながら、後ろの生垣によじ登る。
「……目。目ぇ、閉じてて。」
彼が目を閉じたのを確認して、首に腕を回して、

   彼の頬に、キスをした。

「…………え?」
私が離れたのを確認してか、目を開けて
第一声がそれだった。
「え、っとぉ……相模?
今の、って「そういう事……だよ?」」
彼の言葉を遮り、そう答える。

   そう────私も、気付いたら
社川くんの事を好きになっていた。

女の子と話しているのを見てモヤッとしたり、
彼と過ごす時間が終わらなければいいのに、と
心の底から願う事が増えたり、
電話やメールで話す時間が幸せだったり。
それくらい、好きになっていた。

   ドラマの様な、恋愛ゲームの様な、
そんな、嘘の様な恋をしたのだ。

〜 完。 〜

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