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ワインは空手で、日本酒は合気道なのだ。

イタリア人の酒サムライ、マルコ・マッサロットに出会ったのは、2015年のミラノ国際万博の年。知人から「日本酒をイタリアで広めるために一番頑張っているイタリア人」と紹介された。以来、彼が主催する日本の食文化ツアーを少しお手伝いしている。そして今年5月、彼の来日に合わせて実施したのが、イタリアのチーズと日本酒を合わせる会だ。マルコは、ワインよりも日本酒の方がチーズに合うと力説する。題して「SAKE × FORMAGGI Lab」。せっかくだから、イタリアではやらないようなペアリングを試してみたい。そして、今回の成功例をマルコにイタリアに持ち帰ってもらいたい。ということで、実施にあたって、チーズのスペシャリストである佐野嘉彦さんにナビゲートをお願いした。

まずは仮説を立ててみた

チーズは、マルコがイタリアから持参するので、持ってきてほしいチーズを4〜5種類決めてくれとのことだった。そこで、佐野さんと作戦会議をした。佐野さんは「パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズで試してみたいことがあって。削った状態とスライスとブロックの状態、同じチーズでも風味が強くなっていくと思うんだよね。これを日本酒の米の精米歩合でペアリングしてみない?チーズも削った方が香りが出るから、大吟醸みたいに精米歩合の高いものと合うんじゃないかな。ブロックのパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズは、吟醸酒より精米歩合の低い純米酒が合いそうじゃない?」こりゃ面白そう。そんな気がしてきた。他のチーズのことも、あーだこーだと話し合って、私たちが考えたのが下記のペアリング。日本酒は、桂月(土佐酒造/高知県)さんが協力して下さることになった。これに、私の自前の日本酒も加える。

①<チーズ>パルミッジャーノ・レッジャーノ 粉末状 × <日本酒>桂月 吟之夢 純米大吟醸 40%(精米歩合)

②<チーズ>パルミッジャーノ・レッジャーノ スライス ×  <日本酒>桂月 吟之夢 純米吟醸 55%(精米歩合)

③<チーズ>パルミッジャーノ・レッジャーノ ブロック × <日本酒>桂月 相川響 山廃純米

④<チーズ>ゴルゴンゾーラ・ドルチェ × <日本酒>桂月 濁り 純米大吟醸 スパークリング 50%(精米歩合)

⑤<チーズ>ゴルゴンゾーラ・ピッカンテ ×  <日本酒>桂月 特別純米3年熟成 、花巴 水酛 6年熟成 (燗酒)

⑥<チーズ>ピアチェンティーヌ・エンネーゼ × <日本酒>花巴 百年杉 木桶仕込

さて、どうだったのか

①〜③のチーズの削り具合と日本酒の米の精米歩合を比例させるペアリングは、予想通りというか、予想以上のピタピタ加減。わざとブロックのチーズと純米大吟醸40%を合わせてみたが、チーズの旨味と塩味が勝ってしまい、日本酒とのバランスが悪い。これが、山廃純米だと濃度加減がちょうどいい具合なのだ。

④は、ゴルゴンゾーラのオイリーな感じを、スパークリングでさっぱりとさせる作戦。デザート感覚でいける。

⑤は、チーズの辛味や濃厚な旨味に、ボディ感の合う日本酒を当てて、しかも燗酒でチーズの油脂分を溶かし、かつ、しっかりとした酸で油脂を切る狙い。燗酒にすると日本酒の包容力が上がり、チーズの渋みや塩分も全て角を取ってくれる感じ。ワインよりもチーズが進む、と思う。

⑥ピアチェンティーヌ・エンネーゼは、羊乳のハードチーズでサフランで香りづけ、ブラックペッパーを内包した非常にスパイシーで独特の風味のあるチーズ。この独特な風味に、杉樽のハーバルな日本酒と。これもドンピシャ。

そしてマルコの名言が出る

「日本酒とチーズは、生き別れた兄弟なのだと思います」。宴もたけなわな最中、マルコが持論を披露した。日本酒は米と水と菌の働き、チーズもまた乳と菌の働き。両者とも単純な材料から、多様な種類と複雑な風味が生まれる。「ワインは、チーズと合わせると闘います。自分の得意技をかけて勝とうとする。勝ち負けが(合うか合わないかが)はっきりします。まるで空手です。一方、日本酒は違います。チーズの出方を見て、チーズの持っている力も自分の中に取り込んで自分の力にしてしまう。これは合気道的アプローチだと思います」。日本文化が大好きなマルコは武道も習っている。ユニークな考察だ。イタリアチーズは料理に使うことが多いので、あまりチーズ単体でお酒と合わせることはないけれど、ワインより日本酒とのペアリングの方が、チーズをたくさん食べられるのは確かなのではないかと思う。

#ペアリング #イタリアチーズと日本酒 #桂月  



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