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浄化されてたまるか 裏世界ピクニック6巻感想

読みました。いつもと構成の違う1巻単位の長編だったり、創作怪談からの引用だったりで新鮮な部分もありつつ、いつものやつもあって面白かったです。

記憶喪失について

・先行公開分で話題をさらった記憶喪失ネタ。あっさり解決してびっくりしたけどまあ鳥子のあの気迫を見せられるとしょうがないという気はする。

・かわいいものを研究したがる空魚。猫に関する発言といいサンリオムックといい、地味にかわいいもの好きなのはもとからっぽいですね。

・記憶の欠落で生じた矛盾(お金の件とか)がどう補われるのかな、という部分も興味があったんですが、その辺は「考え始めるとぼやっとする」みたいなままずっと維持されるところだったんですかね。
・それって裏世界の深部について考えると思考がおかしくなる現象と似てますね。似てません?

・空魚が医者の名前を知らないと言ったところでこれ医者の名前の頭文字がTだったらどうしようかと思ったけど別にそういう意味でスキンヘッドなわけではない。

正体不明な人々

・Tさんや霞の正体について少ない手がかりからああでもないこうでもないって推測を働かせてるの、紙面のこっち側のファンの駄弁りとうっすら重なる部分もあってなんか面白かった。理屈系ホラーのこういうパート好き。

・霞について、個人的には「冴月が縮んで帰ってきたのかと思った」とか「空魚自身の過去とオーバーラップする」とかの部分に関心を引かれつつ、現段階ではどの解釈が有力かは保留ですかね。

・裏世界の写真や映像にはまともに映らないという設定、SSなんかでは触れられてましたけどやっと本編にも出てきましたね。データ全部削除した小桜さんと違って「面白さや味を感じた」ものは残してる空魚、相変わらず感性がずれてやがる。

るなについて

・冴月への感情、空魚たちへの感情、正気度なんかが判明して、それなりにスッキリしましたね。レクター博士的な怪しさを漂わせつつも普通に喜怒哀楽の出る場面もあってちょっと親近感が出たかも?

・子守唄のことでちょっと感情的になってたのはやっぱり母との関係に関わる感情なんですかね。
・空魚への感情がちょっと重くなってるのも今後に注目ですかね。情報が少ないなりに空魚になんか共感するところがあったのかも。

・るなの部屋から出るときに空魚たちがあっさり内側から鍵を開けてるけどこれは何か意味があるのかな?単純に権限あると開けられるみたいな話?

茜理について

・劇場版を意識した構成というだけあって、今回は小桜さんや汀さん、さらにはるなやトーチライトにも出番があったけど、今回個人的には茜理回っぽさを感じた。
・空魚と距離が縮まったり性格にちょっと踏み込んだ描写があったり。

・茜理が記憶をなくしたときの空魚の反応、客観的にはTさんの除霊の方が正義っぽいのではと言ったりもするけど、「その方が茜理のためなのでは」あるいは「自分たちにとって都合がいいのでは」みたいなことは一切考えてないのは空魚自身も変化してるんだなと感じる。まあ直前に「鳥子を奪われた」経験があるから当たり前なのかもしれないけど。

・「自分のことなんか眼中にない人に憧れがち」ほーん、新情報だ?冴月とお互いをどう見ていたのか気になるところ。
・結構すぐに手が出るのとストーカー気味なの、空魚は自分の目の影響と解釈してるけど怪しいもんだぜ。怪異への耐性といいこの人もなんかずれてるのは元からだしなあ。

・空魚との距離感が近くなった一方で裏世界にも個人として認識されちゃったみたいだけど明日はどっちだ。

廃屋探索

・空魚が結局連絡なしに地下に降りてたときの汀さん、わりと怒ってたんじゃねえかなあ。まあ後の方で単純に待ちぼうけてたわけじゃないことが明かされてはいるけど。
・この辺はまあすぐに上手くならないのはわかるのであんまり強くはいじれない。

・ところで裏世界の怪異が残す痕跡ってどういうものなんだろう。本当に必然で残るものというよりは、痕跡をたどって怪異に近づく流れまで含めて恐怖を呼び覚ます作法として置かれてるのかも。

・「鳥子の好意を私なりに受け止めようキャンペーン」わかるけど言い方
・この世で最も親密な相手のことが全然わからんって百合なんだよな。

・専門分野限定でリアリティレベルぶっ壊すキャラ、便利なんですけど汀さん便利ですね。

ゴールデンウィーク

・裏世界ピクニックを読んでると思っていたら裏世界DIYが始まっちゃったよ

・本作、あまりネットスラングを多用する小説というイメージはないんだけど「怖いのよ、反応が」みたいなセリフは数年もすると懐かしく感じるようになるのかもしれない。

・ファイル17以降鳥子の孤独についての話題が多くなった気もする。鳥子は鳥子で何かが振り切れたのかもしれんね。

・ゴールデンウイークということはあれがあれだったはずなんですけど、その辺やっぱ当人はそんなにどうとも思ってないのかもしれない。
・今回のラストから一週間後ぐらいが空魚と鳥子の出会って一周年なのでそっちでなんか動きがあるかもしれませんね。

信仰について

・宗教というものにいいイメージがない空魚。もちろんカルトのことを言ってるんだけど、ある意味敵と味方しかいない世界でぼんやり公正な世界を信頼することもしてこなかった空魚にとっては無宗教、無信仰ってのは平均的な日本人が考えるより重いのかもなと思ったり。
・逆にカナダ育ちの鳥子が冠婚葬祭の習慣を普通に宗教じゃん、て捉えるのはそれはそうだろうなあ。母が仏教徒ってのもカナダであえて表明するならって感じの話で特に信心深かったとかではないんじゃないかな。別に積極的な根拠があるわけじゃないけど。
・でもオカルトとの接続って現代科学を超えた理屈で世界が回ってるって考え方は超越存在を認めてるってことだよなあ。いやまあそれを信仰や崇拝するかって話はまた別なのかとも思うけど。だからこそるなの組織とかは毛嫌いしてたわけだし。

Tさんという存在

・空魚がTさんネタ苦手なの、まあ過去の語りから予想されていたことではあるし納得。

・結局Tさんは裏世界の起こす現象の一部という結論。「なんとかできる」人がこのタイミングで出てくると重すぎるのでその辺が落とし所でしょうか
・外見が登場するたび違うのはなんだかんだ個人個人のTさん像に対する配慮ですかね。

・真面目なシーンでずっとみんなで「破ぁ!!」「破ぁ!!」って言ってるのはちょっと笑った。いちいち抑揚つけて言ってたのかな。

・理屈を超えた空手の暴威に勝てない、まるでジャンケンのように負けてしまう怪異。これ何らかのミームを内側に取り込んじゃってないすか?
・ミームといえば、幽霊はバカみたいな下ネタに弱い、みたいなミームもありますね。下ネタで粉砕する、脳筋で粉砕する、破ぁ!!で粉砕する、どれも多分空気をぶち壊すことがキモという発想なんだろうけど。
・Tさん、空手対策として生み出された(そして失敗した)のでは。

・怪談の文面がそのまま切り貼りされた異言は今作の特徴的な表現なんだけど、今回は元ネタが元ネタだけにか、結構作り物っぽいセリフがあるのがシュール。「随分と小物を釣り上げちまったがな」とか言い出す怪異リアクションしにくいよ!
・でも空魚や鳥子のセリフにスルッと異言が挟まってそのまま流されていくのはなかなか取り残された感があってよかった。

異言の扱い

・異言と言えば霞の異言もなかなか気になる要素ですね。「空の中」に出てくる怪獣(ラジオ音声のツギハギでコミュニケーションしてくる)みたいで面白い。

A:空魚か鳥子の記憶から再構成
B:裏世界の中で発声された言葉から再構成
C:大穴で「裏世界ピクニック」という小説自体の文章から引用してるのかも

……とか考えてたけどラストでなかなか問題な奴がきましたね。
冴月も大概裏世界と深く接触してるようなのでAと同じ理屈で引用されてもおかしくないけど。あるいは目の前の人の記憶から引用できるとか?
・やっぱ裏世界の存在は基本的に引用でしか喋らないんだなー。肋戸や外館は普通の人間と考えていいか、とか思ってたけど”肋戸美智子”の存在が地味に謎だな。

この先

・かつて自分のいる場所から逃げたくて実話怪談を集取していた空魚もだんだんとキープしたいものが増えてきて微笑ましいですね。茜理の件があってすぐTさんを敵と認定してるのが印象的。
運命を丸々変えることで空魚を誘惑しようとした赤い人に比べるとやや役者が不足か。

・というわけでひとまずは霞の存在がキーになる感じですかね。あとは3年生になった空魚たちの大学生活がどうなって行くのか気になる。ゼミ生の人たち、結局助かったのだろうか?
やれることはまだまだ色々ありそうなんで楽しみです。



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