囲因回囚回因囲ノート 〜裏世界ピクニックの謎本〜

 謎本が出るくらい人気が出るといいな。
 人様の考察や展開予想と被ってることもあるかと思いますが、青い目で、もとい、暖かい目で見てやってください。

本編はいつのお話?

 この手の作品では曖昧に「現代」が舞台になっているものも多い。裏世界ピクニックでも具体的な数字が登場する機会は少ない。例外的なのが「きさらぎ駅」の体験談が生まれた2004年だ。
 本編では空魚が当時子供だったとコメントするだけだが、「空魚と鳥子のだらだら怪談元ネタトーク」(裏世界ピクニック(体験版)に収録)では「当時小学生だった」と発言している。

 空魚が本編で大学2年生であることと突き合わせると、本編の時代は2012年〜2017年だ。2015年よりも前だとVtuberやNetflixの描写がやや苦しくなってしまうので、連載が始まった2016年か第1巻が発売された2017年あたりが有力に思える。

 曜日と日付が同時に特定できる日があればもっと絞れるのだが基本的にはどちらかしか分からないようにしてるっぽい……と考えながら本編を読み返して見ると、でかい反例に行き当たった。

 ファイル15-4、冒頭に火曜日との記述がある。後々明かされるのだが、この日はクリスマスイブの12月24日である。この組み合わせが成り立つのは、2016年の前後では2002年、2013年、2019年、2024年だ。
 空魚の年齢にこだわるなら2013年が有力だが、流行文化の描写を優先するなら2019年以外あり得ない。(ぶっちゃけた話、VtuberやNetflixの描写を言うなら2017年でも苦しい。)

まとめ:
 本編の時期は2019年。空魚は自分の年齢を少し勘違いしている。
 あるいは裏世界の干渉により、作中時代は読者が最も共感しやすい時代になっている。

本編はいつのお話?おまけ

 ファイル11では「ちょっと前にキャンプのブームがあったばかり」という記述がある。作中でも「ゆるキャン△」のアニメ放送(2018年1月)があったのだろうか?
 奇しくも2021年1月、「裏世界ピクニック」と「ゆるキャン△SEASON2」のアニメが同時期に放送される。

まとめ:
 9月に公開された「ゆるキャン△SEASON2」のキービジュアルでは早くもなでしこの昔のお……幼馴染である土岐綾乃が登場し、ファンをざわめかせている。ココロは止まっていられない。

空魚の学年

 空魚の年齢と学年については、本編の描写をまとめると次のようになる。

・鳥子と出会った5月14日からコトリバコの事件があった8月までは20歳
・学年は大学2年生。特に言及がないので4月進級してそのままずっと2年生だろう

 ところで、人生には色々なことがある。空魚のように紆余曲折があったならなおさらだろう。大学生ともなれば、ある学年の年齢というのは案外ばらけている。空魚の場合、ざっくり次の二つのパターンが考えられる。

①留年、浪人などなくいわゆるストレートで進学。
 大学2年生は19〜20歳
②何らかの事情でストレートより一つ上の年齢。
 大学2年生は20〜21歳

 これについては、編集の溝口氏のツイートがヒントになる。曰く、連載開始時は空魚の年齢は19歳だったのだそうだ。

 つまり、物語世界が固まってからある時期までは少なくとも①のパターンだったわけだ。設定変更のコストを考えると、空魚の誕生日を4〜5月に変更した、と考えるのが妥当だろう。いまのペースだと6巻ぐらいで誕生日を迎えるかもしれない。備えよう。

 ところで、空魚の年齢変更は飲酒描写を気兼ねなく入れるための配慮だそうだが、この20歳1ヶ月、随分飲みなれている。肝臓の数値を指摘したDS研の医者も内心苦笑いだったのではないだろうか。

まとめ:
 空魚の誕生日は4〜5月。空魚は肝臓がやばい。

なくなった日曜日

 曜日の描写について語ったが、一箇所謎の描写があった。米軍救出作戦の曜日だ。ファイル5-2からの流れを追うと次のようになる。

・土曜日の午前11時、空魚が小桜邸を訪ねる。(ファイル5-2)
・同じく土曜日、一行新宿の居酒屋へ行く。昼の1時すぎに中間領域から裏世界へ。(ファイル5-3)
・午後3時半にきさらぎ駅の野営地を出る。(ファイル5-5)
・まだ日は沈んでいない時間帯、森に入りエントリーポイントに近づく。(ファイル5-7)
・姦姦蛇螺を倒し、那覇のゲートから帰還。
・19時過ぎ、那覇から小桜に帰還報告。その後打ち上げをして宿を取る。(ファイル6-1 回想)

 というわけで、ファイル6冒頭の朝は日曜日の朝のはずなのだ。しかるに、空魚は「もう月曜日(ファイル6-1)」と言っている。記憶をなくすほど飲んだ次の朝に状況を確認してるのだから、それなりに信用できる方法で日付を確認しているはずだ。
 他に時間感覚が狂った描写があるのはファイル9の回転展望台とファイル13のパンドラ事件の前後だ。ファイル9では「表と裏の時間経過には差がないと思っていた」とも語られている。

 一つの可能性として考えられるのは、「月曜日」に目を覚ました時点ですでに裏世界、あるいは中間領域にいた、というパターンだ。裏世界のビーチに入る前に空魚と鳥子が対面した人間はタクシーの運転手とコンビニ店員だけだし、どちらにしろタクシーに乗った時点で中間領域の影響を受けていた可能性が高い。そりゃあトイレの位置もおかしくなるってものだ。

 結局のところ、「月曜日」にリゾートの怪異と接触した空魚たちは別のゲートから石垣島に帰還し数日放心状態となったため、この辺りは曖昧になってしまった。

まとめ:
 お酒はほどほどに。

空魚の来歴

・秋田生まれ。
・幼い頃母を亡くしてから父と祖母がカルトにハマる。小中の修学旅行には行けたようだが、カルトの侵食は中学時代にはかなり進行していたようだ。
・高校生の頃、特に受験生時代に自暴自棄になり廃墟を巡る。
・赤い人と遭遇した時点で受験がどこまで進んでいたかは不明だが、「高校生の頃から認知をいじられていた」と語っているので例の事件は卒業前ではあるようだ。
・カルトの壊滅後、奨学金で大学に通う。多少は期待していたが、心を開ける相手はできなかった。重い過去を誰彼構わず話していたのでは?

鳥子の来歴

・年齢や学年は謎。空魚は初対面の時に、同じか少し下の年齢と推定しているが、あくまで第一印象の一部という感じ。
・カナダで生まれ、「ママ」と「お母さん」の間に育つ。「ママ」は軍人、「お母さん」はマンガを描くのが好きだったという。
・高校生の頃?両親を亡くす。原因はコミカライズ3巻収録の間章で触れられている。
・日本の高校に入るも不登校になる。冴月の家庭教師で高認を取り大学に入る。
・本格的に裏世界に関わったのは本編の一年前が中心らしい。小桜に引き合わされたのは冴月の失踪直前とのこと。

 冴月の家庭教師を受けていた時期と裏世界を探検していた時期を考えると、空魚と同じ大学2年生ぐらいがしっくりくるが、決め手に欠ける。

小桜の来歴

・生い立ちなどはほぼ不明。
・大学生の頃、同期として冴月に出会う。
・在野の認知科学者を生業とする。
・冴月に"共同研究"を持ちかけられる。すでにDS研に入っていたそうなので、ここ数年のこと。
・結局恐怖への耐性の低さから、冴月のパートナーとなることはできなかった。

るなの来歴

 中学生のとき配信者を始め、思うように再生数が伸びずに悩んでいたとき謎の動画に遭遇して不思議な能力と冴月への崇拝を得る。この間の時間間隔などは不明。
 冴月失踪後に能力を手に入れたのだとすると、<牧場>の整備などが早すぎるようにも思うが、そんなもんだろうか。

 推測に頼る部分が多いが、母親については昔からいわゆるスピリチュアル分野への傾倒があったのではないかと推察される。
・母親の特徴的な言動は他の「信者」と共通する部分がほとんどない。
・るなは母親に軽蔑するような言葉をぶつけながらも、空魚にけなされたときは敏感に反応していた。

 何となく、空魚の境遇と近いものがあったのかもしれない。冴月あるいは裏世界の「意図」とこの辺は関係あるのだろうか。

空魚の眼鏡の行方

 空魚のトレードマークでもある眼鏡と八重歯。実は原作の挿絵を担当したShirakaba氏のアイデアなのだという。本編で眼鏡についての記述を探しても、閏間冴月かスキンヘッドの医者の眼鏡についての記述しかない。

 温泉でレンズが曇ってなかったっけと思って確認したら、「視界が湯気で曇る」と言っているだけだった。ファイル10では「眼鏡をかけて黙って立ってたら、遠目には(冴月に)似てくる」と、間接的に眼鏡をかけていないことを表現しているようなセリフがあるくらいだ。

まとめ:
 裏世界ピクニックが実写化したときにもし空魚が眼鏡をかけていなくても、責めないであげてくださいね。

空魚の趣味

 怪異に関する関心ばかりが目立つプライベート描写の中で、本棚にあるサンリオキャラクターのムックが印象に残る。ポンポコや猫(そしてコトリバコの名前)のこともはっきりかわいいと言っていたり、そういうものは結構素直に好きなようだ。

まとめ:
 猫はかわいいから撃てない、という話の直前に「(人間の姿をしていても)自分を破壊しようとする相手なら、わりと撃てるっぽい」という話を入れてるのはなかなか意地が悪いのでは?

茜理の家の食器

 空魚が茜理の家に泊まったとき、夏妃を含めた食事の前後に次のような描写がある。

・「お客さん用の食器」がないため空魚は割り箸で食事をした。
・同じく、空魚の食器は茜理や夏妃のものとは違ういかにも間に合わせのものだった。
・「センパイはお客さんなので」という理由で空魚は食器を洗わなかった。

 本作では空魚の意識の外にある要素はこういう持って回った描写になるのだけれど、この件については、空魚自身は分かっていてわざと雑にコメントしているようにも見える。少なくとも「焼き餅」までは発想が及んでいるわけだから。

まとめ:
 自分は茜理の家から逃げたのに次の話では小桜さんに同じようなポジションを求めるのか。

小桜屋敷の謎

「一人には広すぎるんだよな、この家」

 不釣り合いに大きな小桜の住居については、コミカライズ1巻収録の間章にて「誰かと食事をすることもあるかと思って買ったダイニングテーブルセット」が登場するなど意味深。

 同じく2巻の間章にて「冴月がいたころは、もう少し食生活が豊かだったような気もする」という記述もあるが、一方でファイル13-7では「ここ(ダイニングキッチン)に客を迎えることがあるとは」というセリフもある。もしかすると、茜理にとっての夏妃のように「客」にカウントされていなかったのかもしれないが。

 気になるのはダイニングテーブルセットの椅子が四脚あることだ。パートナーや客よりは、まるで家族の存在を想定しているように思えるが、どうだろうか。

 小桜は覗き込まれる錯覚や白い影の幻覚を見ているが、それについては日常レベルの見間違いと考えてあまり気にしていないようだ。

 ちなみに白い影は最初に屋敷を訪れた際に空魚も目撃している。間章と突き合わせると、このとき小桜はキッチンと自室の間を移動しているので、それを見間違えたようにも思えるが、問題は小桜が近いタイミングで白い影を目撃していることだ。

まとめ:
 見えないゴリラがいるのでは?

スキンシップを嫌う小桜

 小桜はスキンシップに過剰反応する。

・ファイル4でハグを申し出る空魚にキレる。
・ファイル11でるな信者から隠れている間、頭をなでていた空魚にキレる。

 そもそも空魚のタイミングが変、とか子供扱いも嫌そう、とかそれらしい理由はあるが、妙な言い澱みなど、含みがあるようにも取れる。
 ハーレムものであれば、空魚にぞっこんラブなのでついツンケンしてしまい……という解釈もありうるが、間章などを見る限りでは冴月への未練の方が大きいようだ。

 どことなく、スキンシップ自体に何か感情や思い出を刺激される要素があるのではないかと感じさせるが、それが冴月への未練に関係するかについては保留としたい。小桜は家族に関する情報も少なく、むしろその関連なのではないかとも感じさせる。

まとめ:
 空魚、鳥子のスキンシップには慌てる割に、小桜に対しては積極的である。それはさておき、母親がいた頃はそれなりにオーソドックスなスキンシップをしていたのだろうか。

きさらぎ駅の表示板はどうして日本語だった?

 裏世界では通常の文字は奇妙な記号のように認識され、理解できなくなる。しかし、裏世界で新たに書いた文字などは読める。また、一部ではちゃんと認識できる文字があることはセリフでも指摘されている。

 代表的なものはきさらぎ駅の駅名表示板だ。空魚たちはこの表示板で駅の名前を判別した。空魚たちの推測によれば、裏世界は対象を怖がらせるために人の世の実話怪談を利用している可能性があるという。当然、元の話を再現するために空魚たちが読める文字が必要になることもあるということだろう。

 興味深いのは、ペイルホース大隊の反応だ。
 そもそも、彼らがきさらぎ駅をステーション・フェブラリーと呼んでいたのは変だ。「そう書いてあったから」そう呼んだというが、もし暦に詳しい隊員がいたのだとしても、単純に「Kisaragi Eki」だとか「Kisaragi Station」と呼べばいいではないか。

 つまり、裏世界が認識に働きかける際の制限だか仕組みだかにより、ペイルホース大隊の隊員には本当に「Station February」と見えていたのではないだろうか。もっとも、この隊の隊員はコードネームをつけるのがやたら好きなので、単にその延長という可能性もあるが。

まとめ:
 フィクションのミリタリ関係者は凝ったコードネームをつけるのが好き。

汀とカスタネダの関係

 浅学ゆえカスタネダという人物については知らなかったのだが、ざっと調べたところ、1968年に「呪術師と私」という本でネイティブアメリカンの呪術を紹介し、ちょっとしたブームを起こしたらしい。

 この呪術はセパレート・リアリティと呼ばれる神秘的な領域へのアクセスに関わるものであったというから、汀がDS研へ流れ着いたのもこのあたりの縁だろう。

 汀も大概年齢不詳だが、流石に70年代に若者であったとするのは無理があるだろうか。反対に現在30〜40代ぐらいだとして、「カルト団体によるテロ事件」以後の世界で青年期を過ごしながら神秘体験に傾倒したのだとしたら、それはそれで随分筋金入りである。

 案外彼に歯切れの悪い、黒歴史を振り返るような物言いをさせたのは「テロ事件」や世間の動きに関連する何かの思い出だったりするのかもしれない。

まとめ:
 だれにでも黒歴史がある。

作中に本物の冴月は出ている?

 るな達のDS研襲撃の際に現れた冴月と遭遇した鳥子や小桜は、冴月がすでに変質してしまったことを悟った。とはいえ、怪異として現れる冴月と本物の冴月の関連については、やはり明確なことはまだなにもわからない状況だ。

 それぞれに関連があるのかないのか、一度冴月の姿をした者たちについてまとめてみたい。

◯人間としての冴月
外見:
 背が高い。長い黒髪。眼鏡。目つきが悪い。

 物腰については、わずかに間章の小桜の回想で垣間見られる。「〜なのよ」「〜ね」などの口調で物憂げに裏世界の夜景について語っている。
 ていうか、てっきり夜空の話をしてたんだと思ってたけど、「裏世界が綺麗」としか言ってなくないか、これ?

◯写真の冴月
外見:
 黒衣。真っ黒な長い髪。縁の太い眼鏡。背が高い。
現象:
 空魚のスマホに自分自身が発信者の写真が届く。

 奇妙な写真のタイムスタンプは空魚と鳥子が出会った5月14日だった。そこにいたのだろうか?

◯風車の冴月
外見:
 切りそろえられた長い黒髪。白い肌。黒縁の眼鏡。凄まじく青い両目。
現象:
 鳥子が裏世界のことを理解しかけ、ほどけそうになる。
右目視界:
 巨大な風車か大輪の花のようなもの。
 時空おっさんや3人おばさんのロゴと関係?
目撃者:
 空魚が冴月の姿と風車の姿を認識。
 認識を操作された鳥子も冴月だと思い込んでいた。
青い世界との関係:
 再現された鳥子のマンションの外は青い空間だった。

 右目視界で異様な姿となっているなど、本物の冴月との関連は薄そう。とはいえ青い世界とのつながりを匂わせていたり、油断はならない。

◯リゾートの冴月
外見:
 長身、長髪
現象:
 リゾートの裏世界から八尺さまの帽子を使って脱出した際、
 ゲートの向こうに姿を覗かせていた。
青い世界との関係:
 空魚はリゾートの裏世界を深部の一つだとみなしている。

◯DS研の研究室の冴月
外見:
 黒髪。黒い服。背が高い。
 鳥子に視線を据えて、深々とうつむきだらんと手を伸ばしていた。
現象:
 コトリバコを放ってその場の女性を攻撃した。
目撃者:
 空魚のみ。その場にいた他の人間には全く見えなかった。

◯コトリバコ内部の冴月
外見:
 艶やかな長い黒髪。喪服を思わせる黒衣。眼鏡。
 恐ろしい青色の両眼。空魚曰く美人。
現象:
 鳥の群れを鳥子に差し向けた。
 風車の冴月のように鳥子をほどこうとしていた?
右目視界:
 変化なし。右目で見ながら攻撃しても、穴は開くが再生する。
目撃者:
 空魚のみ。
 空魚の妨害により鳥子は直接姿を見ていないが、懐かしい匂いを感じた。
青い世界との関係:
 空魚は青い目の向こうに裏世界の深部に存在する<かれら>を感じた。
コミュニケーション:
 空魚に対して「あなたも-、-しましょうね」と発言。

◯監視者の冴月
外見:
 長い黒髪。眼鏡。背が高い。黒衣。
 ファイル9では鳥子に視線を向け、静止画のように固まっていた。
現象:
 ファイル9で裏世界を移動する空魚たちをストーキング。
 ファイル11で表世界の池袋に出現。交差点でわざと空魚の認識に干渉?
 鳥子とるな母の接触にも干渉?
目撃者:
 空魚のみ。鳥子には認識できなかった。

 空魚の執着が生んだ虚像である可能性を小桜が指摘。深部で遭遇した他の冴月のようなプレッシャーはなかったという。写真を切り取ったように静止した姿で鳥子を見ていたというのは、研究室の冴月との類似性が感じられる。

◯夜道の冴月
外見:
 爛々と輝く青い両眼。
現象:
 潤巳るなの動画を見た空魚の前に現れる。
 怪談に沿って髪を引っ張った?鳥子の肩に手を伸ばす。
目撃者:
 おそらく空魚のみ。

 監視者の冴月に含めてもよいが、色々怪しいので別枠にした。動画と連動した存在にも思えるが、実はカルトから鳥子を助けようとした可能性もある?

◯DS研保管庫の冴月
外見:
 青い両目。
 ブーツの足。レースのついた袖。長い腕。
現象:
 鏡石からゲートを開き、その場にいた人間を裏世界へ運ぶ。
 るな母とるなを害する。
 <地下のまる穴>の怪談に由来する怪現象を起こす。
目撃者:
 空魚、鳥子、小桜、るな、るなの母が目撃。
 鳥子と小桜は「冴月じゃない」と認識。
コミュニケーション:
 空魚から異言を引き出す。
 「あかかった」「やくそく」「もえておこつになったら」など、
 赤い人との関連をうかがわせる。

 妙に服装に関する描写が多いのが気になる。
 るな達に無関心であったことに比べると、空魚に対しては異言を引き出したり髪を掴んだりと執着している様子がみられた。

冴月の青い目の謎

 裏世界に由来すると思われる青い目はすっかり怪異としての冴月の特徴になっているが、その由来には謎が多い。何しろ、失踪前の冴月を知っている鳥子や小桜が全くそれに触れていないのだ。
 描写を素直に追うと、メインキャラ達の前にはじめて現れた青い目の冴月は風車の冴月のようだが、これは一体どういう由来で発生しているのだろうか。

◯それぞれの怪異がバラバラに元になる冴月の姿を使っている
 本物の冴月、あるいは怪異としての冴月の元締めのような存在がいて、その姿を模倣しているという説。それぞれの冴月は互いに関連しているという前提になる。

◯風車の冴月の目が青かったのは偶然。他の怪異はそのビジュアルを空魚たちの記憶から拝借している。
 空魚の執着が生み出したと思われる虚像の冴月については、風車の冴月の記憶から再構成されたという状況はありえそう。

◯鳥子は青い目の冴月を見たことがある
 はじめの頃空魚の青い目を見たときに反応がなかったこと、他人に対して冴月の外見を説明するときに目の話題が出ないことから、さすが無理があるか。

◯空魚は青い目の冴月を見たことがある
 というか、風車の冴月や保管庫の冴月が青い目をしていたという認識を、鳥子や小桜が持っていると確信できる描写がない。そう見えてるのは空魚だけなのではないか?ていうか、そんなものを見せられて直感的な解釈でスルーできるのは空魚くらいなのでは?
 空魚のみが青い目を目撃しているとすれば、それは空魚の認識から構成された可能性がある。なにか空魚の中にそういう材料があったのだろうか。

 ちなみに、小桜が冴月をモデルにして作ったというVtuber<夜桜おねえさん>の瞳は「桜色で虹彩が生身の人間にはあり得ない複雑な色合いで輝いている」とのことで参考にならなさそうだ。

まとめ:
 共犯者たちでもっと情報を共有しなさい。

青い目の女の怪談

 潤巳るなは「青い目の女」の怪談動画をアップロードしていたが、これは冴月のことだろうか?空魚のことだろうか?

 作中、るなは空魚のことをマークしていなかった。母親が空魚のことを話した可能性もあるが、それにしては空魚のことを知らなさすぎる。

 冴月については「(動画を)聞き続けてたら、神様の言葉を伝える女の人が出てきた」と語っている。そのときに外見を知ったのだろうか。そうだとすれば、青い目の情報は必ずしも空魚由来の認識とは言い切れなくなる。

 ただし、「青い目の女」の動画とるなの関係をうかがわせるのはタイトルと例の「声」のみであり、るなが動画の存在をちゃんと認識していたかも怪しい。

まとめ:
 片目だけカラコンを入れて登校する大学生が噂になっているのかもしれない。

さて

 だんだん青くなってきますよ。気をつけてくださいね。

空魚と冴月の関係1

 裏世界ピクニックの序盤を読むと空魚はすでに固まった関係に外から参入したストレンジャーであるように見える。特に冴月からはもっとも遠い存在だ。しかし、そんな見方を裏切る存在がいる。瀬戸茜理だ。

 茜理が空魚たちに接触したのは、ご存知のように冴月から受け取った「お守り」によって裏世界の事件に巻き込まれたからだ。しかし、そもそも彼女が空魚と同じ大学に通っていなければ、出会うチャンスはほぼなかっただろう。
 言い直せば、茜理は冴月に由来する因縁を持っていながら、それとは別の縁で鳥子たちの前に現れたということになる。こんな偶然があるだろうか?

 そこに解釈を見出そうとすれば、当然空魚が要になる。例えば、冴月が空魚の存在を知った上で、同じ大学を志望している茜理に意図的に接触した、というようなシナリオである。

 本物の冴月の意図については謎が多く、推測が難しい。ファイル8やファイル10では裏世界探検のパートナーを探していたのだろうと断定的に語られている。結局のところ、その関連で空魚も目をつけられていたということはないだろうか。

 茜理の怪異に対する精神的な耐性とカラテの実力には鳥子と同じ裏世界への適性を感じさせるものがある。あえて言えば表世界に対して人並みの執着を持っていそうなところがネックだろうか。

 ちなみに茜理、ファイル10で小桜の存在を勝手に突き止めているが、その経緯は謎が多い。茜理本人には妙な意図や自覚はなさそうだが、何だか怪しい。

まとめ:
 メンバーを育てて君だけの裏世界探索チームを作ろう。作るな。

空魚と冴月の関係2:狙われているのは空魚?

 よく注目してみると、怪異としての冴月は案外空魚への接触が多い。空魚があえて鳥子を遠ざけていたこととか、虚像の解釈などの説明はつけられるが、コトリバコ内部での会話の内容が今だに不明だったり、謎は多い。

 だいいち、空魚と冴月の顔が似ているというのも、ただの人間関係のスパイスとして流すには意味深すぎる。

 特に保管庫の冴月は赤い人との関連が疑われる。空魚自身は裏世界が自分に注目し始めたのは鳥子と冴月の決別以降だと考えているようだが、赤い人が裏世界の意図と繋がっているならこの考えは怪しい。空魚は受験生時代にはすでに裏世界と関わりを持っていたことになる。

 ところで、裏世界の風物は空魚に由来するものが多いように思う。廃墟だの窪地だの、回転展望台だのいっそ空魚の心象風景なのではないかと思わせるような要素が散見される。
 そもそも、これまでの登場人物の中で、空魚に匹敵する実話怪談の知識を持つものがいただろうか?怪異が参照しているのは、裏世界に関わった人間でもなければ無差別な対象でもなく、空魚その人の知識なのではないだろうか?

 サンヌキカノが茜理を呼ぶときに「カラテカ」というあだ名を使ったのも気になる。ちなみに、ファイル6のビーチで現れた怪異は「ニシナトリコ」「ウルマサツキ」「カミコシソラヲ」の名前を口にしている。
 ただしこちらは風車の冴月が鳥子の記憶に干渉した結果と推測できなくもないか。

 もっとも、裏世界の風景と空魚の心象を関連づけるには、因果のネックが大きい。DS研はそれなりに長い期間裏世界を研究してきたようだから、そこの因果関係を崩さないことにはこの説は強弁できない。

まとめ:
 茜理、裏世界に本名を認識されてないのは不憫なのか幸運なのか。

見た目で判断しろ!!

 赤い人によって認識のおかしくなった空魚の目を覚ますため、鳥子は「見た目で判断しろ!!」と叫ぶ。しかしこれは最適解とは言えない。
 なにしろ、八尺様や怪異としての冴月のように見た目を取り繕う怪異は存在する。そもそも鳥子自身が冴月に呼び込まれそうになったのではないか。

 もちろん、空魚は鳥子を美人と認識しているので、そこに訴えかけるのが効果的であるという事情はある。もっとシンプルに考えれば、空魚の右目が怪異の正体を暴ける可能性は十分にあるという前提がある。

 そうなると気になるのは、鳥子が冴月を怪異だと判断した経緯だ。鳥子は冴月に触れたときに「手が冷たかった」ために彼女が自分の知っている存在でないと直感したと語った。該当の場面を読むと、触れているのは「手袋のない左手」だ。

 鳥子の左手が一方的に働きかける器官ではなく触覚も感じられることは度々語られている。その感覚が雄弁に怪異の気配を見破ったのかもしれない。

まとめ:
 鳥子の左手が拾える情報は、空魚が認識しているよりも多いのではないか。

赤い人の目的

 これまでの描写から、赤い人の目的をざっくり推測すると、空魚の感情を利用して彼女に焼身自殺をさせることだったらしい。

 1巻で空魚が語った話だけを聞くと窪地のガス事件自体が赤い人の影響にも思えるのだが、ファイル15他での描写を見る限り、これは赤い人としては失敗だったようだ。火を使った心中(というか自発的な死)に何かしら重要な要素があったように見える。

 ファイル11-3で空魚に呼びかけていた存在は「早く燃やして」などのワードから赤い人との関連が疑われる。<牧場>には件も現れているが、何か地理的な影響があるのだろうか。あるいは対カルトモードの気配に呼ばれたのか、単純に時期の問題だろうか。

 すでに触れたように、ファイル11終盤で怪異としての冴月と相対した空魚が語る異言は赤い人との関連が感じられる。「やくそく」の担保として命だか魂だかを奪われるようなやりとりで、一貫性はある。
 空魚の顔をした件との会話で出てくる「あのひとにもいいました」という文言もこの関連のようだ。

 随分あの手この手を使って空魚に接触しようとしている、と言いたいところだが、件はただ警告しているだけともとれ(件は予言をする妖怪として知られる)、切り離して考えた方が適切かもしれない。

 ちなみに、赤い人や空魚の過去絡みで、気になるアイテムがファイル12-5に登場している。大量の家族写真が貼られた中間領域と、その痕跡のように現れた写真だ。写真には火事になった家の焼け跡のようなものが写っていた。

まとめ:
 <牧場>および<地下のまる穴>と赤い人の関連には注意を払っておくべきかもしれない。るなのカルトそのものが空魚をターゲットするために利用されていたとするとあまりに哀れだけど。

異世界の足音

 裏世界の怪異が怪談から再構成されたものだという仮定に従うなら、本格的な異世界は存在できない。異世界を作るなら住民をいちいち作らなければいけないが、これまでの裏世界の作り込みを見るに、リゾートのように元ネタのある異言を喋る人型を作るか、中間領域のように違和感のある人型を生み出すかのどちらかが関の山だろう。

 しかし、赤い人との接触時に空魚が見せられたビジョンは不気味だ。前後の流れが異世界に迷い込む怪談の類型を連想させるし、空魚自身そのビジョンの示す「可能性」に怯えていた。異世界は本当に登場し得ないのだろうか?

 本作では空魚が注意を払っていないことは描写されない。逆説的に、隠されている描写にはわざと言及を避けているような不自然な痕跡が残る。

 空魚は「地下のまる穴」の怪談のオチを語っていない。この怪談のラストで、語り手である少年は異世界に取り残される。実は別の世界にいた人間が、彼にとって異世界であるこの世界に取り残されて、その体験談を書き込んでいる、というオチだ。この部分が空魚の語りでは全く触れられていない。
 そうして無視されてきた痕跡が、今後一気に牙を剥くとしたらどうだろう。

 例えばペイルホース大隊だ。

 小桜はペイルホース大隊の名前が公開情報に載っていないことを指摘していた。彼女はこの隊を秘密部隊と解釈していたが、彼らは実は異世界の人間だったではないだろうか?
 裏世界では文字に異常が出るし、母国語や文化圏が違うので齟齬も浮き上がりにくい。実際、空魚は「東京の大学生」と誤解された時に訂正しなかった。

 もしかしたら、あのまま米軍基地にお邪魔していたらそこは異世界だったのかもしれない。

 と言うか、ペイルホース大隊の情報を指摘した小桜の言葉自体、どこから生まれたのかよくわからない。ご存知の通り、裏世界の空魚たちと表世界の小桜では通話の内容が噛み合っていなかった。しかし、共通の知り合い二人と同時に込み入った会話をできるような怪異はこれまで他に存在していない。
 空魚は小桜の自身の認識が絶対ではないと指摘していたが、あれが異世界/パラレルワールドの小桜であった可能性はないだろうか。

 さらに言うと、ペイルホース大隊を救出した後「帰還」した那覇市内も実は異世界/パラレルワールドだったのではないか。ネックは小桜との通話の記録だが、会話が丸々すり替わった前例を考えると、些細な問題だ。
 結局空魚と鳥子はゲートを噛ませた状態でしか那覇と行き来していないのだから、そこが異世界であった可能性は十分にある。そりゃあトイレの位置もおかしくなるってものだ。

まとめ:
 ペイルホース大隊と小桜、結局どっちが異世界の存在だったんだ。

さてさて

 もっと青くなるよ。

冴月は二人いる?

 待って、ブラウザバックしないで。

 ここで話題にするのはファイル8でDS研に現れた冴月のことだ。先に掲載したリストでもあえて研究室に現れた冴月とコトリバコの内部に現れた冴月を分けた。

 見てみると、研究室に現れた方は活動が単調で、外見もおばけめいているのに対し、コトリバコの中に現れた方はよりはっきりとした意思を持った存在であることを感じさせる。そして何より、明確に空魚や鳥子を攻撃する様子がないのだ。

 コトリバコの中の冴月は確かに鳥の群れを操って鳥子を「加工」しているようにも見えるが、鳥子自身は「もう痛くない」と前向きだ。
 正気を失って変なテンションになっていることはさておき、もしかすると冴月が行なっていたのは治療に近いものだったのではないか。あるいは、茜理の例のように体内に何か異物があったのを、取り除こうとしていたのかもしれない。
 気を失った空魚共々身体の異常が発見されなかったことにもこれで説明がつく。

 そもそも、「加工」自体が藤子・F・不二雄の「流血鬼」のオチのように視点次第で善意となる行動である可能性もある。

まとめ:
 怪異としての冴月の中にも空魚や鳥子に協力的である者がいる?

冴月は未来の空魚?

・空魚と冴月は外見が似ている。
・青い目の類似性がある。
 などの説明をつけることができる。

 何らかの目的を持って過去にタイムスリップした冴月=未来の空魚は、自分の心象風景である裏世界を構築し、選ばれた人々をそこへ取り込もうとしているのだ。

 空魚に頭をなでられた小桜が過剰に反応したのは、その手の暖かさに冴月と似通ったものを思いがけず見出したからなのではないか。

 ファイル4で奇妙な写真が空魚自身から送られてきたことも、未来の空魚が送ったと考えると説明がつく。電話会社の人も大変だ。

まとめ:
 過去の自分を効率的にもやしておこつにするためにアンカーの壊れた鳥子をあてがったら互いが互いのアンカーになってしまいギリギリしてる冴月、見たいかどうかで言えば見たい。

冴月は空魚の本当の母親?

・空魚と冴月は外見が似ている。
・青い目の類似性がある。
 などの説明をつけることができる。

 空魚は家族写真などで母親の顔を見ているはずだ、というネックはある。だが、空魚の家族が入れ替わっていたとしたらどうだろう。

 紙越家には祖母、父、母、娘がいたが、母と娘が失われた。埋め合わせとしてカルトの協力により現在の空魚が連れてこられた、という具合だ。
 こうなると空魚が赤い人のビジョンの中で母親の顔に怯えた理由も別の意味を持ってくる。

 さらに、空魚が自分の年齢を勘違いしていたことが重大なファクターとして持ち上がってくる。すなわち、彼女は小学校のある時期から以前の記憶が曖昧なのだ。もしかすると本当に学年がずれているのかもしれない。

 <牧場>に現れた件は空魚を「いまわしいおんな」「ははおやににて」と語っている。赤い人に関する警告、忠告とはまた違う謎めいた言葉だ。連れてきた子供の母親が思ったよりまずい存在であった、とでも言うのだろうか。

まとめ:
 他の若い子に粉かけてる場合じゃないですよ。

冴月は空魚と鳥子の娘?

・空魚と冴月は外見が似ている。
・青い目の類似性がある。
 などの説明をつけることができる。
ついでに空魚が冴月を美人と認識した理由にも説明がつくのでお得。

 タイムスリップしてテンションが上がった冴月は鳥子にちょっかいをかけた結果懐かれてしまい、空魚と鳥子の本来の出会いを邪魔してしまった。このままではタイムパラドックスで自分が消えてしまう。
 一計を案じた冴月は失踪などのお膳立てをして空魚と鳥子をくっつけるべく暗躍しているのだ。

まとめ:
 最終的に小桜と一緒に電車に乗ってきさらぎ駅から旅立つよ。

黒幕は汀?

 気になるのは、汀と冴月が同時に登場している場面が極端に少ないことだ。唯一、研究所に現れた冴月と同時に存在しているが、先に触れたように、研究所の冴月はどこか「ホログラム」めいた虚像の冴月に近い部分がある。むしろアリバイ工作なのではないだろうか。

まとめ:
 刺青に紛れた裏世界語を詠唱して閏間冴月を召喚しよう。

那覇の夜には何があった?

 鳥子から見ても空魚のテンションは高かったらしいです。鳥子が気分次第で全裸で寝ることがあるという説明は今となっては怪しいけれど、酔った空魚が何かやらかしたのを覚えていないと察してフォローしたのでしょうか。

石垣島では何があった?

 プールやバーや砂浜で遊んだらしいですよ。

鳥子が空魚の部屋に泊まった夜には何があった?

 後にテントやラブホテルで過ごしたときと比べると特別なことは起こらなかったのではないでしょうか。

寝湯と和解せよ

 寝湯というのはオフィーリアに結び付けられているわけですよ。表世界でのアンカーを失っていた空魚にとっての死の象徴です。オフィーリアもまた、悲劇的な死を迎えた女性ですからね。

 そのあと風車の怪異を倒した空魚は鳥子から「オフィーリア」のときの思い出話を聞かされるわけです。互いの認識のすれ違いがロマンチックなシーンですね。寝湯は空魚にとって生の象徴となりました。

 温泉で寝湯が再登場したときはこれがまた一時的に死の象徴に戻っているわけですね。小桜さんが指摘したように空魚自身は結構過去を気にしていたのです。

 空魚が寝湯を視界に入れる場面で鳥子はいません。排除されました。何しろ彼女はボッティチェリですからね。ヴィーナスの誕生ですから。愛と美の女神です。いられませんよね。

 深夜に鳥子と一緒に本音の自分に近づいた空魚は一時的に寝湯を許します。けれどそれが重大な象徴であると認めることは注意深く避けました。なぜなら寝湯とオフィーリアが結びつくことを知っているのは空魚本人だけだからです。

 さて、ラブホテルの廃墟ですが、これはユニークな存在ですね。何しろ生と性を背負ったラブホテルが、廃墟なわけですから。空魚にとっては、自覚はないけれども、危うく死を呼び込むところだった事件の象徴であり、生まれ直しの象徴でもあります。

 中身なんです。本棚を見られるのとは比較にならないですよこれは。なにしろ二人で入ったら中が廃墟だと分かってしまうわけですからね。

 結局、鳥子の協力を得た空魚は赤い人の呪縛を断ち切ることに成功します。よかったのではないでしょうか。

「あがないうしのしじるこえ」とはなに?

いまのひとはしらないかもしれませんね。
むかしうしのくびというかいだんがあったんです。
だれもほんとうのはなしをしらないというかいだんですね。

ほんものというふれこみのものもありましたけどぜんぶでたらめです。
しられてしまうとたじんのかいわいとかはこまってしまいますよね。
でもかいだんがそういうしんぜだってあなたはしっていたはずなんです。

いまのひとはしらないかもしれませんね。
しじることはそのものはそんなにだいじじゃないんです。
ただえんじのことなのでとくにそういういいかたをしたんです。

いえ。
ふまうこととはかんけいありません。
そういううわさもありますけどただじんじあいがいってるだけですよ。
だからふまうひともいます。

いまのひとはしらないかもしれませんね。
しょうゆをまいておくんですよ。
やけるにおいがしたらそのことしかかんがえられなくなりますからね。
あたりいちめんきいろのえのぐをぬたくったみたいでした。

いまのひとはしらないかもしれませんね。
もちろんいちばんだいじなのはたどうのかねです。
いえ。
いまはかねはなっていませんよ。

なにがいちばんいやかってことしのおおわらぎはぼくがしないといけないんですよ。

瓶詰めの

 スマホの画面の中で、ポムポムプリンが踊っている。「おやすみ」の4文字は、「お大事に」の代わりだろうか。
 実際のところ、私は床に伏せってなどいない。今頃小桜にせっつかれた空魚がゲート探しに奔走しているのはわかっているのに、こうして部屋に引きこもっている。私はぼんやりと立ち上がり、冷蔵庫の中を見た。トーストに何か塗って食べようと思う。
 ピーナツバターの瓶を取り出してみると、もうほとんど切れかけていた。透明なガラスの内側にわずかにへばりついている中身を指ですくって舐めてみる。そういえば、空魚と今度裏世界に行くときに、弁当を作る約束をしたんだった。ピーナッツバターのサンドイッチを作って行ったら、空魚は気に入ってくれるかな。
 口に合うのかはわからない。誰かに、瀬戸茜理にでも聞いたらわかるのだろうか。
 茜理が閏間冴月の名前を出したとき、私はひどく動揺した。彼女に嫉妬したのではなく、その逆だ。冴月の名前を出されても、自分の心が以前ほど動かないことに、気づいてしまったのだ。
 少し換気をしようとして、ベランダに続くガラス戸を開けた。見下ろす景色の中では、ちゃんとそれぞれの人生を生きている人々の生活音が響いている。ずる休みの甘い罪悪感を抱えながらベランダに立っていると、家にこもっていた高校時代を思い出す。
「リコは、自分がいない世界が本当の世界だと感じているのね」
 出会ったばかりの頃、冴月に言われた言葉を思い出す。「クラスに居場所がない」というドラマか何かで聞くような概念を持て余していた私にとって、その言葉は衝撃だった。
 ちなみに、「リコ」というのは冴月が私につけてくれた名前だ。小さい子供の愛称みたいでちょっと恥ずかしかったけれど、使っているうち馴染んでしまった。
 私は生の食パンで直接ピーナツバターをすくいとると、それをかじった。ほら、空魚。一人で全部食べちゃうよ。空になった瓶に、強い日差しが反射していた。

終わりに

 この文章は与太話です。本気にしないように。


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