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【人怖話】あるネカマの嘆き

15年ほど前にオンラインゲームで聞いた人怖話。
もうすでにそのオンラインゲームは引退しており、当事者達もログインしていない可能性はある。
そろそろ書いてもいいと思ったので多少フェイクは入れて書いていく。

あれは西暦2000年頃だった。
当時の私はコンビニ勤務で迷惑客の対応に疲れを感じ、プライベートが上手く行かずに神経がピリピリしていた仕事仲間の暴言に心が折れたりなどのトラブルに巻き込まれて心を病んでしまっていた。

それに加えて男尊女卑の思想をいつまでも引きずる家庭環境にも嫌気が指してしまい、自分の居場所はどこにもないと思い込んで半分引きこもりのような生活をしていた時期だった。

元々内向的な性格で自分の気持ちを表に出すのが苦手であり、他人とのコミュニケーションがうまく取れない、今でいうコミュ障だった。

そんな私が大きく変わるきっかけとなったのはインターネットの存在だった。
2002年夏頃に弟が放置していたノートパソコンを譲ってもらい、インターネット契約をしたことで、ネットの便利さや楽しさを知ることになった。

当時ハマっていた家庭用ゲーム機の某RPGの攻略サイトをよく閲覧していたのだが、そこには利用者が参加可能なチャットルームが設置されていた。

そこで知り合った利用者の何人かからMMORPGの存在を教えてもらい、ゲームのダウンロードから細かい操作方法まで教わったことで、MMORPGデビューを果たすこととなった。

利用者の中で特に親しくなった2名と一緒にオンラインゲームをスタートしたのだが、1人はそういうのに慣れている人であり、もう1人は多少はかじったことがある人だった。
どちらにしても私にとってはゲームの先輩にあたる人達である。


◆登場人物紹介◆

・ケンジ(仮名)・・・自称男子大学生、昼間からチャットルームやゲームにログインしている、一匹狼がかっこいいと思い込んでいるものの、自分で作成した女キャラに萌える部分もあり


・英子(仮名)・・・パソコンに詳しい専門学校生で接続時間は夕方から深夜、リアルの素性を隠しては他人をからかって楽しんでいる、本人に悪気があるのかないのか全てにおいて謎が多い



某MMORPGをプレイして約半年ほど経ったある日のことだった。
英子とは同じギルドに所属していたので頻繁に顔を合わせていたのだが、ケンジは一匹狼を気取っていたことで、どこで何をしているのか全く分からなかった。
最近女キャラを作ったという話を英子から聞いていたことで、ゲームをプレイしていることだけは分かっていた。

会えないのは寂しいけど、元気でやっているならいいか、と思っていた矢先のことだった。
久しぶりにケンジからメールが入ったので確認してみることにした。
内容はこんな感じだったと思う。


黒犬(私のハンドルネーム、もちろん仮名)、久しぶりだな。
実は…相談に乗って欲しいんだ、ちょっと困った状況になってしまった。
もうどうしていいのか分からないので誰かに頼るしかないんだ。

そこで、黒犬の力を借りたいんだ。
非常に言いにくいことなんだが、実は、告白されたんだ。

相手は年上の男性で、僕はゲームで女性キャラを作ったのもあって女のふりをしてその人と仲良くなったんだ。
最初はたまにしか遊ばなかったんだけど、そのうち楽しくなってしまってね。

ゲーム内で結婚(そういうシステムがある)して、パートナーになったんだ。
それから毎日のように一緒にゲームするようになってね。
最初はゲーム内だけの関係だと思ったんだ、でも違ったんだよ!!

リアルでも会ってお付き合いしたいって言われたんだ。
もちろん、相手の顔は知らないし、僕の顔写真も見せたことはないよ。
顔も知らない相手だけど、とても良い人なんだ。
だから、断りにくくてね。

黒犬、どうしよう。
僕は良い人を騙す形になっているんだ。
本当のことを言う勇気がない、だけど黙って消えることも出来ない。
どうしていいか分からない、助けて。


・・・以上がケンジからの助けを求めるメールだった。

それにしても、しばらく顔を見ないうちに相方を作るとはなかなかやるなとは思うが、まさかネカマになって善良な男性プレイヤーを騙していたというのか。
私は即座にメールに返信した。


なんで女性のふりをしたの?
キャラは女でも中身は男だって最初から言っておいたらこんなことにはならなかったと思うんだけど。

ましてや相手は良い人なんだよね。
騙されたと知ったら悲しむんじゃないかな?

だから、ケンジには2つの回答をするから、そのうちのどちらかを選んでもいいし、納得いかないなら英子にも相談した方がいい。
他の意見を聞けるかもしれないし。

回答その1
自分の素性を正直に答えて謝罪する

回答その2
素性を隠したまま何か理由をつけてさようならする

私は相手がどんな人か分からないし、上記の回答で相手が納得するかしないかも分からない。
許してくれるか泣かれるかキレられるかすら判断つかない。
だからさ、面倒なことに巻き込まれたくないならネカマなんてやらない方がいいよ。


しばらくしてからケンジからまたメールが送られてきた。


ううう、正直に言う勇気がないんだ。
素性を隠していることには罪悪感はあった。
何故かというと…アイテムもゲーム内マネーもたくさん貢いでもらった。
だから段々本当のことが言えなくなった。

相方のことも最初から騙すつもりなんてなかったんだ。
自分の作成した女キャラが可愛くてさ、つい魔が差してしまって・・・それでネカマになろうって思った。

ネカマやっていた理由も誰かからちやほやされたくてね。

ほら、男キャラより女キャラの方がプレイヤーから大事にされるだろ?
僕は寂しがり屋だから誰かに構って欲しくてね、だけどリアル男だと知られたらそっけなくなる奴が多いんだよ。

単に自分の心の穴を埋めることさえできればいいと思っただけなんだ。
高価なアイテム貢がれた時の感動は言葉では言い表せない。
そのくらい気持ちのいいものだった。

だから、相手も僕の気を引くために色々してくれたんだ。
気付いた時にはゲーム内で結婚して、リアルでも付き合いたいってなってしまった。

まずいと思ったが、どう話せばいいか思いつかなかった。
僕が本当は男だって知ったら傷つくかもしれないし、怒るかもしれない。
だから、言えないままずるずるとゲームをプレイしているんだよ。

あと英子には絶対に言うなよ。
あいつは厳しいし怖いから。
こんな相談したら後々ネタにされてからかわれるに決まってる。
だから黒犬に相談したんだよ。
絶対に英子には言うなよ!
いいな?
約束だからな!


ケンジからの返事を読んでため息しか出ない。
英子を頼れないのは厳しくされるのが嫌だからか。
つーか、トラブル起こしておきながら優しくされたいとかただの甘えじゃないか。
一度くらいは徹底的にお説教されればいいのに。

一匹狼カッコいい!とか言ってたのはただの強がりなんだろう。
本当は寂しがり屋だったのを隠したかったのかもしれない。
たまたま知り合った男性プレイヤーに気に入られたことで色んなものを貢いで貰えたことに快感を覚えてネカマを辞められなくなったと・・・。

まぁ、ゲームのプレイスタイルなんて人それぞれだから口出しは出来ない。
もちろん、自分に害があればとんでもない話ではあるが、今回は私には一切ダメージはない。

気の毒なのはケンジの本当の性別を知らずにたくさん貢いで愛の告白してゲーム内でもリアルでも相方になりたがっているその男性プレイヤーの方だろう。
ご愁傷様です。

ケンジがどんな決断を下したのかは数日後に判明することになる。

どうやら、回答1の正直に素性を語って謝罪する方を選んだようだ。
相手はショックでしばらく立ち直れなかったそうだ。
ケンジは縁を切られるかもしれないと思ったようだが、男性プレイヤーも徐々にその状況を受け入れることが出来たようで、今後は普通にゲーム友達として一緒に居たいと言ってきたそうだ。
もちろん、今まで貢いだアイテムやゲーム内マネーは返さなくていいとのことだった。

男性プレイヤーは何て心の広い人なんだろう。
今まで貢いできた相手が実は男性でした、そういうわけでリアルではお付き合い出来ません、という悲しい結果になってしまったというのに。
本当のことを知っても今後も友達として一緒に遊ぶという選択もなかなか出来ないというのに、感心させられてしまった。

もし、私が騙される側になってしまったら、どういう反応をしただろうか。
怒るか、悲しむか・・・そういう状況にならないと分からない。

ちなみに英子は薄々ケンジが何か困った状況に陥っていたことには勘付いていたようだ。
ゲーム内にてケンジの操作している女キャラと男性プレイヤーの男キャラが一緒に並んでいる姿を見たこともあるようで、ははーん、これは何かあるなと睨んだようだ。

で、ケンジに何度かゲーム内で聞いてみたようだが、ケンジの反応がいまひとつだったことで、何か悩んでいることに気付いたとか。
本人から直接相談されない限りは何もしないでおこうと思ったらしい。
内心少しその状況が面白かったとも言っていたので、意地悪なところあるなぁって思ってしまった。

そして、善良な男性プレイヤーを騙したことについては少しばかりお説教をしたらしい。
ネカマやるならバレないように完璧にやりこなせ。
気合が足りん、中途半端にやるからこうなるんだと。

何というか、騙したことを注意したんじゃなくて完全に女性になりきれなかったことを注意したのか。
いいのかこれで?
プレイスタイルは人それぞれだから何も言えないが。

私も誰かに騙されないようにしよう・・・。

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