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逆噴射小説大賞自作品振り返り(後)

オープニング与太

 逆噴射小説大賞への最後の作品の投稿が終わった日、おれは戦いを終えた開放感の中、妙なイヌの創造した地下世界で新たな友達を作り最高の音楽で踊って、次の日には西部を訪れ冬キャン(人が死ぬ)に勤しみ、ハンティングしたり列車強盗を楽しんだ……あのメキシコでのコロナをめぐる命がけの銃撃戦は夢だったのか?おれは自分の放った銃弾を回想しはじめた……

システムメッセージ

(前の振り返り記事はこちら)

 今回の投稿作は全部で15作になったため、今回は9~15を振り返ります。全日参加を成し遂げた(上にどれも面白い!)人々にはリスペクトしかありません。私ももう数作ぐらいはやりたかったものの、参加スタートが遅かったのと残業に巻き込まれたりしたのが……終わってしまった以上は、現状投稿したものをしっかり振り返り、行けそうなものはキッチリ終わりまで書くという方向にシフトしたいところですね。

DAY9〜DAY12 全力で趣味に走る編

 DAY5~8の迷走、特に下手な流行乗っかりをやろうとして無残な死体になった2作が精神的にかなり効いていて、完全新規のネタも枯渇し始めたし、下手にジタバタするよりはとにかく自分の好きなものを好きなように書こう、過去に断片的に考えていたような物も加工して出してみようという時期ですね。
 とにかく趣味に走って好きに書いた分、世界観やキャラは濃いめの味付けで自分好み。各作品の要素が好きな方々には着実に刺さったのではないかと思います。一方で私が素で書いた場合にやりがち(結果推進力不足になって未完成に陥りがち)な冗長さとか受け身系主人公とかが姿を見せていて、ああこういうところがマズいんだなと気づいた側面もあり。

 重火器と翼とジェットエンジンに身を包んだ「巫女」たちが空を舞い、鬼たちと空戦を繰り広げる。その姿に魅入られていた主人公の家に、巫女の一人が落ちてきて……

 泥臭い現有テクノロジーとオカルトで武装したメカ少女、空中戦、空から落ちてくるヒロイン、始まるボーイミーツガール……つまり構成要素の全てが自分の趣味成分。
 最近の(主に艦これ以降の)いわゆる萌えミリ、戦闘美少女ものブームを喜んで享受しつつ、自分がやるならこういう雰囲気が好きだなーとモヤモヤ考えていたもの(数年前の途中放棄艦これ二次創作小説が恨めしげにこちらを見ている)をどうにか整形したもの。メカ少女が現代一般社会の中に存在していて、外敵と日常的に戦っているみたいなの大好きなんですよね。

 冒頭のシークエンスの映像が頭に浮かんだところから必死でイメージに食らいついて出力した感があり、その目的はある程度達成できた実感があるので自分の中ではかなり満足の出来。しかしスケールがでかくて続きを書くのはかなり骨が折れそう……やれるのかなあ。

 ハロウィン前の平日、夜道を歩いていると、魔女の格好をした浮かれた奴に遭遇。よくみると超めんどくせえタイプの先輩だった。そこから巻き込まれるは一夜の不思議な体験。

 いわゆるローファンタジーもの、という分類でいいんですかね。現代を生きる人間としてはやはり深夜の町は異能者と怪異の戦う世界であってほしいという願望があるんですよね。
 これはもう完全にこのめんどくさそうなヒロインを書きたかったがための話で、ハロウィン限定で「本物の魔女」をやるヒロインというアイデアは数年前に思いついてそのままフワフワしていたアイデアを再利用。
 お話としては緊張感や意外性がなく地味な感じになっているものの、「先輩」のセリフを書いていてとても楽しかったのは確か。お話自体は短めにまとまりそうな内容なので、ざっくり書いてみたい感じはする。

 シケたサイバネチンピラの支配するサイバーメキシコのシケた町に異装の女がやってくる。女は一刀のもとにサイバネチンピラを切り捨て、言う。「親の仇を探している」

 サイバーそしてメキシコ、西部劇のクラシックな決闘、サムライガール。そして何より悪党が出てスパッと死ぬ!パルプ要素のヨンダンウチタクティクスだ。
 趣味に走るやつが続いたので、ここらでパルプに立ち返って思いっきりシンプルに、かつストレートに人が死ぬやつをやろうと思って書いたもの。侍と西部劇の相性の良さは「七人」とか「サムライガンマン」とかが実証済みだ。まあアウトローやってる時点でどう考えても候ってはいないけど……
 多少無茶が効きそうな舞台設定を立てた上で、主人公の名前と能力、動機をハッキリと提示できているので、今回私が投稿した中では、逆噴射センセイが過去に言っていたところの「無限に物語を書くことができるフォーマット」に最も近い作品じゃないかなあと思うところ。
 主人公が無口な近接野郎なので、ここにサボタイとヴァレリア(投稿後に修正しました。初稿では魔法使いの女となっていましたが、最高の女であるところのヴァレリアと魔法使いのおじいさんが混濁していたようです……)が加わればPT構成もコナンになり最強の組み合わせになることが照明されている。とりあえず1エピソード書いてみたいですね。

 面会室に隔離された、他人の死に様が見えると語る少女。彼女の言葉を聞くうち、面接官の精神にも変調が訪れる。それを別室から眺める人々の姿。

 現代異能というか超能力もので、そこまで派手な破壊バトルとかにまでは発展しないスパイ物みたいな緊張感あるやつがやりたくなったもの。最近読んでいる途中の「ユービック」の序盤の影響がバリバリですね。他人の記憶とか認識をどうこうするのは「インセプション」っぽい。

 超能力少女の能力が明らかに本人の申告通りじゃなくて、完全にやべーやつだという感が出ているのは気に入っているものの、この後どういうテンションの話になるの?が提示できてないのはちょっとよろしくなかったかも。
 サムライガールとこれと、最初の語り手がくたばる流れが連続しているのも個人的にはイマイチだったものの他に思いつかず。もう一歩進めてモキュメンタリー風にして報告映像を見ている風にするとかはアリだったかなあ。本格的にやるなら色々構成とか考え直したいところ。

DAY13〜DAY15 バランス・オブ・パワー編

 最終盤です。このあたりになると何らかのコツを少しは掴めた感があり、シリアスとネタ成分のバランス、趣味と一般化のバランスみたいなものだったり、400文字に詰めるための文章のバランス構成などを身につける事ができた感があります(自惚れ)。
 なまじ最序盤の参加作が上手く行ってしまっただけに、以降はそこに届くようなものをもう一度やりたいと思いながらもがく戦いでしたが、このあたりの投稿作は自己認識としても反応の大きさから見ても十分届くことが出来たかなと思っています。グッドエンド感があり頑張った。

 東京は邪法の大魔術によって滅びた。町田を除いては。町田の寂れた土産物屋の店主の元に、秘密の符牒を話す一人の客が現れる。符牒に応じて「魔都東京土産」を出した店主の眼前に、拳銃が突きつけられた。

 関東というか東京ローカルの胡乱なネタ。この手のネタはかつて無残な死体になったものの、その後の逆噴射参加作品を見ていて「状況設定やキーワードはぶっ飛んでいてギャグなのに、登場人物の考えとやってることは完全にシリアス」というバランスこそが肝要なのかという、ベテランの書き手からすれば「今更かよ!」と言われそうな感覚にようやく気づきました。結果的にシリアスとギャグっぽさのバランス(DHTLS的に言えば右と左)が取れていてかなりいい感じに。
 世界観の着想的にはゲームの方のS.T.A.L.K.E.R.シリーズを意識していて、東京をZONEみたいな危険区域にして、町田を緩衝地帯としつつ、東京に侵入してアーティファクトを回収するストーカーが居たり、そこを軍隊とか傭兵が監視していたりすれば絶対面白いだろうという感じ。他の県境がどうなっているのかも想像が広がって面白い設定になった気がします。
 あと書いてる途中に符牒とかのネタにしようとして東京、特に多摩エリアの特産品を調べたらマジで何も出てこなくてビビりました。This city……

 傭兵たちがレシプロ戦闘機に乗り込み空戦を繰り広げる世界。大破した愛機の上で途方に暮れる主人公のもとに、およそ戦場には似合わぬ礼装の女が現れる。女の車には異国の航空機会社の文字があった……

 WW2期の戦闘機傭兵もの。「もの」と言えるほど一般に確立しているジャンルではない……。これは完全に羽根っ娘の人こと@CK_ariaze氏とその周辺の方々がTwitter中心に時々やってる武装民間機モノみたいなのをやりたくて書いたものです。亜人は出てこないけど。
 「おれが武装民間機モノをやるならこういう話をやりたいなあ」と燻って書き散らしていたものは元々あって、そこから世界設定だけ借りてキャラと物語を今回に合わせて生やしたもの。まあ今回範囲でほぼ設定出てないですが……
 一般人しかいない場で「好きな宮崎アニメは?」という流れでラピュタとかポニョとかが挙がる中「紅の豚だあ!!」(首ズバー)(マーヒッシュマティー)とぶちかまし場の空気を微妙にしがちな人種(つまりおれだ)のために書いたような内容。趣味に走りすぎたなーと思っていたら意外に反応が伸びて嬉しかったです。お蔵入りさせるには勿体無いので、元々考えていたものも含め、どうにか出力したい。

 e-sports先進国(自称)になった日本。賞金総額20億の大会に挑む主人公が初戦で取った戦略は、露骨なバグ技の悪用だった!世紀のバグゲーで行われる史上最大最悪のゲーム大会の行く末とは!?

 これは我ながら本当に良い出来で、投稿前の時点でこれは完全にクリティカルだろうと自惚れていましたが、実際かなり評価と反応が頂けてうれしい。ありがとうございました。
 最終日ということで自分の起源に立ち返った話をやろうと考え、それが何かと言えばゲーム以外ないなと。ゲーム題材の小説となると「猫耳猫」こと「この世界がゲームだと俺だけが知っている」が大好きなので、だからこそアレと同じことをやってもしょうがない……ただでさえVRMMOものは飽和時代……FPSとかSLGとかは小説にするよりその舞台の話をそのまま小説媒体でやったほうが……時代はe-Sportsだし、MOBAとか格ゲーを思わせる対戦ゲームでバグゲーやったらどうだろう? DECIDE THA デスティにー……
 という具合で一気にアイデアが湧いてきて、書きまくり削りまくりでこれができました。書いていて最高に楽しかったし、書いては削りの繰り返しの結果めちゃくちゃ情報が圧縮されていてスピーディーで、間違いなく楽しいことになるセットアップができていて最高ですね(熱い自画自賛)。
 チームメイトや対戦相手などのアイデアもいろいろ浮かんでいるので、あとは面白いバグのアイデアを色々蓄えたらきちんと決勝戦まで書きたい。実際にこのゲームが出てしまう前に……

おわりの与太

 思った以上に上手く行った傑作もあれば、自分でも納得のいかない作品も作った。ほとんど書いたり投稿したことのなかったおれが15作も世に出したんだ。もう十分に戦った……

「とでも思っているな?」

 おれの後頭部にリボルバーの銃身が突きつけられた。

「逆噴射センセイも言っている。完結させろ」

「物語に作者が出てきてキャラが作者に苦言を呈するのは大昔のちょっと恥ずかしい文化だぞ」

「これだけやって本当に続きを書かなければお前は真に恥ずべき腰抜けだ」

 BLAM!おれの部屋に銃声が響いた。

【続く】

タイトル画像: Photo by Jens Lelie on Unsplash

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