「ほんまいろいろあったんじゃけー」広島への全盲子連れ旅!2日目)後編)

 同じ県内といえども、広島市から大久野島までは意外と遠い。
 まず私たちは広島駅から新幹線で三原駅まで向かった。こだまということもあり、車内はそれほど混んでいなかった。
 タイミングが良いことにひなちゃんも抱っこ紐の中でお昼寝タイムに入った。
 乗車中T先生には出張で行った場所の話や、好きな歌手の推し活の進行状況について聞いてみた。
 本当に推しというのは日々の生活に張りをもたらしてくれる素晴らしい存在なのだろうと思う。
 これといった推しの無い私は、推しといえるほど熱中できる事物に出会えている人々にあこがれすら感じる。未だ、何を、いつ、どのように、いくら支払うことで推し活をしているということになるのか、いまいち分かりかねている私は世の中から置いて行かれているような気もする。
 新幹線が無事三原駅に到着すると以前お昼ご飯を食べた駅からほど近いお好み焼き屋さんに向かった。三原駅での乗り換え時間は1時間あり、そこで昼食を取ろうと画策していたのだ。
 意気揚々とお店に辿り着くもその日は定休日となっていた。Google マップでは営業中となっていたのだが…。私たちは
 「そんなこともあるよな」
と気を取り直し、別のお店を探した。ところが他のお好み焼き屋さんは1時間半待ちであったり、つけ麺のお店や、中華料理屋も定休日だったりと行く当てが無くなってしまった。
 旅行に予定外は付き物だと頭で分かっていても胃袋は言うことを聞いてくれない。貯蔵メーターがあるとするなら既にE線は切っており、なおも減り続けている。
 かちかちと時計の音が聞こえてくるような気がした。
 最後の手段とばかりに、私たちは駅前のパン屋さんでたくさんのパンを買い込み電車に飛び乗った。
 またしてもお昼ご飯の待ちきれなくなったひなちゃんが騒ぎ出したためひなちゃんだけフェリー乗り場までの道中でパンを食べることになった。何度も繰り返されてきたテンプレだ。
 駅に到着するとフェリー乗り場まで10分程度歩いた。道すがらT先生はアヲハタジャムの工場がすぐ近くにあることを教えてくれた。広島駅周辺とは打って変わって海沿いのとても静かな街だった。
 思いがけなく、朝のパンに塗っているアヲハタのイチゴジャムの聖地巡礼ができたような気がした。
  フェリー乗り場に着くと他にもたくさんの観光客が船の到着を待っていた。みんなでチケットを買い、少しの待ち時間で買ってきたパンをもそもそと食べた。丸くてこんがりと上がったサクサクのカレーパンはガス欠寸前であった胃袋を急速に満たしていった。
 大久野島に着くとさっそくたくさんのウサギを見つけた。えさを求めぴょこぴょこと飛び回るウサギの多さに圧倒されていると、ひなちゃんは
 「にゃんにゃん、にゃんにゃーん。」
と大声でウサギに呼びかけながら後をついていき始めた。
 もちろん、おぼつかない足取りでウサギの掘った穴にも一つずつ丁寧に落ちながら進むひなちゃんがウサギの脚力に勝てるわけもなくどんどん置いて行かれた。それでもあきらめずまた別の近くで寛いでいるウサギを見つけては近づこうとするひなちゃんの粘り強さには我が子ながら感心した。
一瞬にしてひなちゃんの推しはウサギに決定したのだろう。
 ひなちゃんの手足が熱くなり、頭から湯気が出始め疲れの色が見えたところで私たちはビジターセンターへバスで向かった。道中もたくさんのウサギをバスの窓から見つけては
「にゃんにゃーん。」
と呼びかけていたのは言うまでもない。
 ビジターセンターではウサギの形をしたクリームケーキや、タコせんべいなどのお土産を買った。ひなちゃんもちゃっかりウサギのぬいぐるみを抱っこし、離さなくなってしまったため、ぬいぐるみも予定外の購入となった。
 フェリー乗り場行きのバスの発射まで少し時間があったため、ビジターセンターの前のベンチでお茶を飲みつつ休むことにした。相変わらずひなちゃんは周りをきょろきょろと見回しウサギを探しているようだった。
 深呼吸をすると濃い潮の香りのする冷たい空気が入ってきた。浜辺に「とっぷん、とぷん」と寄せる瀬戸内海特有の穏やかな波の音が聞こえ眠くなってきた。真上から降ってきていた温かな日差しも気づけば、傾き横から差し込むようになっていた。
 みんなで来た時と同じ道をたどり、三原駅まで帰ってきたときには前日と同様すっかり辺りは薄暗くなっていた。
 T先生とは三原駅で分かれ、私たちは大阪に向け出発した。
 途中お好み焼きをあきらめきれなかった私たちは福山駅で1度下車し、近くのお好み焼き屋さんでお持ち帰りのお好み焼きを手に入れた。お好み焼きにありつけるよう前もって予約の電話をし、乗り換え時間にお好み焼きをゲットするという夫の妙案が功を奏した。
 今回の全盲子連れ旅は、広島の人々に会い、観光名所を巡り、名物をたくさん食べる、最後まで、広島に彩られたひと時となった。
 T先生を始め、たくさんの人々に手伝ってもらえたことでこの旅行を充実したものにすることができた。
 次、もし大阪に来てくれることがあれば、こんどは私たちが全力でおもてなししたいと思っている。

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