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Back to the Futureのデロリアンはなぜ実現しないのか。

Back to the Futureを見直した。スクリプトも構図も素晴らしい。ロバート・ゼメキスが抱いている戦後の強いアメリカに対する一種のノスタルジーを感じる。この人がフォレストガンプの監督であるのも納得である。どうやっているのか分からないが、プルトニウムから1.21 GWの電気エネルギー(正しくは電力)を取り出す反応炉をデロリアンの筐体の中に収めてしまうだけでも相当な発明なのだが(普通の蒸気タービンなら原子力潜水艦くらいの大きさにはなる)、時速88マイルに到達し青い閃光を一瞬放ってから異なる時空へと消失してしまうマジックには心をくすぐられる。ちなみに雷の電力は平均900 GWで閃光時間は1 msである。つまり落雷と電線への接触タイミングを合わせるなんてそもそも不可能なので、雷のエネルギーをバッテリーに貯めるか、あるいはパンタグラフのような構成にする必要がある(見た目がダサいので即却下だろうが)。雷からしたら時速88マイルのデロリアンなど止まっているも同然である。フラックスキャパシタは相対速度で移動対象を識別しているのだろうか。それなら地面のアスファルトも一緒にえぐられてタイムスリップしない説明にはなる(だとするとパート3の蒸気機関車の一部もデロリアンと一緒に移動しないとおかしい)。プランクスケールにおいて量子揺らぎのために時空が前後する事はあったとしても、(マクロスケールという意味で)あんな巨大な物体が指定された時間まで瞬間移動するような物理現象が本当にあったとしたらワクワクする。映画では2015年には反重力装置が一般車に普及しているが、現実にはプロトタイプすら完成していない。ジュール・ヴェルヌ曰く人間が想像する事は必ず実現できるらしいが、今のところ全然実現していない。Back to the Futureの映画公開時は3歳だったので残念ながら最初に映画を観た時の記憶はないのだが、Back to the Future part IIの影響で小2の夏休みの自由研究でタイムマシンを作ろうとしたのは覚えている。あの時の研究を書道教室に通うために中断しなければ2015年には間に合ったかも知れないのに。

編集やCGによって本物の反重力装置やタイムマシンに見える映像が作れるとしても、現実の技術としてこれらが実現しないのはなぜか。それはこうした現象がより根本的な物理法則に関わっているからである。自動車のような重工業において技術開発に必要な物理法則は根本的には熱力学の範疇を出ていない。つまり1800年代の産業革命から根本的に変わっていないという事である。水や空気を暖めると体積が膨張し圧力が上がる。茶釜と自動車のエンジンは同じ物理法則を言い換えているだけである。半導体産業の本質は電気の導通を制御する技術でしかないが、量子力学なしには成立しない。産業革命以降の人類の発明は全て熱でモノを動かす技術と、電気を通したり止めたりする技術の2つに帰着する。逆に言うとこの2つしかない。この2つだけで大陸間を移動したり、月にロケットを飛ばしたり、携帯電話というテレパシー装置を作ったり、インターネットという第2の宇宙を作り上げている。もっと言えば熱力学は物理学の第一原理ですらない。単なるマクロな現象の記述であり、原理ではない。人類の技術文明とは、詰まる所ぜいぜい熱と電気と光を制御できるようになった程度のものでしかない。世の中に多くのサービスが生み出され、日々イノベーションが起こっているように錯覚させられているのだが、根本的なところで技術はほとんど進歩していない。巨大資本という社会装置のおかげで工業生産力が飛躍的に向上したのであり、根本的なところで技術的な進化があったわけではい。UFOを持つ文明から見れば鼻で笑われるレベルだろう。彼らに鼻が付いていればの話だが。反重力装置やタイムマシンは物理学の根本法則に関わる技術であるため、熱力学や半導体レベルの量子力学では、つまり現在の産業の基礎レベルの物理法則に対する理解では到底扱えない代物なのである。スマホの新機種を開発するようなノリで作れるものではない。30年もあれば撮影スタジオを手のひらサイズに小型化するのは造作ない事かも知れないが、時空や力を制御するのはそれとは全く次元が違う。

やっている事は映像編集と根本的に大差ないのだが、仮想空間であれば時空や力の操作は可能である。第2の宇宙では物理法則すら書き換え可能だからである。逆に言えばインターネット上の物理エンジンの開発を通して、実際の物理空間の計算原理が明らかになる事もあるかも知れない。時間を進める事と演算とは等価かも知れない。演算がなければそこにあるのはデータだけで時間とは単なる幻想である。(モニタ越しではなく没入型の)仮想空間内に物理エンジンを構築してBack to the Futureの世界を再現するのは2040年くらいには出来ている可能性はある。マクロスケールでは現実とシミュレーションの区別がつかなくなってしまうだろう。もし力や物質が量子計算の副産物であるならば、時空を量子コンピュータとして操作する事で力や物質の制御も可能になるのかも知れない。

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