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日本の是非論。~野球vsサッカー~

2024年3月29日。
この日はNPBの開幕戦が行われたが、これに先立ち大谷翔平の通訳・水原一平氏が違法賭博で解雇されるという衝撃ニュースが走った。

この騒ぎの直前まで日本のテレビ局は挙って大谷を追いかけていた。
そのため野球ファン以外からは「テレビ局と野球の癒着ぶりが酷い」という反感からⅩ(旧ツイッター)上を中心に「野球/大谷ハラスメント」 という言葉まで出回るほどだった。

考えてみれば、日本で男の子として生まれて暮らしていると「野球とサッカー、どちらが優れたスポーツか」という是非論をよく耳にする。1993年にJリーグが開幕したがこの時野球の首領である渡邉恒雄と、サッカーの旗頭であった川渕三郎が大将同士で激しい一騎打ちを繰り広げた。当事者同士は既に和解しているが、これに倣い巷でも
「野球好きでサッカーが嫌いな人」と
「サッカー好きで野球が嫌いな人」の言い争いが
水原の不祥事で再燃したといえる。

手前味噌で恐縮であるが、筆者もまた「てめえはどっちの味方だ?」とよく凄まれた回答を求められたものだった。筆者は野球とサッカーで応援チームが一つずつある手前、いつもこう答える。
「どっちも見ている。野球にもサッカーにも応援チームが決まっているので、この争いに興味はない」

そもそも野球とサッカーは互いを参考にした箇所も多い一方で、根本から仕組みが異なることから『この競技ならでは』と呼べて真似できない箇所も多い。水原に便乗するわけではないが今日は「野球vsサッカー」の是非論で既に上がっている仮説を一通り見てみようかと思う。

【野球がサッカーに勝てていると思える箇所】
・日本ではテレビ局が味方
・礼儀正しい子が多く、口答えする子が少ない
・駆け引き要素の多さ
・得点が入りやすい
・走り続ける必要がない/カラダに優しい
・休憩時間を確保でき、間食やトイレ離脱はしやすい
・試合を打ち切りやすい
・接触によるケガは少ない
・統計を出しやすい
・覚えなくてはいけないチーム数が少なくて済む

「日本人の国民性と調和する『野球』」
「野球の勝ち」と思える箇所を素人感覚ながら挙げてみた。
世界的にはサッカーの市民権が上回っているにもかかわらず、日本ではまだまだ野球の牙城を崩せていないと感じる大きな要因が先頭2つの「テレビ局が味方」と「礼儀正しい子が多く、口答えする子が少ない」箇所だと思う。
NPBの最大手といえば読売新聞を親会社とするジャイアンツだが、「世界で一番売れている新聞」でもあり、新聞の子会社たるテレビは高齢者からの信頼は未だに篤い。水原の不祥事で水泡に帰したが、大谷を挙って密着していたのも「野球を守りたい」テレビ局の本音が窺える。
また野球の仕組みと日本人の民族性が調和している。野村克也曰く「男子憧れの職業。軍の司令官、オーケストラの指揮者、野球の監督」で「野球は監督の采配で決まる」上意下達が原則の競技といえる。これは日本の歴史上長年「忠と孝」が道徳とされてきた儒教思想と大変合っているからこそ、多くのファンを手にでき今尚心を寄せる秘訣だろう。一方のサッカーはいち選手が自分の意見を忌憚なく述べることができる競技である。上意下達を原則とする野球ひいては日本社会ではモノ申し過ぎる部下はやはり嫌がられやすい。
いずれにせよ監督手腕がよりモノを言う競技なのは間違いないと思う。駆け引きの上手い監督であれば、巨大な監督権限が吉となり勝てて楽しい。

「得点が入る競技」
スポーツの世界では「客を呼びたいなら点を取れ。勝ちたいなら守れ」という決まり文句がある。優勝するチームは得てして失点の少ない順だが、観客が喜ぶのは点が入った時だ。一撃で最大4点というのは1点ずつが原則のサッカーよりは豪快さで上回るといえる。

「カラダに優しい野球」
試合中にトイレに行きたくなったら離脱しやすい方を挙げるなら野球だろう。プレー中は勿論、見ていてもサッカーはトイレに行けるチャンスがハーフタイムくらいしかないのに対し野球は攻撃時で打順が遠ざかっている時なら自由に行動できる。
また試合中走り続けなくてはいけないサッカーに対し、休憩の多い野球の方がカラダに優しいといえる。松田直樹など循環器系の病気を患うサッカー選手がいるのに対し、プロ野球選手は喫煙率は高いが…。

「試合を打ち切りやすい『コールド』制度」
試合をしていると急な悪天候に見舞われたり、序盤で点差が付きすぎることもある。この時試合を打ち切れるのが『コールド』制度だ。高校野球や社会人野球の本戦以上やプロ野球の場合はギブアップ不可だが、日を改めて再現してやり切る必要のあるサッカーよりは天候による打ち切りの融通は利く

「数字にして振り替えられる」
野村克也の「ID野球」などデータを駆使した戦術を考えやすいのが野球だ。現在では打率や防御率は勿論、OPS、QS率をはじめとした「セイバーメトリクス」で多角的に振り返ることが可能だ。
一応サッカーにも統計やサッカー戦術はあるが野球に比べて細かいとは言い難い上に、流動的で忙しい試合中では用いづらいように見える。

【サッカーが野球に勝てていると思える箇所】
・世界的に競技人口量は上
・自分の意見を述べやすい世界
・野球より金銭トラブルやパワハラが少ない
・ルールがシンプル
・ユニフォームがオシャレ
・道具代が安い
・狭くても遊びやすい
・時間が決まっている
・ドラマやバラエティー番組への邪魔が少ない
・女の子の参加ハードルが低い
・「プロらしくないチーム」の存在を許さぬ、いい意味でのシビアさ

一方でサッカー有利といえる状況もまたこれだけあるように見える。「野球vsサッカー」の口論において、まず誰もが口にするサッカー優位の柱は
「世界的に競技人口量は上」だといえる。サッカーのレジェンドである釜本邦茂も「サッカーは地球のどこでも通用するが、野球は日本とアメリカを行き来するだけ」と言われて目の前に広がる世界の広さを魅力に感じた釜本はサッカーを選んだとされる。直近のWBC(2023)ではチェコ代表が本業の片手間で試合に出場して大いに注目されたが、

日本国内
サッカー:750万人
野球:730万人

で世界では
サッカー:2億5000万人
野球:3000万人
とのこと。

「自分の意見を述べやすい世界」
野球の項で述べた「礼儀正しい子が多く、口答えする子が少ない」の対極にあたる。全員とは言わないが肌感覚で見る限り、サッカー部は野球部に比べると「チャラくて行儀悪い」イメージは否定しにくい。プロでも最終戦後のセレモニーの類で真面目に話を聞いている選手は映像を見る限り少ない。
しかし一人一人が自分を持っているボトムアップ型で「指示がないと何もできない」人間にはならないように見える。トップダウンが主流の日本では上の決定に物申す態度に眉を顰めるお偉方はまだ少なくないかもしれないが、最後に頼れるのは自分自身だ。
先述通りサッカーのドンたる川淵三郎が野球のドンたる渡辺恒雄とやり合っているさなかに述べていたが、『会社ありきのプロスポーツ』を打破したのがJリーグである。会社ではなく地元を応援するスタンスはスポーツの垣根を大きく下げた事績は間違いないだろう。

「ルールがシンプル」
ルールの明快さで言えばサッカーの勝ちだろう。野球のドンである渡邉恒雄はもともと野球に興味がなかった人物であり、「なぜ打ったら三塁に行かないのか?」「セカンドとショートはどっちが一塁に近いんだ?」と東京ドームで側近に聞く調子だという。とはいえ競技について関心のないお偉方がトップに座るのはさほど珍しいことではない。
「何故こうしなければいけないのか?」という場面での説明をする解説という仕事もあるにはあるが、競技に入っていく距離で行けばルールのシンプルなサッカーの方が短い

「ユニフォームがオシャレ」
これも個人的な感想になるが、2つの競技を見比べるとサッカーの方がユニフォームは格好いい。緑系は芝の色と被るので些か見辛いかもしれないが(イタリアでは緑のユニフォーム禁止。2022~)、12チームしかないのに3チーム(ヤクルト、オリックス、西武。一時期は中日も。)がネイビーに偏るプロ野球よりは色の引き出しが多い。強いて課題を挙げるなら「2ndユニがほとんど白」が味気無さ過ぎるくらいか(ちなみにJFAの規約に「黒のユニフォームは作らないで」というのはある。個人的に悪法と思っているが)。当方が派手好みなだけかもしれないが、それでも一昔前の野球で多かったグレーのビジターユニよりはいい。
ユニフォームとは少し違うが「野球部は坊主が決まり」も野球のポイントを落とす素でもある。慶応高校の甲子園優勝(2023)で流れが変わる可能性はあるものの「選手が坊主じゃないのはおかしい」オールドファンの声より、「坊主が嫌で野球部に行かなかった」声は野球人口を削ぐ素に思えてならず慶應の優勝は「坊主強制」を見直す転機に思う。
一筆添えると坊主の似合う人は
・頭がボール型
・目か鼻のパーツがデカい
・額が広い
・前がM字
・ヒゲと相性はいい
当方が「坊主頭が似合う」タイプなのでよく判るのだが、坊主は合う合わないは分かれる。

「道具代が安い」「野球より金銭トラブルやパワハラが少ない」
野球の壁を感じる項目の一つに「道具代」がある。サッカーはボールさえあれば遊べるが、野球だとバットにグローブと必要経費がどんどん嵩む。
費用面で行けば学校の野球部にいたっては応援でバスをチャーターするし、野球界隈はお金の使い方が豪快な印象は強い。

「狭くても遊びやすい」
都会に住んでいると遊べる場所が少ない。公園で遊ぶには球技は安全性が低く、子供が遊ぶとクレームを入れる高齢者も近年は増えている。チームに入らないと遊べない垣根の高さもあるが、狭くても遊べる方が生き残りやすい。サッカーはゴール一つでもなんとかなるが、野球は4つ拠点が必要で減らせても3つまで。潰しの効き易さで劣る。

「時間が決まっている」「ドラマやバラエティー番組への邪魔が少ない」
野球よりサッカーを選ぶ人の意見が目立つ項目の一つに時間の問題がある。天皇杯など引き分けが許されないトーナメント方式のゲームは当てはまらなくなるが競技時間は決まっており、競技時間が長引くとやる方も見る方もダレてしまう。
一昔前の野球中継に対する反感意見も多い。デジタル放送の開設やDAZNなどの中継サービスの台頭などで現在は地上波での野球中継は減ったが、昔は野球が乱打戦になると番組が遅くなったり潰されたりで「野球のそこのけそこのけ」ぶりに対する不満は少なからず聞こえる。

「野球より金銭トラブルやパワハラが少ない」
パワーハラスメントという点で野球では直近で安樂智大、サッカーもチョウキジェや永井秀樹などの例はある。
しかし野球は「黒い霧事件(1969~71)」「脱税事件(1997)」「賭博問題(2015)」などカネ絡みのトラブル事例は多い。サッカーも代表監督であるアギーレが八百長に関与したのが素で失脚しており潔白とは言わないが、市場規模で行けば先述通りテレビを味方につけている野球の方が大きい。だが動かせるお金の大きい分、トラブルのリスクはそれだけ高くなる。

「女の子の参加ハードルが低い」
サッカーの強みというより野球の弱みとなる項目だが、野球は女子の競技人口が少なく、「男女同権」を理念とする五輪に敬遠されることが多い。そのため女子野球を始めている(2009)。2019年時点で競技人口3000人と徐々にその数を増やしているうえに、小学生チームでも女子選手は見かけるようになった。それでも野球が盛んな地域が今なお少ない上に、世界一になったことがある(2011)女子サッカーと互していく上で小さくないハンデといえるだろう。

【意見が分かれるまたは、賛否拮抗していると思える箇所】
・チーム数の多寡/昇降格制度の是非論
野球とサッカーの言い争いでおそらくもっとも拮抗している意見が『昇降格制度』の是非論と考えている。プロ以上のみの話になるが、2024年開幕戦現在で野球は12(2軍参入した静岡、新潟は除く)、サッカーは60チーム(J3以上)ある。
チームの多寡こそNPBとJリーグで最も違う箇所だ。そしてどちらの制度にも長所短所はある。

「覚えなくてはいけないチーム数が少なくて済む」
チーム名を覚えるなど覚えるのが苦手な人を遠ざける点ではチーム数が少ない野球の方がメリットはある。最終的に川淵は100チーム作りたがっているが、サッカーの水戸というチームは「よく名前を間違えられるチーム」の常連だし、横浜F・マリノスと横浜FC、川崎フロンターレとヴェルディの見分けがつかない人もサッカーに触れない層には多い。
一部では16チームに増やしたがっている人もいるが、「人口1000万人に1チームが妥当」という学説通りなら現状が最も均衡している。よって自分から調和を崩す働きは心配を禁じ得ない。サッカーでは横浜フリューゲルス、野球では大阪近鉄バファローズと帰る場所を失った選手やファンの存在を忘れてはいけない。「やってみて失敗」だけで済めばいいが、元に戻らないものはある。この手の是非論になると少なくとも一人は「やってみてダメなら元に戻せばいいじゃん」という発言をするが軽率に過ぎる。

「『プロらしくないチーム』の存在を許さないい意味でのシビアさ」
チームを少なく絞ることでチームを回しているNPBだが、このやり方にも欠点はある。それは「『プロを名乗るに値しないチーム』がお咎めなしで存在し続ける」ことであろう。特に横浜ベイスターズはTBS資本時代(2002~11年)の「10年間で最下位8回」という類を見ない恥ずかしい記録を残した。当時の実態としては既に多くの画像に上がっているが、この間「横浜高校や東海大相模と戦っても負けるのではないか?」など物笑いの種になっても最高機密たるオーナー会議に守られていたらファンはどんなに不満でも手も足も出ない。
これに対しサッカーでは昇降格制がありプロを名乗るに値しないお荷物チームには降格という制裁が下されるのはある意味当然の結果である。直近ではNTTを母体とする大宮の降格が世間を騒がせた。カウンターが社風なのにポゼッションに拘り続けた姿勢が裏目に出た方針の問題もあるが、フロントの拙い経営で失敗を重ねた末の妥当な結果に過ぎない。残留争いに巻き込まれることの精神的ストレスは勿論存在するが、それ以上にかつてのTBSベイスターズのような『プロじゃない』チームが居座り続ける疑問は大きい。こういうチームに制裁を与える措置がNPBには未だなく、「昇降格制度の導入してはどうか?」とファンが推奨する向きは絶えない。

「まとめ(というほどのものでもないが)」
最初の方でも述べたが、応援チームが野球、サッカーとも一つずつある当方は片方の競技だけ肩入れする気はない。「あなたの好きな方についていけば?」というスタンスなのであれこれ言う気はない。
今回いろいろと調べてみて、あるいは思いを巡らせてみて
「どちらも団体競技だけど、
上意下達の好きな人、保守的な人、素直な子の評価が高い人、一つのことに拘る人またはターン制が好きな人なら野球派だろうな。
逆に個人主義、新しいことに前向きな人、上役へのモノ申すが多い人、または絶えず動き続ける流動性の合う人はサッカー派だろうな」
という所感は漠然と感じた。
いずれにせよ「野球とサッカー、どちらが優れた競技か」の論争は続くだろう。いつか改めて貴方が『野球vsサッカー』の是非論を考察するとき、拙文が参考になれば幸いである。野球もサッカーも結局はゲームであり、より楽しい方に人はついてくる。

<参考文献>
『野球vsサッカーに関するアンケート調査』野球とサッカーどっちが好き?カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社様
『野球とサッカー…どっち?』シルリン様
『おやじスポーツ、野球はこのまま衰えるのか?』 東洋経済オンライン様
・『サッカー派と野球派はなぜ仲が悪いのか?』HUFFPOST様
・『意外? 大学生に聞いた、サッカーと野球どっちが好き?』マイナビ様


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