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また刺繍を始めようか。根をつめない程度に。

子どもの頃から「手芸」がそばにあった。
布、糸、ボタン。
家の中にあふれていた。

洋服もカバンもぬいぐるみも、母の手作り。
幼稚園のときに着ていたスモッグに、母が可愛いお花を刺繍してくれたことをよく覚えている。
他の子はワッペンを貼っていることが多かったのだけど。

母がずっと何かを作っているから、私も作ることが好きになった。
特に好きだったのは編み物。
小学生の頃から編み針を持って、せっせと何か作っていた。
お友達と元気に外で走り回るより、1人でものづくりをしているほうが好きだった。
夏休みの工作の宿題には、クロスステッチで猫を刺繍したクッションなど、大作を作った。
絵はド下手、工作も不器用、ただひたすら細かい作業を根気よくやることだけが得意だった。

作りたくなるのは、とにかく「ややこしそうなもの」。
編み物の本を買ってきて、その中で一番ややこしそうなものを作りたがった。
高校生くらいになると、5色の糸を編み込んだり、機械編みかと思うような複雑なアラン模様のセーターにも挑戦した。
レース編みも好きだった。細いレース糸を細いかぎ針でひたすら編んでいく。苦手な人にとったら気が遠くなりそうな作業だが、楽しくて仕方がなかった。

このように私はいかにも人が嫌がりそうな、「めんどくさっ!」と言いたくなるようなものに惹かれて仕方がなかった。
一度、源氏物語絵巻を日本刺繍で表した作品展に行ったことがあり、その面倒くささMAXの刺繍にぞくぞくした。あれはすごかった。

関係ないかもしれないが、昔は高校野球が好きで、よく甲子園に行っていたのだが、スタンドがゴミだらけになっているのを見て、「あー、この広いスタンドのゴミを1人で片付けてみたいっ!」という変な欲望に駆られていた。
汚れたものを磨くのも好きで、使わなくなった置き時計が埃まみれで見つかったとき、母に頼んで磨かせてもらったことも覚えている。
とても複雑な形をしていたので、磨くのが楽しかったのだ。磨いても使わないのに。
「変な子ね」と、若干引かれながら母に言われた。

ややこしいもの、面倒なものが好きで、ものすごい集中力で1人の世界に没頭するから、子どもの頃に母に一番注意された言葉は、「根をつめないでね」だった。「勉強しなさい」でも「片づけなさい」でもない。とにかく「根をつめすぎないで」とばかり言われていた。
そう、とにかく根をつめるのが好きな子どもだったのだ。

しかし、そんな私も社会人になってからは、手芸から離れた。
仕事に追われて時間もなかったし、昔と違って手編みのセーターを着るような時代でもなくなっていた、ということもある。
引っ越しても結婚しても衣装ケースいっぱいの毛糸は持ってきたが、編み物をすることはほとんどなくなった。

再びややこしい手芸をやりたくなったのは、病気になってからだ。
2016年に抗がん剤をやることになったとき、「家から出られないし、暇つぶしになるようなことはないか」と考え、久しぶりに手芸をやることを思いついたのだ。
本屋さんに行き、手芸コーナーでいろいろ見ていたら、刺繍の本に目がとまった。
パラパラめくってみると、モチーフがなんとも可愛い。
刺繍は本格的にやったことはなかったが、「面倒くさそうだな」と思ったら、例の性格に火がついてやりたくなった。

その時に気に入って買ったのが、樋口愉美子さんの刺繍の本だ。見ているだけで幸せになるような可愛いモチーフ。すぐファンになった。

樋口愉美子さんの刺繍本


母に「刺繍やろうかな」と言うと、「昔使ってた本があるわ」と何冊か持ってきてくれた。
その中に「こぎん刺し」があった。
こぎん刺しとは、津軽地方の伝統的な刺し子で、野良着の補強性と保温性を高めるために刺されていたようだ。これがまたとんでもなく細かい。
見るだけで面倒くさくてたまらない。もう私の好みにぴったりで、モチーフを見ているだけで興奮した。

始めるにあたり、手芸キットか何かないかとネットで検索していたら、フェリシモにあったので、早速取り寄せた。
やってみると、やっぱり私好みの超絶面倒くさい作業!難しい技術は全く必要なく、いるのは根気のみ!
こういうのが最高なんだ、なんてぴったりのものを見つけたんだと、それから暇さえあればチクチクこぎん刺しをやっていた。

キットでは飽き足らず
コースターをいろいろ作った


最近はまたやっていないが、もし治療が始まって家で療養生活が始まったら、久しぶりにこぎん刺しや刺繍でもやって暮らそうかなぁと、そんなことを考えていた。
そうしたら、少し前にnoteを見ていたら、ハナムラタケ子さんがこんな記事を書かれているのを見つけた。

樋口愉美子さんが新しい刺繍の本を発売した出版記念として、蔦屋書店で作品展をやっているというのだ。
それも、ハナムラさんが行かれたのは大阪の枚方にある蔦屋書店とのこと。
枚方なら車で30分かからない!行ける!
作品展は2月20日までで、この時はまだやっていた。行ける!
うれしくなって、自分も樋口さんの刺繍が好きなこと、作品展に行きたいことなどコメントさせてもらい、週末に夫に車を出してくれるように頼んだ。

蔦屋書店のビルの4階一角で


思っていたよりこじんまりとした作品展だったが、初めて樋口さんの生の刺繍作品を見て興奮した。
美しい、かわいい、素敵!!

近くでの撮影は禁止だったので遠目で
雰囲気だけ

ハナムラさんも書いていらしたが、今回出版された本の中の刺繍を自分でするための、刺繍糸セットが売られていた。これは便利。
迷いに迷ったが、春の「庭仕事」の刺繍糸を選んだ。刺したら額にして飾ろうかな。

庭仕事の刺繍ページ
もちろん本も購入

今回は一年を通して、季節ごとの行事や身の回りの生活を刺繍のモチーフにされていた。
例えばおひなまつりなら、こんな感じ。

三色団子がたまらん

あんまり中身を見せるのも良くないと思うので、もう一つだけ。
樋口さんは動物や花、雑貨などのモチーフか多く、「人」はあまり見たことがなかったので、新鮮に映った。

子供たちが雪合戦!

本や写真でも可愛さは伝わると思うが、実物はもっとイキイキとしていた。
絵画でも陶芸でもそうだが、やっぱり画集では伝わらないものがある。作者の魂みたいなものが宿っているのが見えるのは、実物だけだ。

作品展行けてよかった。ハナムラさんに感謝!
療養生活も始まるし、これからまた刺繍をやろうかな。根はつめないように……。

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