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今年の誕生日プレゼントは、健康回復だった。

5月26日は私の誕生日だった。
夫に欲しいものを聞かれたが、これといって思いつかない。子供の頃から物欲の塊人間だったのだが、自分で稼いでは買い求め、稼いでは買い求め……ということを何十年も繰り返していたら、いつの間にかもう欲しいものはなくなってしまった。今買うのは、本と必要最低限の服や化粧品くらいだ。

それでも夫がしつこいので、なんとか候補を絞り出して、最近気になっていた「切子のぐい吞み」と「日傘」を候補に挙げてみたが、いよいよ購入するからと、「どれよ?どれにする?」と色や形を迫られると、「やっぱりいらんわ」と言ってしまった。

いらん、というか、ネットでの購入だったので、どうせなら自分の目で見て、手で持って確かめて、自分で買いたいと思ったからだ。
なんだろうな……、私は昔から人に「モノを買ってもらう」ということが苦手だ。苦手を通り越して、これはもう苦痛に近い。
勝手にプレゼントされるとか、食事をごちそうしてもらうとか、そういうことはすんなり受け入れられるのだが、なぜか「欲しいものない?買ってあげるから」というシチュエーション(もちろん、そんな偉そうな言い方じゃないのだが)を受け入れることができない。特に高価なものは。
たとえばそれがハンカチとか小さな花束とか、それくらいの気軽なものなら嬉しいのだが、高価な贅沢品はどうしても自分のお金で買いたいと思ってしまうのだ。貴金属(アクセサリー)などとんでもなくて、婚約指輪ですら私は辞退した。(そんな無駄なものを買うくらいなら、美味しい酒でも飲みに行こうと夫に言った)

まあ、私がそういう人間だということは、夫は百も承知のうえなので、「やっぱりいらん」と言うと、わりとすんなり引いた。
その代わりに夫は「土日で温泉に行くから」と言い出したのだ。

28(土)・29日(日)の1泊2日で予約してくれたのは、京都・北白川にある「えいせん京」という温泉宿だった。家から車で40~50分で着く。
ネットで調べてみると、ラジウム温泉だと書いてある。京都にラジウム温泉があるなんてまったく知らなかったのでびっくりした。
私にとって「ラジウム温泉」といえば、鳥取の三朝温泉だ。取材とプライベートの旅行と合わせて、これまで3回訪れたことがある。
ラジウム温泉はラドンを含む温泉で、微量の放射線が出ているため、ガンに効くといわれている。それで、最近もよく「仕事が暇になったら1週間くらい三朝温泉に湯治に行ってこようかなー」なんて話していた。
それで、夫はラジウム温泉で、さらに家からも近いその温泉宿を選んでくれたのだ。最近私の体調が悪く、家でもふさいでいることが多かったからだろう。

15時にチェックインだったので、ちょうど着くように家を出た。
外観からは想像できないくらい中はおしゃれで、とても居心地の良い空間だった。

リビング
リビングからテラスにも出られる
シンプルで落ち着く寝室
ワイングラスがこんなに!
洗面台もおしゃれ。ドライヤーはダイソン!

何より嬉しかったのは、部屋に露天風呂が付いていたことだ。もちろん出てくるお湯はラジウム温泉だ。

石造りの湯舟

私はもともとお風呂嫌いで、「体がきれいになれば良し」とシャワーで済ませることが多く、とにかく「湯船に浸かる時間がもったいない!」と「寝る時間がもったいない!」と言い続けて生きてきたのだが、ここ数年は「お風呂に入ること」と「寝ること」を大事にするようになっている。
特に体調が悪い時に温かいお風呂に入ると楽になるので、最近は出張先のビジネスホテルのユニットバスでもお湯をためて入るくらいになっていた。だから、温泉付きの部屋なんて、跳び上がるほど嬉しかった。

宿には大浴場もあったので、最初にそちらにも行った。宿には4室しかなく、どうやらこの日は私たちともう1組しか泊まっていないようだったので、大浴場も貸切だった。
豊富に湧き出るラジウムを含んだお湯。湯気を吸いこむのも体に良いらしいので、噴き出し口の横でずっと深呼吸をしていた。

部屋の温泉もよかった。温度は42℃くらいに設定されていて、外気温はやや低めだったこともあり、ずっと入っていられる気持ちよさ。
結局私は1泊2日の間に6回もお風呂に入った。「カラスの行水」と言われていた私からは考えられない。それくらい良い泉質だったのだ。

ちなみにこのお宿、食事もすごく美味しいのだが、ボリュームがありすぎるのがちょっと難点。私は大食漢だったのに、最近は飲み食いがあまりできなくなっていて、この日もコースの最初の「八寸」と「椀物」だけで、もう食べられなくなってしまい、次の「お造り」を少し食べたらもうダウン。
残すのは申し訳ないので、宿の方に事情を話して、私のコースだけストップしてもらった。
自分が信じられなかった。これからまだ3品もあったのに。それもメインの加茂茄子フォアグラ焼きや、牛肉の蒸ししゃぶなど……。

夫だけが食べているのを見ながら、涙が出そうだった。泣くのをこらえた。
自分がなんだか情けなくて。
私は一体いつからこんなふうになってしまったんだろう。あんなに食べるのも飲むのも大好きだったのに、今は食事の場が苦痛になっている。「全部食べられるかな」「お酒飲めるかな」と不安で仕方がないのだ。そして、だいたいその不安は的中し、序盤でしんどくなってしまう。この日もお酒は半合を飲むのがやっとだった。
最後の鯛飯をひと口と、デザートだけなんとか食べた。ふらふらしながら部屋に戻った。「ご飯を残すこと」を憎んで生きてきたので、そのことが辛くて仕方がなかった。作ってくれた人のことを思うだけで、泣きたくなった。

そんな感じで食事はうまくいかなかったのだが、本当に居心地の良い宿で、温泉もすごく体にやさしくて、翌朝起きると元気になっている気がした。
宿のおじさん、おばさんも優しい人たちで、年に一度は泊まりたい宿になった。「次は元気になって、食事も全部食べられるようにリベンジします」と伝えた。絶対実現したい。大食漢の自分を見せつけたい(ちょっと違う)。

そして、後日。

温泉から帰った日から体調が明らかに変わった。「あれ?なんか元気なんですけど……」と私。ずっと痛かったお腹も痛くないし、体の奥から力が湧いてくる。なんだか昔みたいだ。

温泉の翌々日から仕事で秋田へ行った。1泊2日の出張取材だ。
カメラマンさんと秋田の居酒屋で食事をしたが、ホタテ焼き、ハタハタの干物、ワカサギ揚げ、しょっつるから揚げ、じゅんさいなど、いろんなものを美味しく食べられ、お酒も1合半くらい飲めた。もちろん取材もバッチリだった。

そして今日。
朝起きた時からさらに調子が良く、すぐに花壇の手入れをした。これまではやりたいことがあっても、「ちょっと横になってから……」「明日にしよう……」とのびのびだったのに、やりたいと思うとすぐに動けた。
体がとても軽い。どこも痛くない。
ああ、そうだ、体ってこんな感じだったよなと思い出した。
こんなふうに自由で、こんなふうに軽いんだった。
体の底から常に力が漲っていて、何でもできる気がするんだった。
そうだ、この感じだ。思い出した。

たった一度のラジウム温泉が効いたとは思わないが、あれからとにかく調子がいい。最近、他にもいろんなことを試していたのも相乗効果でよかったのかもしれない。(それについてはまた別の記事で)
でも、少なくとも、あのラジウム温泉から元気になったことは間違いないわけで、夫には感謝してもしきれない。最高の誕生日プレゼントだ。

あの宿は家も近いし、日帰り入浴もやっているので、月に一度くらい通ってみようかと思っている。
ああ、このままずっと、元気な私でいたい。もうそれだけだ。

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