見えぬ輝き、夜の呼吸

 おとといから、金木犀の残りが香っている。咲ききらなかった花、雨に流されなかった蕾。
 微かな香り、それを捉えても深呼吸することができない。布で覆われた顔、制限される呼吸。入ってくる空気は私の呼気で澱んでいる。
 それでも、夜の誰もいない帰り道。街灯の内側、前後を見回して、黙って素顔で深呼吸した。ほんの僅かな金色の微粒子が、肺を通り血管を流れた。
 そして次の街灯に向けて歩き出す。舌に甘い感触、一瞬だけの贅沢。


今日の英語:Secretly

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