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怪物・佐藤輝明 衝撃デビューの可能性

こんばんは。
いよいよ明日に迫った2021年のプロ野球開幕。
敬虔な阪神ファンである私は午後から休暇を取っていますが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

さて、阪神タイガースの開幕戦で注目すべきポイントとして、ファンのみなさんは以下の2つを真っ先に挙げるのではないでしょうか。

■開幕投手・藤浪晋太郎のピッチング
■怪物ルーキー・佐藤輝明のデビュー

いずれも物凄く楽しみな話題ですが、前者については振り返りnoteをご覧いただくとして(宣伝)、今回のnoteではタイガースが誇る怪物ルーキー・佐藤輝明がどのようなデビューを遂げるのか、プレシーズンのデータを読み解きながら考えていきたいと思います。


オープン戦成績

★新人離れした破格の好成績

12試合 43打数13安打 6本塁打①
.302/.333/.744
OPS 1.078④ ISO .442①
K% 31.1%

キャンプ中の練習試合で衝撃的なデビューを飾った後も好調を維持しながらオープン戦に臨み、最終戦を除く12試合にスタメン出場。
そのオープン戦でも3試合連続を含む6本塁打をマークし、純粋な長打力を示すISOでは規定打席以上で12球団トップとなる.442を記録するなど、プロ入り前の評判にたがわぬ破壊的なパワーを見せつけました。

K%が31.1%(規定打席到達者38人中ワースト5位、平均19.6%)となったように三振が多く脆い面も見せていますが、ヤクルトの若き主砲・村上宗隆はK%が34.0%(同3位)でありながらOPS1位をマークしているように、ルーキーイヤーであることや選手タイプを勘案すると深刻な問題ではないように思います。

オープン戦・K% ワースト
35.8% 紅林弘太郎
35.1% クロン
34.0% 村上宗隆
31.9% 塩見泰隆
31.1% 佐藤輝明

左のパワーヒッターであり、逆方向への一発も光る村上宗隆を一つのモデルケースとして、以下でさらに細かく成績を見ていきます。


打席でのアプローチ

★荒削りのアプローチながら、スラッガーとの類似点も

ここからはオープン戦に加え、細かいデータを取得することのできた練習試合3試合(2/16・27・28)を対象として考察します。
先ほど挙げた"三振の多さ"の背景には、どういった要因があるのでしょうか。

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Contact%/SwStr%/O-Swing%、佐藤輝明の同指標はいずれもNPB平均を下回る水準にあり、空振りの多さやボール球を追いかけてしまう傾向にあることが三振の多さに結びついていると言えそうです。

ここで再びベンチマークとして、ヤクルト・村上の同指標の年度推移を見てみます。

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村上はルーキーイヤーの2018年終盤に一軍を経験。翌2年目に一気にレギュラーへと駆け上がり、いきなり36本塁打を放つ活躍を見せました。
一方、1-2年目のK%および各指標を見るとかなり荒いアプローチを見せていたことが分かります。各年の打率は.083/.231であり、荒削りなパワーヒッターそのものというスタイルであったと言えるでしょう。

興味深いのは、オープン戦における佐藤の同数値が村上の1-2年目の中間程度にあたる水準となっている点です。村上が未完成のアプローチながらパワーを武器に一軍で結果を残したように、村上に勝るとも劣らないレベルの類稀なるパワーを持つ佐藤が、ルーキーイヤーから村上のプロ2年目(.231 36本塁打)と同程度の成績を残しても決して不思議ではないと考えます。

再び村上の指標を見てみると、一軍定着2年目となった2020年は指標が大きく改善し、K%が平均をやや上回る程度に止まることで率も長打も残せる強打者へと変貌を遂げました。
振り返ってみるとルーキーイヤーだった2018年の二軍におけるK%は19.7%と概ね平均レベル。二軍レベルでは飛び抜けて三振が多いタイプではなかったことが推測され、一軍のレベルの高さに適応しきれなかったことにより三振が極端に増加していたことが考えられます。

今後数年間の推移を考える際、佐藤がプロの二軍クラスでプレーしたときに村上と同程度のK%を残すかどうかについては不明確な点があるものの、村上が一軍のボールに適応するまでに要した2年間、あるいはそれ以上の期間を経て、佐藤が村上のプロ3年目と同等クラスの成績を残すまでに本格化していく可能性は十分高いと言えるものと思います。

そのためのカギとなっていきそうな指標はO-Swing%で、村上の場合には成績を残したプロ2年目にかけて急激な改善が見られます。
いかにボールになる変化球に手を出さず、甘いボールに絞ってスイングをかけられるかという点は今後数年間にわたっての課題となりそうです。


球種別成績

★速球への無類の強さ&落ちるボールに対する脆さ

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球種のタイプ別(直球系・曲がる系・落ちる系)で特筆すべきは直球系への強さです。オープン戦で放った6本塁打はいずれも直球系で、特に対右で打率.429・4本塁打をマークしました。

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球速別に見てもアマチュア時代には決して多くなかったと思われる145km/h以上の速球に対して好成績を残しており、レベルの高いプロで活躍するために極めて重要な要素である「速球対応」という点に関して現時点で不安がないのは優れた特徴と言えるでしょう。

また、曲がる系に対しても左右ともに高打率を記録しています。特に左投手の投じる曲がる系球種は主に左打者から逃げる軌道となるため、SwStr%:29.4%が示すようにバットに当てることの難しいボールですが、サンプルこそ少ないものの打率.400が示すようにコンタクトできた際にはしっかりと捉えられていると言える可能性があります。

一方で今後要対応となってくると考えられるのは「落ちる系」。左右合計で10打数ノーヒット・空振り率32.4%が示すように、現時点ではプロレベルのフォークやチェンジアップに対応できているとは言い難い結果です。
ただし2020年のNPBにおいて被OPSがフォーク:.517・チェンジアップ:.604であったように、そもそも落ちる系球種はNPB全体で見ても攻略困難なボールです。ルーキーイヤーに、ましてや開幕直後にこれらのボールに対応するのは現実的でないことから、落ちる系球種が多く投じられる2ストライク以前(=追い込まれる前)に好球必打を意識することの方が先決と思われます。


投球チャート

★得意コースで積極的にスイング

ここからは投手視点の投球チャートでプレシーズンの結果をまとめていきます。

まずは直球系から。

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左右ともに直球系にスイングを仕掛けやすいコースは、高めおよびベース板の真ん中付近のゾーンに集中しています。一方で最も遠い外角低めのコースにはあまり手を出していません。どんな打者にとってもアウトローのコースは簡単ではないため、本人が意図しているかは定かではないものの「難しいボールには手を出さない」という割り切りは非常に合理的に感じます。

また、6本塁打はいずれも追い込まれる以前にスイングを仕掛けやすいコース(上述)のボールを捉えたものです。
「難しいボールには手を出さず、得意なコースは見逃さずに積極的に仕掛けていく」というスタイルがここまでの好成績に結びついていると言えそうです。


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主に身体に向かって入ってくる軌道となる右投手の曲がる系の球種に対しても、高めあるいはベース板の真ん中付近のゾーン中心にコンタクトしている様子が見受けられます。インローで空振りが目立ちますが、以前スライダーnoteで触れたように、同コースは右投手にとって最も効果的なスライダーのロケーションであることからやむを得ないものでしょう。

追い込まれてから高めに浮いたボールを3安打しているように、柔軟なアプローチも光ります。

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一方左投手の曲がる系球種が外角低めに決まった際にはかなり手を焼いており、空振りが多くなっています。佐藤のように重心の高いフォームの左打者の宿命と言えるかもしれませんが、長期的な視点で見ると同ゾーンのボールをいかに見極められるかはキャリアを左右するポイントになってくるでしょう。
ただ、プロ1年目の選手としては必ずしもこういったボールを攻略する必要はないと考えます。開幕前の段階から真ん中より高めのボールを2安打できているように、時折投じられる失投を一定程度の確率で捉えられていれば十分合格点を与えられるのではないでしょうか。

金本知憲氏
>逆方向へのホームランなども見たが、コースとしては真ん中から外の甘めぐらいのところ、あとは高めに抜けてきた変化球とかが彼のツボだろうけど、今のところはそういった打てる球が来た時にしっかりと打ち返せているという印象で、思っていた以上だなとは感じている。


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最後は現時点で明確に苦手傾向を示している「落ちる系球種」
低めのボールゾーンにバットが止まらずに空振りしてしまうケースが非常に多く見られます。ここまで超人的なプロへの対応を見せている佐藤であれば落ちるボールへの対応さえもこなしてしまう可能性もあるのかもしれませんが、一般的にはこの部分が短期で劇的に改善するとは考えにくい状況です。
球種別成績の項で述べたように、落ちるボールそのものをケアするよりも、追い込まれる以前の好球必打を心がけることのほうが重要と思われます。

Plate Discipline系指標の項でヤクルト・村上との比較を行いましたが、村上のプロ2-3年目の球種別の得点増減(100球あたり)も確認してみましょう。

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プロ2年目のシーズンはスライダーに明確な弱点がある一方、ストレートやフォークに対しては一軍平均レベル以上の成績を残すことができています。
現時点の佐藤と比較すると、速球対応は佐藤・村上ともに○、曲がるボールに関しては佐藤に分があり、落ちるボールへの対応は村上>佐藤といったところでしょうか。
ただし、村上の2019シーズンは二軍レベルとはいえプロの投球を一年間体験した後のものであるという点は考慮すべきでしょう。村上がスライダー系を3年目にかけて克服したように、佐藤が一軍の投球を体感し、落ちるボールに対応できないという弱点を経験でカバーしていくことも十分に期待できます。


まとめ

ここまで佐藤輝明のプレシーズンの成績や傾向について、ヤクルト・村上宗隆との比較を交えながら見てきました。
プロのボールを目の当たりにして日が浅い段階でありながら、NPBの一軍クラスの投手に対しても結果を残し続けている佐藤の特徴は以下の通り。

・新人離れした長打力はNPBトップクラス
・三振やボールゾーンスイングの多さが目立ち、打席におけるアプローチは粗さも感じられるものの、ヤクルト・村上のプロ2年目と同程度との見方もできる
・真っ直ぐ系に強く、145km/hを超える速球も苦にせず打ち損じも少ない
・高めあるいはベース板真ん中のコースにツボを持ち、同コースに投じられた場合には積極的にスイングを仕掛ける
・現時点では落ちるボールが明確な弱点であり、今後数年間の課題となる

荒削りな部分や弱点ももちろんあり、ペナントレースを迎える上で不安な点もありますが、それを補って余りある魅力をひしひしと感じています。
多くのプロ野球ファンの予想を上回るペースでホームランを量産した佐藤輝明がプロの世界でどんなことを成し遂げてくれるのか楽しみであるとともに、そんな選手が贔屓チームでプレーして成長していく様子を見ることができるのはファン冥利に尽きます。

では最後に個人的なルーキーイヤーの成績予想を。
村上のプロ2年目と比較しつつ、経験の少なさや落ちるボールへの対応分を割り引き、広い甲子園を本拠地としていることも考慮して以下のように予想します。

100試合 打率.220 20本塁打

なにはともあれ、大きな怪我なくルーキーイヤーを完走し、我々ファンを毎日楽しませてくれることを心から願っています!


データ参照:


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