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Pitching Summary 2020 西勇輝

こんにちは。
いよいよキャンプが始まりワクワクが止まりません、あおとらです。
テレワークをフル活用してキャンプリポートを見逃さないよう心掛けています。

阪神の記事は4か月以上ぶりになるようですが、2021年シーズンに向けた取り組みが進んでいる中、大変遅ればせながら2020年の振り返りをしていきたい所存でございます。

第1回は阪神のエース・西勇輝投手です。


成績

21試合 11勝5敗 4完投 2完封
17QS① 10HQS③
147.2IP② 115SO④ 28BB
ERA2.26③ FIP3.77⑤
K% 19.8%
BB% 4.8%
WAR 3.7④
(丸数字はリーグ順位、WARは投手のみ)

毎年安定して成績を残し続ける西ですが、阪神への移籍2年目の2020年シーズンは防御率でキャリアハイ勝利数はキャリア2位と真のエース格にステップアップした一年となりました。
抜群の制球力と投球術に磨きがかかり、四球の少なさ(80イニング以上でBB%リーグ5位)はそのままに、K%は昨年から3%以上アップさせ、より支配的な投球へと進化。
QS数はリーグでトップと、安定したゲームメーク能力にかけてはいまやリーグNo.1の存在と言えるかもしれません。


投球割合

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左にはスライダー・シュート・チェンジアップをバランスよく、右にはスライダーとシュートによる左右の揺さぶりがメインで、ストレートの投球割合が極めて低い点が特徴です。
19年にはストレートを30%程度投じていたことを考えると、意図してシュートを投じていたのか、ストレートのシュート成分を強めた結果なのかは定かではありませんが大きな変化と言えます。
シュートとともに投球割合が上昇したのはチェンジアップ。19年の右:6%・左:16%からそれぞれ18%・33%と大幅上昇しており、後述する質の向上と合わせて昨シーズンの投球を支えたことが感じられます。


球種別球速分布

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140キロ前後のシュートを軸に、130キロ前後のスライダー・チェンジアップをバランスよく交えます。110キロ台半ばのカーブの投球頻度は多くありませんでした。
2019年と比較したときに球速に変化があったのはチェンジアップ。2020年の平均球速129.2km/hは19年の132.0km/hから3km/hほど低下しており、球速を落として変化量を大きくしたことが推測されます。
年間通じて球速の大きな変化がない点は、10年以上一軍のローテーションを守り続ける西だからこそでしょう。


投球ヒートマップ

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対左については基本的に外中心の構成で、アウトローに逃げていくシュートとバックドアで外から入るスライダーでカウントを整え、外もしくは低めにチェンジアップを落とすという配球が窺えます。チェンジアップの三角形◢の分布が美しいですね。
対右ではシュートをインコースに、スライダーをアウトコースにと左右で揺さぶりをかける様子が見られます。チェンジアップは遠い外中心に落とし、時折投じるシュート気味のストレートはバックドア風に外から入るような軌道を描きます。ストライクゾーンを幅広く活用する投球術が垣間見れますね。


球種別スタッツ

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投球の軸となるスライダー・シュート・チェンジアップの三球種はいずれもPitch Valueがプラスを記録しており、これらの球種が90%以上を占めるのは理にかなった配球であるように思います。
トータルの空振り率9.6%は19年の7.7%から2%近く上昇しており、年間で50球程度空振りが増えると考えると大きな変化と言えるでしょう。上昇の要因はたびたび言及しているチェンジアップで、19年:14.4%→20年:17.8%と奪空振り能力の向上はもちろん、投球割合を大幅に上昇させたことから、質・量ともに投球内容の向上に寄与しています。
主要三球種の被打率は19年対比ですべて改善しています。BABIPの大幅な低下(19:.281→20:.243)に助けられた面はあるようですが、チェンジアップの良化による相乗効果も一定程度あるものと思われます。


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左右別の成績を見比べてもどちらかを苦手にするということはありません。
抜群の制球力に加え、左右それぞれに変化する質の良い変化球と落ちるボールを併せ持つことの有効性を感じます。


カウント別投球割合

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さらに細かく、カウント別で見ていきましょう。
追い込むにつれチェンジアップの投球割合が上昇する傾向にありますが、左右問わず初球でもチェンジアップをある程度投じるようです。
追い込むまでは主要三球種の選択割合が似通っており、配球にランダム性があることから、打者は狙い球を絞ることが難しいのではないでしょうか。


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上図はカウント別の投球数・被打率・SwStr%を示したものです。
ストライク先行もしくは並行カウントでの被打率は低く抑えられていることに加え、2ストライク時の被打率の低さが際立ちます。

2ストライク時の球種別成績
スライダー  :.129(70-9) / 40奪三振
シュート   :.169(83-14) / 26奪三振
チェンジアップ:.121(99-12) / 43奪三振


スライダー

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ここからは球種別/カウント別に。
対右打者では大半がアウトコースの際どいゾーンに投じられており、高い制球力を表しています。
西のスライダーは縦変化成分の少ない純粋な横曲がりのスライダーに分類されるタイプに見える通り、ベース板上で打者の膝元より低めに投球されるケースは多くありません。
追い込んでからはボールゾーンで空振りを多く奪っており、打者がゾーンを広げる傾向をうまく利用した投球術が光ります。

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一方左打者にはゾーン内を幅広く活用しながら、決して真ん中のコースに甘く入らないよう細心の注意を払っている様子が見られます。
とりわけ初球はバックドアやインローの際どいコースでの見逃しストライクが目立ち、カウントを投手優位に進める上で重要な役割を果たしていると言えるでしょう。
追い込んでからは内角低めへの投球が少ない傾向があり、一般的に右投手の左打者内角低めへのスライダーが空振りを奪いやすいことを考慮すると、もう一段活用の余地はあるかもしれません。


シュート

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右打者へのシュートはインコースへの投球が中心で、詰まらせた当たりのゴロアウトを量産しており、シュートによるゴロアウト75個は2位の広島・九里亜蓮の48個を大きく引き離しNPBトップです。

シュートによるゴロアウト数
西 勇輝(神) 75
九里亜蓮(広) 48
大竹 寛(巨) 26
小川泰弘(ヤ) 20
美馬 学(ロ) 19

凡打になるケースはストライクゾーンの真ん中の高さが多く、"ゴロアウトを狙うには低めに投げるとよい"という一般的な言説とはやや異なっており、興味深い傾向だと思います。

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左打者には逃げるような軌道で外中心の配球。
安打を浴びるケースも少なくはありませんが、初球のシュートに手を出してくる打者は案外多くないようで、ストライク率が高い点が特徴的です。
また、フルカウント(図の右下)における投球はストライクゾーンギリギリ・外角の際どいコースに精度高く集中しており、素晴らしい制球力を発揮しています。


チェンジアップ

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右打者へのチェンジアップは低めボールゾーンでの空振り狙いの投球がメインであり、SwStr%こそ高くないものの初球においてもその傾向が見られます。
一般的な右投手のチェンジアップは逃げる軌道になる左打者に特に有効な球種となる傾向が強いボールですが、西の場合は"スプリットチェンジ"と呼ばれるフォーク寄りのチェンジアップであることから右打者からも多くの空振りを奪うことができています。

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左打者に対しては上述したように分布が◢のような形状で、右打者に比べゾーン内の投球割合が高い傾向にあります。
左打者にとってはやや逃げる軌道になることから、空振りを奪うだけではなく、泳がせてゴロアウトを稼ぐ投球も可能であり、25個の三振と37個のゴロアウトで被打率.128をマークしました。

対左打者・チェンジアップ被打率(30打数以上)
西 勇輝(神) .128 (94-12)
上沢直之(日) .133 (30-4)
マルティネス(日) .135 (37-5)
遠藤淳志(広) .172 (58-10)
涌井秀章(楽) .182 (33-6)


ストレート

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対右(上)のストレートは外角の際どいコースへの投球が多く見られ、シュートに近い軌道でバックドアによる見逃しを狙う投球のように思われます。
全体の投球割合に比例するようにも思いますが、ストレートの投球数はシュートの直後が最も多く(直前の投球がシュート:19、スライダー:16、チェンジアップ:10)、インコースの厳しいゾーンをシュートで突かれた直後に投じられる外のストレートは相当遠く感じるのではないでしょうか。


カーブ

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投球割合の少ないカーブは初球もしくは浅いカウントで見逃しストライクを稼ぐケースがそれなりにあるようです。


最後に

FA移籍から2年間、球団やファンの期待以上に申し分のないパフォーマンスで、成績でも、姿勢でも投手陣を引っ張る存在となっている西投手。
今シーズンで31歳とまだまだ若く、今後数年間にわたり阪神タイガースの先発ローテーションの柱としてチームの中心であり続けてほしいと思います。

当記事内の画像や表をスクショ等していただいて構いませんので、ぜひぜひ感想をお待ちしております!

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