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Pitching Summary 2020 青柳晃洋

こんばんは。
藤浪晋太郎 vs 佐藤輝明に虎の近未来を見た、あおとらです。

2020年の阪神タイガースを振り返る、第2回は青柳晃洋投手です。


成績

21試合 7勝9敗 1完投
13QS⑤ 3HQS⑰
120.2IP⑥ 88SO⑧ 44BB
ERA3.36⑥ FIP3.15④
K% 17.3%
BB% 8.6%
WAR 3.1⑥
(丸数字はリーグ順位、WARは投手のみ)

プロ5年目の昨シーズンは離脱することなく、度重なる雨ニモ負ケズローテーションを守り続け、2年連続での規定投球回を達成。阪神投手陣には欠かせない存在となりつつあります。
50イニング以上の投手で1位のGB%:63.7%に表れる通り、"クォータースロー"から投じられる力強いツーシームでゴロを量産するスタイルは長打のリスクが非常に低く、四球癖も改善されたこの2年間は安定して試合を作ることができる投手に成長しました。


投球割合

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左右ともに投球のおよそ半分をツーシームが占め、右打者には大きく曲がるスライダーを、左打者には2020年に習得したシンカーを多く投球します。
2019年に被打率.450と打ち込まれたチェンジアップをシンカーに置き換えることで、左打者対策に一定の効果を上げました。


球種別球速分布

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速球系(ツーシーム・ストレート)は平均140キロ台前半、アンダースローに近い投球フォームながら昨季の最速は147km/hと、日本球界においては稀有な存在と言えます。
メインの変化球であるスライダーは120キロ台前半、スライダーに比べ小さく変化するカットボールや新球種のシンカーは130キロ前後。緩急をつけるタイプではありませんが、球速帯には幅があります。


投球ヒートマップ

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左右ともにメインとなるツーシームはベース板の右側・低めを中心に投げ込む傾向が強いことが分かります。
左対策のシンカーはツーシームの投球コース周辺に散らしており、ツーシームとの軌道偽装・緩急差を活用していたようです。バックドアのスライダーやインに食い込ませるカットボールもあり、ゾーンの内外を幅広く使っています。
右打者への大きな武器であるスライダーは外角ボールゾーンが中心。インコースのツーシームと組み合わせることで打者により遠く感じさせる投球となっています。


球種別スタッツ

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メイン球種であるツーシーム・スライダーのPitch Valueはいずれもプラスを記録。特にスライダーはSwStr%こそ7.4%(2019:10.0%)ですが被打率.136とほぼ攻略困難なボールでした。
左用のシンカーは指標こそ平凡ですが、19年に打ち込まれたチェンジアップを置き換えることができたという観点からすれば効果の高い改善と言えるように思います。

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対右打者においてスライダーの被打率は.070(43-3)と球界トップクラスのボールであり、ツーシームの空振り率12.2%にも反映されるように他の球種にも相乗効果を及ぼす強力さを持ち合わせています。

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対左被打率は.288と19年(.332)から5分近く改善。右打者に比べて相対的に苦手としていることには変わりませんが、シンカーの導入とシーズン途中のプレート位置変更(三塁側→一塁側)で苦手を克服しつつあります。


カウント別投球割合

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カウント別の投球割合で見ると、カウントの浅いケースやボール先行のカウントではツーシームがメインです。
右打者には2ストライク時にスライダーが大幅に増加し、外のボールで空振りを狙うケースが多いようです。
一方、左打者に対しては追い込むにつれツーシーム以外の球種が増加しますが、球種に偏りはなく、決まったウイニングショットを持つ投球ではありません。


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右打者に関しては打者優位の浅いカウントで打たれるケースは少なく、強力なスライダーが増加する2ストライク時の被打率も非常に低く抑えられています。課題があるとすれば1ストライク時の投球で、ツーシームが.424(33-14)と打ち込まれていることを考えると、もう少しカットボール等を活用することを検討しても良いかもしれません。
左打者には0ストライク時の被打率が高く、特に初球は.500(30-15)とカウントを取りにくるボールを狙い打たれている可能性があります。追い込んでからは楽な投球を実現できていることから、左打者をいかにして追い込むかが今季以降の課題となっています。


ツーシーム

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右打者へのツーシームは基本的にインロー中心。ツーシームでのゴロアウトが100を超えるように、詰まらせたゴロアウト狙いであることが窺えます。
ただし、バックの守備のまずさも多少あるのかインローの被打率はかなり高く、むしろ外寄りや高めのボールの方がとらえられる確率は低いようです。

ツーシームによるゴロアウト数
青柳晃洋(神) 120
ニール(西) 80
バーヘイゲン(日) 76
石川 歩(ロ) 56
大野雄大(中) 49

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左打者にも投じるコース自体は同様の傾向があり、左にとってはアウトローにあたります。
真ん中のコースに入った際に安打を浴びるケースが多く見られますが、アウトローに決まった場合には一定程度抑えられており、制球に注意を払う必要があるようです。


スライダー

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右打者へのスライダーは外一辺倒の傾向を示していますが、ここまで配球が偏りながら好スタッツを残すことからも相当なボールであることが分かります。
先ほどのツーシームもそうでしたが、制球難に苦しんだ時期は既に脱しており、明確な意図をもって各球種を制球できていることが明らかです。

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対して左打者にはバックドアで見逃しストライクを稼ぐシーンが多く見られ、打者にとって曲がりの大きなスライダーをスイングすることの難しさを感じる結果となりました。
苦手な左に対し、安定してカウントを整えることができる球種の存在は相当大きいものと思います。


ストレート

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右打者への投球割合は12%と多くありませんが、ストレートはアウトコース中心に、シュートしてゾーン内に入ってくるような軌道で活用しているイメージです。
意外にも真ん中より高めでの空振り三振も5つ記録しており、アンダー気味の腕の振り特有の浮き上がるような軌道を活かすことも一つの手かもしれません。

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左打者にはインコース中心の投球で、初球は特に見逃しストライクを稼ぐケースが多そうです。
こちらも高めの空振りがそれなりにあり、逃げていくツーシーム・シンカーとの対を作れている可能性があります。


シンカー

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レジェンド・山本昌直伝で昨季より導入したシンカーは、左打者の低めを中心に空振りを誘う球種として一定の効果を発揮しました。
見逃されるケースも多くありましたが、今季以降更なるブラッシュアップに期待がかかります。
シンカー導入による効果はツーシームにも表れており、左打者にシンカーを投じた直後のツーシーム被打率は.063(16-1)と完全に抑え込みました。
緩いシンカーの直後に似た変化で速いツーシームを同コースに投じることで、打者を差し込めていることが分かります。


カットボール

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カットボールは投球割合こそ多くありませんが、スライダーに比べ小さな変化でゾーン内に投じる球種として使用しているようです。
高めに"抜けカット"的に投じられるボールでの空振り・凡打もあり、ストレートと併せて"高めの使い方"は投球の幅を広げる上でカギになってくるかもしれません。

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左打者には比較的内角に食い込むように投げる傾向があり、シュート気味に入るストレートと反対のボールとなっています。


プレート位置の変更

昨季の青柳投手は開幕直後に好調な滑り出しを決めたものの、夏~秋にかけて相手打線に左を並べられるなどの対策を講じられ、しばらくの間苦しい投球が続きました。
そんな状況を打破するべく、投球時のプレート位置を三塁側から一塁側に変更する大きな決断を下しました。

「角度が左バッターに対してついちゃうから、(ボールと打者との距離を)詰めれるところっていうので始めてみた」。これまで三塁側を踏んで腕を振っていたプレートの位置を福原投手コーチの提案で、9月23日のDeNA戦から一塁側に変更した。「三塁側で投げてたけど、左の内角に良いところに投げても(打者が)打つところは前になる。(一塁側なら)良いボールが角度のないボールになるんじゃないかと」

結果的にこの決断も相まってストロングフィニッシュに繋げたわけですが、シーズン中の変更は投球にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。


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プレート立ち位置の変更前後で対左における各球種の成績を比較すると、SwStr%・被打率に改善が見られます。
スライダーやストレートの良化に加え、とりわけシンカーの指標の大幅な改善が目を引きます。

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シンカーの投球チャートを変更前後で並べてみると、ボールゾーンへの投球が多いにもかかわらず空振りが目に見えて増えている様子が確認できます。
左の内角に投じるボールをより近く感じさせることで外のボールに踏み込みづらくさせ、逃げながら落ちるシンカーに手が届かなくなったことが推測され、まさに変更は狙い通りの効果を発揮していたようです。
スライダーについてもリリースポイントの関係からかZone%が大きく向上していることや、対右成績も悪化せずトレードオフとならなかったことも含め、この変更が青柳の投球にもたらした実りはかなり大きいものだったと言えるでしょう。


最後に

個人的に同世代ということや、ルーキーイヤーの投球を現地で観戦して球の速さに驚いたこともあり、最も好きな投手の一人である青柳投手。
今シーズンは自身初の二桁勝利を達成して、晴れやかな青柳投手のヒーローインタビューを数多く見られることを期待したいです!

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