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この"フォーク"がすごい!2020

こんばんは。
家でやりたいことが多すぎてステイホームがありがたい、あおとらです。

昨日のカットボール編に続く第4弾、「この"フォーク"がすごい!2020」です。
ここでは"フォーク"と"スプリット"を対象にしています。


1. フォーク/スプリットのNPB平均

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フォークはNPB全体で4番目、スプリットは11番目の投球割合(両者を合計するとカットボールを上回り3番目)。
平均球速はフォークが135km/h程度で、スプリットはフォークよりも3km/hほど速い138km/hとなっています。

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両球種の球速分布を確認してみると、スプリットの方が明らかに速いというわけではありません。ただし、フォークの分布の右側がややえぐれたような形状となっており、フォークとスプリットを合計するときれいな正規分布に近づくことから、"速いフォーク"を"スプリット"として分類している傾向はありそうです。

ちなみに今シーズン中にフォークとスプリットの両方を投じた投手は3名(中日・清水達也、ヤクルト・吉田大喜、日本ハム・吉田輝星)で、両球種を明確に投げ分けていたのは清水のみでした。
清水のフォークは平均134km/h、スプリットは平均137km/hとなっています。

フォークとスプリットの比較に話を戻します。
空振り率は全球種中でワンツーを張り、落ちるボールの強力さを感じさせます。フォーク(18.8%)のほうがスプリット(17.8%)を若干上回っており、フォークは球速が遅い分、落差が大きい傾向があるのではないかと推測されます。

フォークの被打率は全球種中2位の.199、OPSとwOBAは全球種中1位であり、こちらについても落ちるボールに対応する困難さを表しています。
スプリットについては指標がフォークよりはやや劣りますが、これがスプリットという球種の特性なのか、投げている投手の質に依存するものなのかは判断が難しいところです。


2. フォークの各種成績

① 投球割合(総投球数100以上)

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投球割合トップはオリックス・神戸文也で、投球の半数近くをフォークが占めています。

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神戸の持ち球を見ると、フォーク以外のPitch Valueはマイナスであり、被打率.111で唯一Valueがプラスのフォークを多投する配球はピッチセレクションの観点から合理的なものではないかと個人的には考えます。
4位のロッテ・澤村拓一は移籍後にフォークの割合を増やして成績向上、8位の阪神・馬場皐輔は今季スプリットを多投することでブレイクを果たすなど、ストレートに固執することなく指標の良いボールを積極的に投じることは、投球に良い影響を与えるのではないでしょうか。

もう少し掘り下げて、カウント別のフォーク投球割合は以下の通りです(各カウント総投球数100以上)。

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NPB全体(フォークを投球した投手に限定)で見ると、0ストライク:8.8%・1ストライク:14.8%・2ストライク:23.0%と、一般的にボールゾーンに落として空振りや打ち損じを狙う球種であることから、浅いカウントではカウントの悪化を嫌って多くは投げない傾向があります。

先ほどの全カウントにおける投球割合で上位だったソフトバンク・岩嵜翔やロッテ・岩下大輝、澤村らは0ストライクから投球の4分の1以上をフォークが占めるなど、この球種の制御に絶対的な信頼を寄せていることが推測されます。


② SwStr%(=空振り/投球数、フォーク投球数50以上)

左右別に見ていきます。
今更ですがストレートも左右別に見ればよかったですね。

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右投手のトップはヤクルト・清水昇
空振り率42.0%は今季10球以上投げられた全投手の全球種中で見てもダントツの1位であり、まさに今NPBでもっともバットに当たらないボールを操っているといえます。
アマチュア時代からフォークもしくは落ちる系ツーシームを投じていたようですが、シーズン開幕に発行されたSlugger選手名鑑には"小野寺投手コーチの助言でフォークを投げ始めた"とあり、プロ入り後の2019シーズンに現在のフォークの基礎を築いたものと思われます。

左投手のトップは阪神・能見篤史
2020シーズンをもって阪神を退団した大ベテランですが、かつての奪三振キングの輝きはいまだ失われていません。
フォークに加えスライダーも好成績を残しており、今季最終登板で見せたようなストレートの勢いを来シーズンも維持することができれば、新天地のオリックスでもまだまだ活躍が期待できそうです。


③ Pitch Value/100(投球による100球あたり失点増減、フォーク投球数50以上)

前回記事同様、ここで算出しているPitch Valueは同一球種間での相対的な評価を示す一般的なPitch Valueとは異なり、全球種の平均と比較した評価値になります。

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右投手のトップは中日・清水達也
花咲徳栄高校で甲子園優勝を飾り、ドラフト4位でプロ入りして3年目のシーズンでしたが、前年よりも登板機会は減ったものの防御率3.38はキャリアハイを記録するなど、来季以降の飛躍の足がかりを作りました。
プロ入り前から150km/hを超えるストレートと落差の大きいフォークが注目されていましたが、プロ入り後もそれらの強みに磨きをかけている印象です。

高校時代から目標とするソフトバンク・千賀滉大のフォークを数字上では上回るクオリティを見せており、来季期待したい投手の一人です。

左投手のトップは中日・大野雄大
低迷から脱した2019年の勢いそのままに沢村賞を受賞した左腕は、ストレート・ツーシーム・フォークを軸に素晴らしいピッチングをシーズン通じて披露しました。
NPB左腕トップクラスの球威を誇るストレートに、異なる変化で落ちるツーシーム・フォークを組み合わせることで空振りやゴロ打球を量産。
速いストレートと落ちるボールという打者にとって嫌なボールを併せ持ち、最も攻略の難しい投手の一人でした。


3. 注目投手

① ヤクルト・清水昇

右投手のSwStr%でトップ。

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フォークは130km/h程度で、投球割合はストレートに次ぐ2番目。
注目すべきは隣接した球速帯に空振り率の比較的高いツーシームがあることでしょうか。
清水のツーシームは帝京高校時代にDeNA・山﨑康晃から教わったものだそうで、いわゆる"亜大ボール"と呼ばれる性質の落ちるボールです。球速の異なる二種類の落ちるボールを持つことで、フォークの威力をさらに高めていることも考えられます。

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カウント別の投球割合を見ると、特に左打者に対して浅いカウントではツーシーム>フォーク、カウントが深まるにつれフォーク>ツーシームとなっており、状況によって落差を使い分けている様子が分かります。

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右打者(上)・左打者(下)問わず、きっちり低めに落として高い割合で空振りを奪っている様子が確認できます。
0ストライクの際にはゾーン内に投じるケースも多くあり、打者の裏をかくような形でカウントを整えられることは大きな強みだと感じます。


② 阪神・能見篤史

左投手のSwStr%でトップ。

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ストレートに次いで2番目にフォークを多く投球しており、平均球速は130km/h程度でスライダーと概ね同じくらいの球速帯です。

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カウント別に見ると0ストライク時にフォークを投じることは稀で、1ストライク以降は積極的に投球しています。特に2ストライク時のフォーク投球割合は48.3%とNPB全体で見てもかなり多く、フォークで三振を狙うスタイルであることが分かります。

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Zone%が22.0%と相当低く、右打者(上)・左打者(下)ともに基本的には低めボールゾーン中心の投球になっており、投げミスを避ける意識はかなり強そうです。
0ストライク時のSwStr%は53.3%とかなり高く、初球から積極的にフォークを投じることを考えてもいいのかもしれません。


③ 中日・清水達也

右投手のPitch Value/100でトップ。

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フォークの投球割合はストレートに次ぐ2番目で、先ほど触れたようにフォークより3km/h程度速いスプリットも10月の登板以降投げ始めました。
ちなみにスプリットはカットボールと同程度の球速で変化の対を形成しており、フォークとは異なる落差・球速で今後投球のアクセントになっていきそうです。

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カウント別では、こちらもカウントが深まるにつれフォークの割合が高まる傾向が見られます。また、スプリットの割合はカウントが浅い方が多いことから、状況に応じて球速や落差の調整を行っていることが推測されます。

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右打者(上)・左打者(下)ともに空振りは特筆するほど多くはなく、ゾーン内で凡打によるアウトを稼いでいる点が特徴です。
映像を十分に確認できていないため判断は難しいところですが、これが意図したものなのか、それとも制球ミスが功を奏したものなのかは非常に興味深い点です。


④ 中日・大野雄大

左投手のPitch Value/100でトップ。

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フォークの投球割合は4番目で、平均球速はストレートに次ぐ2番目の137km/h。平均球速はツーシームよりも速く、珍しいケースのように感じます。ただ、球速帯が重なる部分も多く、同じ球速で落差が異なることは打者を混乱させる要因になりうるものと考えられます。

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右打者に対しては基本的に追い込んでからの使用がメインであり、追い込むまではツーシームを中心に投じています。一方左打者にはツーシームを投じることは比較的少なく、1ストライク時からフォークをやや多投する傾向が見られます。

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右打者(上)には外角中心に逃げ落ちるようにフォークを投じていることが確認できます。また、2ストライク時のボールカウント別に見ていくと、余裕のある0-2ではボールゾーンに分かりやすく落とす一方、ボールカウントが進むにつれゾーン内への投球が増えていき、カウントを悪くすることなく打ち損じを狙う投球に変化していく様子が分かります。

左打者(下)にはゾーン内、とりわけ高めへの投球が特徴的で、フォークの用途としてはかなり珍しく感じられます。130キロ台後半という比較的速い球速であることから、高めの速球にも見えるような軌道から落とすことで打者にとって捕えにくいボールになっている可能性があるように思います。

いずれにせよ制球・配球ともに優れ、明確な意図を持った投球を実現していることがよく分かります。


4. 最後に

ここまで見てきた通り、NPBにおいてトップクラスに空振りの多いフォークを使いこなすことができれば、かなり強力なボールとなることが分かります。

また、ヤクルト・清水や中日・大野のように落ちるツーシームと併用することでフォークの効果をさらに高めることもできそうです。

次回はツーシームを飛ばしてチェンジアップ編を予定しています。
おたのしみに。


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