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Pitching Summary 2020 藤浪晋太郎

こんばんは。

2020年の阪神タイガースを振り返る、第3回は藤浪晋太郎投手です。


成績

24試合 1勝6敗7H
4QS 2HQS
76.1IP 85SO 40BB
ERA4.01 FIP3.64
K% 24.9% (70IP以上でリーグ3位)
BB% 11.7%
WAR 2.0 (うち先発:1.6、リリーフ:0.4)

前年まさかの一軍登板1試合に終わった中で迎えた2020シーズン。オープン戦好調で開幕ローテ入りがほぼ当確となったものの、コロナ禍による開幕延期や自身のコロナ感染、練習遅刻による二軍降格等様々な要因が重なり、一軍での初登板は7/23までずれ込みました。

先発:~9/13
8試合 1勝5敗 3QS 2HQS
46IP 48SO 26BB ERA5.87
K% 22.0% BB% 11.9%

リリーフ:9/26~10/21
13試合 0勝1敗 7H
15.1IP 16SO 6BB ERA2.35
K% 26.2% BB% 9.8%

先発:10/28~
3試合 0勝0敗
15IP 21SO 8BB ERA0.00
K% 33.9% BB% 12.9%

7/23の初先発では広島・ピレラに満塁弾を浴びるシーンもありながら、ここ数年間の不振からの脱却を感じさせる投球を見せました。
その後はローテーションの一角として先発登板を重ね、8/21のヤクルト戦では692日ぶりの勝利を挙げたものの、その後3登板続けて思うような結果を得られず、9/13の登板を最後に再度二軍調整となります。

藤浪に思いがけない転機が訪れたのは9/25。この日糸原をはじめとする一軍主力複数名のコロナウイルス感染が判明し、阪神は一二軍の大幅な入れ替えを余儀なくされました。特に影響が大きかったのはリリーフ陣で、今季勝ちパターンを担った岩貞・馬場・岩崎が離脱。そんな中、二軍で先発調整を続けていた藤浪にプロ入り後初めて本格的なリリーフとして白羽の矢が立ったのです。

リリーフとしての初登板となった9/26はヤクルト・村上宗隆にホームランを浴び敗戦投手となる苦いスタートとなりましたが、翌日の登板では1イニングを3人で抑える投球を披露。さらに9/29の中日戦では3点差の8回に登板し、MAX159km/hを記録する力強い投球でプロ初ホールドをマークするなど、急速にリリーフへの適応を見せ始めます。
そして10/1の中日戦、160km/hを立て続けに5球投じる強烈なピッチングを見せて一気に勝ちパターンに駆け上がると、10/19のヤクルト戦では自己最速162km/hをマークするなど、藤浪本来の力強いストレートを軸とした投球がリリーフ登板を重ねる中で完全に蘇ることとなりました。

10/28の中日戦ではブルペンデーのショートスターターとして4回1失点。さらに2020年最後の2登板は勝ち星こそつかなかったもののいずれも5回以上を投げ無失点に抑える投球となり、2021年に向け非常に良い形でシーズンを締めくくりました。

17~19年に苦しんだ制球難からはほぼ脱却し、70イニング以上でリーグ3位となるK%を記録するなど、安定して三振でアウトを奪えるスタイルが戻ってきた点が最も明るいポイントと言えるでしょう。

K/9 年度別推移
2015:9.99
2016:9.37
2017:6.25
2018:8.87
2019:6.23
2020:10.02


投球割合

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左右ともに直球の比率は60%程度で、右への変化球はカットボールが大半、左はカットボールとフォークが半分ずつ。
シーズン当初はストレートが70%を超える水準でしたが、リリーフ登板中に増やした変化球に手応えを得たのかシーズン最後の3登板では60%をやや下回るところに落ち着き、変化球でストライクを安定して取れるようになったことで、結果的に強力なカットボール・フォークの割合を増やすことができるという好循環になっていたように思います。


球種別球速分布

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先発時でもストレートの平均球速は151.9km/hで、千賀(153.4)・バーヘイゲン(153.1)に次ぐ3位とNPBトップクラスの水準。また、リリーフ時のストレートは昨季日本人最速のMAX162km/h、平均球速155.8km/hは外国人を含めてもNPBトップと、ストレートのスピードに関して言えば歴代の日本プロ野球においても指折りの存在と言えます。
140キロ中盤の高速フォークと130キロ半ばの曲がりの大きなカットボールに関しては、先発・中継ぎのいずれでも球速は同程度でした。

先発ストレート平均球速(100球以上)
153.4 千賀滉大(ソ)
153.1 バーヘイゲン(日)
151.9 藤浪晋太郎(神)
151.3 山本由伸(オ)
149.8 ロドリゲス(中)

中継ぎストレート平均球速(100球以上)
155.8 藤浪晋太郎(神)
155.6 ギャレット(西)
155.6 スアレス(神)
155.3 ビエイラ(巨)
154.8 R.マルティネス(中)


投球ヒートマップ

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ストレートの投球コースは高め中心で、左右のアウトハイに決まった際に非常に球威のあるボールになっていた印象があります。
対右のカットボールは徹底して外角低めに集め、横変化量の大きさを活かして空振りを多く奪いました。対左では多少バラつきがありながら、効果的なインローのボールやバックドアでカウントを稼ぐボールも目立っています。
フォークは左右問わず非常に精度高く低めに制球されています。


球種別スタッツ

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藤浪のストレートのSwStr%はNPB平均の7.1%を下回り、GO/FOも1.08(NPB平均0.81)とゴロの多いタイプです。被打率は.314と高く、比較的高いBABIP.330も要因の一つではありそうですが、状態のよくない時期にカウントを苦しくした際に投じた甘いストレートを痛打されるシーンも目立ちました。
カットボールは被打率.094、フォークは被打率.184と非常に強力で、特にフォークの空振り率27.1%はNPB全体でも5位の数字です。

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左右で成績を比較すると、カットボール・フォークについては成績に大きな開きはなく、トータルの左右別成績に大きな影響を与えているのはストレートの差異と言えそうです。


カウント別投球割合

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ストライクカウントが増えるにつれ変化球割合が上昇するものの、1ストライクまではストレート割合が50%を超えています。
追い込んで以降は右にはカットボール、左にはフォークメインですが、先ほどの左打者に対するストレートの成績と照らし合わせると、左にはややストレートが多いような印象も受けます。

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カウント別の投球数/被打率/SwStr%を見ると、追い込んでからはほぼ完璧な投球を見せていることが分かります。
0ストライク/1ストライク時のストレート被打率.510(49-25)/.351(57-20)が示すように、直球だけでなく変化球を交えながらどのようにカウントを整えていくかが今季の課題となってきそうです。


ストレート

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右打者へのストレートは基本的にアウトコース中心に◤のような形状で分布。シュート回転気味にバックドアのような形でコースぎりぎりに決まる投球も多い印象があります。
2ストライク時に外角高めに投じられるストレートはかなり強力で、打者が外角低めへのカットボールをケアしながら高めのストレートについていくのは相当困難であることが推測されます。

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左打者へのストレートは右よりもバラついた分布になっており、真ん中付近に集まってしまうシーンも多く見られました。
こちらもアウトハイに投じられたボールは空振りが比較的多く、シュートする軌道のストレートをこのコースに集めることができれば、ストレート単体で強力なボールになりうるように感じます。


カットボール

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右打者に投じるカットボールは半数近くが外角低めボールゾーンに集められ、多くの空振りを奪うことに成功しています。
時折インハイのボールゾーンに抜けることもあるようですが、甘いコースに入ってしまうことは少なく被長打も1本と、リスクの低い優秀なボールです。

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左打者へのカットボールは「外からゾーンに入れるボール」と「インローに食い込ませるボール」の2種類に分けることができそうです。
0-1ストライク時には両者をうまく使い分け、2ストライク時にはゾーン内でカットボールを動かし、凡打を誘うような投球になっています。
今オフに習得を目指していた縦変化の大きいカットボール(スライダー)は左のインローで効果の高いボールであることから、今季は左打者に対してフォークに加え2種類の縦変化で臨むことができる点はかなり強力であるように思います。


フォーク

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フォークを右打者に投じることは決して多くありませんが、制球が甘くなることもなく、高い精度で空振りを狙うことができる球種となっているようです。カットボールだけで十二分に決め球の役割を果たすことができていますが、カットボールの調子が優れなくてもフォークがあるという点は強みになるでしょう。

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特に左打者に猛威を振るうフォークですが、こちらも高い制球力が目立ちます。大きな落差と平均145キロ前後の速度を両立する藤浪のフォークは球界随一のボールであり、藤浪が今季完全復活を果たした暁にはNPBナンバーワンの球種に挙げられていても不思議ではありません。


藤浪に生じた変化とは

冒頭で触れたようにリリーフ登板を経て復調気配でシーズンを終えた藤浪。
この間にどのような変化があったのかを見ていきたいと思います。

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上の表は期間別に各球種のSwStr%/被打率を並べたものです。
カットボール・フォークに関しては全期間を通じて安定してよい成績を収めていますが、ストレートの成績に大幅な変化があったようです。
中継ぎの期間はストレートの球速がアップしたため好成績につながるのも不思議ではありませんが、シーズン最後の3先発においても好成績を維持し、空振り率については上昇してさえいます。

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上記の要因として考えられる一つの要因として、異様に高い数値だったBABIPの改善があります。当初の先発登板時のBABIPは.400を超え、不運な面があったようですが、リリーフ転向以後は数値が改善しており、揺り戻しの影響による成績改善という面もありそうです。
一方で、当初のISO.150にも表れているように長打を浴びるケースも多いことから、高BABIPは必ずしも不運によるものとして片づけられる性質のものではなく、強い打球を打たれていたという要素もあったことが推測されます。こちらもリリーフ転向以後は平均を下回る水準まで向上し、投球の質そのものが改善していることも大きいようです。


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ストレートに関して特に大きな変化が見られるのは、右打者に投じたコースです。ここ数年間課題だった"高めへの抜け球"がシーズン序盤には数多くあったものの、リリーフから最終盤の登板にかけてそれらがほとんど見られなくなっていく様子を確認できます。また、投球のほとんどがアウトコースの際どいライン(手入力ではありますが)に集まるようになり、真ん中のコースに入って安打を浴びるケースも少なくなりました。

一方左打者については傾向と言えるほどではないものの、真ん中への投球が減った印象を受けます。各期間における空振り率も8.6%→12.5%→13.3%と向上しており、特に外角での空振りが増加している傾向にあることから、シュート気味のストレートの効果的な活用方法を身につけた可能性もありそうです。この傾向が今季以降も継続するか注目していきたいと思います。

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最後に

プロ入りから順調に歩んだ'13~'15の3年間、停滞の一年だった'16、苦しみ抜いた'17~'19、リリーフ登板を足掛かりに明るい兆しを見せた'20。
まだ26歳という年齢ながら、プロ野球選手として酸いも甘いも知り尽くした藤浪の2021年が輝けば輝くほど阪神タイガースの優勝は近づいてくるはずです。
2021年の秋、優勝の輪の中心に藤浪晋太郎がいることを信じて、今シーズンの登板を楽しみにしたいと思います。

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