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この"カットボール"がすごい!2020

あけましておめでとうございます。
いよいよ阪神タイガース日本一メモリアルイヤー2021が始まりましたね。
今年もよろしくお願いします。

早速ですが今回は球種ピックアップシリーズ第3弾として「この"カットボール"がすごい!2020」をお送りします。

前回のスライダー編はこちら↓

カットボールを含むスライダー系球種の詳細はこちら↓


1. カットボールのNPB平均

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毎度おなじみこの表です。
カットボールはNPBで3番目に多く投じられる球種で、一般的にスライダーより速く、スライダーより変化量の小さいボールを指していることが多いようです。
ただし、この分類はあくまで選手自身の呼称に基づくものであるため、例えば阪神・藤浪晋太郎のカットボールのように130km/h台で大きく曲がるものも含まれていたりします。

カットボールのSwStr%はストレートを上回りますが、被打率やwOBAといった指標はストレートとほぼ同水準であり、平均的には打者を惑わすような球種ではないようです。

こうした中で優れたカットボールを投じる投手はどのような特徴があるのか、以下で見ていきましょう。


2. カットボールの各種成績

① 投球割合(総投球数100以上)

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カットボール投球割合トップは唯一50%超のロッテ・唐川侑己
今季盤石のリリーフ陣を築いた千葉ロッテにおいて重要な役割を果たすピースとなった唐川は、リリーフ転向後にカットボールの投球割合を大幅に増やすことで躍進を遂げました。
唐川のカットボールはいわゆるライジング系の軌道で、一般的なカットボールよりもホップ成分が大きいことから、打者の想像よりも浮きあがるように感じるボールであることが推測されます。

2位のソフトバンク・森唯斗もライジング系のカットボールを操る投手であり、左打者のインハイに投じる姿が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。


② SwStr%(=空振り/投球数、カットボール投球数50以上)

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"右投手 vs 左打者"部門のトップはDeNA・上茶谷大河
ルーキーイヤーのからカットボールを武器としていましたが、昨オフにカットボールを"大きく曲がるスライダーに近いボール"へと調整し、空振り率の向上(2019:左右合計8.7%)を実現したようです。
空振りを奪った投球コースは主に左のインローで、バックフットに鋭く消える軌道は打者にとって攻略の難しいボールだったと言えるでしょう。

"右投手 vs 右打者"部門のトップはオリックス・山岡泰輔
「真っ直ぐとスライダーがあって、カットボールは中間球の役割を果たしている」と本人が語るように、伸びのある直球と大きな縦スライダーを武器とする山岡の投球にアクセントを加える効果的なボールとなっているようです。

今季の投球ではあまり見られませんでしたが、意図してカットボールの回転軸をずらす"抜けカット"にも挑戦していたようで、来季以降カットボールがさらに魔球に近づいていく可能性もありそうです。


続いては左投手。

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"左投手 vs 左打者"部門のトップはオリックス・田嶋大樹
昨年のカットボール投球割合は5.8%にとどまっていましたが、今季は11.5%と倍増。
プロ3年目にして初の規定投球回を達成しており、トータルで見るとストレートの球威向上が大きく寄与しているようですが、曲がりの大きなスライダーに中間球であるカットボールを組み合わせたことで、スライダーを引き立たせる効果があったのかもしれません。
それにしてもこの試合のストレートすごいですね。

"左投手 vs 右打者"部門のトップはソフトバンク・ムーア
故障離脱がありながらもMLBでの実績通り安定したピッチングを披露したムーアのカットボールは、右打者のインローで多くの空振りを奪うことに成功しています。
右打者は外に逃げ落ちるムーアの強力なチェンジアップが頭にある中で、インコースの厳しいゾーンに切れ込む軌道に苦慮していたことが推測されます。


③ Pitch Value/100(投球による100球あたり失点増減、カットボール投球数50以上)

前回記事同様、ここで算出しているPitch Valueは同一球種間での相対的な評価を示す一般的なPitch Valueとは異なり、全球種の平均と比較した評価値になります。

それではまず右投手から。

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"右投手 vs 左打者"部門のトップは阪神・藤浪晋太郎
曲がりが大きく実質スライダーともいえる藤浪のカットボールは、左右問わずカウント球としても決め球としても有効なボールとなっています。
左打者に対してはバックドアでカウントを整えたり、インコースに切れ込む軌道で空振りを奪ったりと用途も多彩であり、藤浪のピッチングの根幹をなす球種と言えるでしょう。
動画の1:35~で投じているカットボールは、まさに左打者へのお手本のようなボールです。

"右投手 vs 右打者"部門のトップは広島・大瀬良大地
右打者に対し空振り率19.5%をマークするとともに、被打率も.116(43-5)と優れており、状況に応じてスライダーと併せて活用している様子が窺えます。
大瀬良のカットボールは縦変化が比較的大きいように見受けられ、制球力の高さと相まってリスクの小さいボールとなっているようです。

続いて左投手。

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"左投手 vs 左打者"部門のトップはヤクルト・石川雅規
もうすぐ41歳を迎える大ベテランでストレートの球速はNPB全体で最も遅い水準でありながらも、多彩な変化球と投球術で白星を積み重ねてきました。
カットボールも投球を支える大きな武器となっており、ゴロアウトを狙って奪える球種となっているようです。

"左投手 vs 右打者"部門のトップはDeNA・今永昇太
故障により今季は9試合の登板に止まる悔しいシーズンとなりましたが、カットボールをはじめとしてハイレベルな投球を披露していました。
平均球速138.3km/hは左のスターターとしてはNPBで最上位の水準であり、これより10キロほど遅いスライダーとのグラデーションを用いて打者を打ち取っている印象を受けます。


3. 注目投手

① 阪神・藤浪晋太郎

"右投手 vs 左打者"部門のPitch Value/100でトップ。

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150km/h超の剛球ストレートに140キロ台中盤のフォーク、そして130キロ台で大きく横滑りするカットボールを投じています。

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左打者に対しては0/1ストライク時の使用がメインで、追い込んでからはフォークで三振を狙うスタイルです。また、カウント2-2/3-2の際にはカットボールの投球割合が再び上昇していることから、ある程度ゾーン内で勝負することも想定しているボールのようです。

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0ストライクから1ストライクにかけてバックドアや真ん中付近でカウントを整える用途で用いるほか、左打者のインロー付近で空振りを奪うようなシーンも見られます。
先ほども言及したように、2-2/3-2の際にはゾーン内に散らして凡打を稼ぐことも多いようです。
藤浪の対左カットボールのGO/FOは4.50と平均値1.33を大幅に上回っており、長打のリスクが限りなく低いボールと言えます。

今オフにカットボール(スライダー)の縦変化成分を増やしたボールの習得を目指しているようで、さらなる進化が期待されます。


② 広島・大瀬良大地

"右投手 vs 右打者"部門のPitch Value/100でトップ。

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多彩な球種をバランスよく投げ分ける中でカットボールはシュートと球速帯が似通っており、ストレートよりやや遅く小さく変化するボールどうしで対を形成しています。

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右打者へのカットボール投球割合はどのカウントでも大きくは変わらず、カウント球にも、決め球にもなりうることが分かります。

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投球コースは基本的に外角中心。浅いカウントでは高さを幅広く使う一方で、ストライクカウントが進むにつれ低めへの意識が強まる傾向が見られます。
特に追い込んでからの空振り率が優れており、ボールの変化量や成分もカウントによって制御しているのかもしれません。


③ ヤクルト・石川雅規

"左投手 vs 左打者"部門のPitch Value/100でトップ。

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カットボールはストレートより平均球速が4キロほど遅く、スライダーとのおおよそ中間の球速帯となっていることが分かります。
ストレート・シュート・シンカー・チェンジアップとシュート方向変化のボールがきれいにグラデーションを形成しており、これらを活用した投球術の一端が見えてきます。

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カットボールの投球割合は比較的浅いカウントの方が高く、シュートと同様変化量の小さいボールの割合が2ストライクにかけて次第に低下し、スライダーやシンカー、チェンジアップといった大きく曲がるボールの割合が上昇していく傾向が見られます。

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どのカウントでも左打者のアウトロー中心にカットボールを集めており、あくまで目視ベースではありますがベース板ぎりぎりの際どいコースに投じられています。
球速的にも変化的にも驚くようなボールではありませんが、配球や他のボールとの相乗効果で強力なボールとなっており、プロの世界で長く生きる技を感じます。


④ DeNA・今永昇太

"左投手 vs 右打者"部門のPitch Value/100でトップ。

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カットボールの球速はストレートとチェンジアップの中間程度であり、速いチェンジアップと球速帯が被っており、一部変化の対ができています。

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右打者に対しては浅いカウントでの使用がメインで、追い込むにつれ強力なチェンジアップの使用割合が増していきます。

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0/1ストライク時にはインコースに食い込むような投球がメインである一方、追い込んでからはゾーン内に散らばっており、外から入ってくるような軌道でも使用している傾向が見受けられます。
追い込むまでは外に逃げるチェンジアップの伏線となるようなインコースの厳しいボールを投じようという意識、追い込んでからは右打者の想定に外のチェンジアップがある中で、外寄りの全く異なる変化のボールを投じて打ち損じを誘おうという意図があるのではないかと推測できます。


4. 最後に

前回のスライダー編とあわせて振り返ってみると、以前スライダー系球種の記事で述べた通り、名称の違いこそあれど"135km/h程度でインローもしくはアウトローに鋭く変化するボール"が効果的である傾向が見えたように思います。

もし自分がプロ野球選手ならこのボールを目指して練習したいところですが、残念ながら110km/h程度のストレートしか投げられないので、テレビでこのようなボールを投げる投手を観たら「いいボール投げてるな!」と注目していきたいと思います。

次回はフォーク・スプリット編です。
おたのしみに。

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