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【社会人デザイン留学】カオスなデンマークのインタラクションデザイン学校・CIIDへの留学を決意した理由

年齢も国籍もさまざま、毎日がハッカソン

私は2019年1月から日本の会社を休職し、デンマークのコペンハーゲンにあるCIID (Copenhagen Institute of Interaction Design)というインタラクションデザイン学校に通っている。

CIIDは、研究部門・コンサルティング部門・教育部門の3部門から成り立つ組織で、私は現在この教育部門のインタラクションデザインプログラム(Interaction Design Program。以下、IDP)というプログラムに参加している。CIIDの教育部門は2008年に創設されたばかりにも関わらず、2012年のBusiness Insiderの「世界のトップデザインスクールランキング25校」で17位に選ばれている。

CIID IDPは大学院に相当する1年間のプログラムだが、2019年現在は正式な大学院としての学位は取れない(修了証のみ)。教授がいるわけでもなく、論文を書くわけでもなく、世界各国から集まった25名という少人数で構成されるチームメンバーとともに、ひたすら集中的に手を動かして物を作るプログラムだ。CIID IDPのスローガンは「作って、試して、改良を繰り返す(BUILD, TEST, REPEAT)」。「教室」ではなく「スタジオ」にこもり、デザイン課題に対する新規アイデアを構想し、プロトタイプを作成し、検証を繰り返す。作業は深夜に及ぶこともざらで、ずっとハッカソンをしているようなイメージに近いかもしれない。

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CIID参加者のバックグラウンドは、UI/UXデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、アート、建築、コンピューターサイエンス、機械工学、マーケティング、金融、法律、政治、経済、など多岐に渡る。25名を構成する国籍は14か国で、2019年度の参加者にデンマーク人は1人もいない。年齢も22〜50歳程度とバラバラだ。講師にさえもデンマーク人はほぼいない。アメリカやヨーロッパ各国のデザインコンサル会社などに務める”手を動かせる講師”が1週間単位でデンマークにやって来て、それぞれのやり方で授業を進めていく。講師の役割は主にインスピレーションの提供と困った時の相談役で、講義は少ない。知識レベルも経験分野も文化も異なる参加者同士がチームを組み、自分たちで実現方法を模索しながら2~3日という短期間でアイデアを動く形に持っていくのだから、かなりカオスな状況であることは想像いただけると思う。

私がそもそもインタラクションデザイン留学に至った理由は、主に3つある。

人間の感情に影響を与える新しい体験設計

インタラクションデザインは、人間の身体・思考・感情のニーズを中心に捉え、人間と対象物とのインタラクションを設計する領域である。人のどんな行動(インプット)により、どんな反応(アウトプット)を返し、それらをどう意味づけ(マッピング)させるか? を設計していく。

例えば椅子を作る場合、「どんな機能・構造を椅子に持たせるか?」に注力するのがプロダクトデザイン。「どうやって椅子の価値・魅力を人に伝えるか?」に注力するのがコミュニケーションデザイン。「人が椅子をどう使ったら、どんな反応が返ってきて、それによって人の行動・状態・感情はどう変化するのか?」に注力するのがインタラクションデザイン。

私はIT業界の人間だが、既存プロセスの効率化よりは、人間の感情・価値観・行動に変化をもたらす新しい体験創出に技術を活用することに強い興味関心を抱いてきた。一方、技術・製品中心ではなく、人間中心の体験を設計することには多くの企業が苦労している。発想の広げ方、アイディアの落とし込み方、検証方法など、具体的な成功・失敗事例に多く触れ、ヒントを得たいと考えたのが1つ目の理由である。

専門性の「越境」とものづくり

インタラクションデザインは、「サービスデザイン」「UI/UXデザイン」「ITエンジニアリング」「機械工学」など、ビジネス・デザイン・エンジニアリングに関わる複数専門分野の越境が求められる領域でもある。人の感情・行動を動かす体験は、広告表現を美しくするだけでも、データ分析でロジックを完璧にするだけでも、機能満載の製品開発だけでも十分とは言えない。専門を横断した密な連携が求められる一方、各々の価値観が大きく異なるために軋轢が生じなかなかうまくいかない例も見てきた(e.g. 「デザイナーは言われた通り手を動かせばいいんだよ」vs「何もわかっていないプロマネが大口叩くから崩壊だ」)。

互いの価値観を理解するためにいったんその分野に足を踏み入れたいと思っても、専門性をベースにキャリアを積み上げるのが主である現在の多くの組織において、「デザインもエンジニアリングも」と専門性を横断してキャリアを形成していくことはなかなか困難である。また、キャリアを積むにつれて自分で手を動かす機会が少なくなっていることにも危機感を感じていた。

「今はどんな情報も検索すれば出てくるが、又聞きで満足したり、すでに知っている気、やった気にならないように。どんな小さなことでも、実際に経験することで、ようやく自分にハードコードされる」。これはCIIDでもよく聞く私の好きな言葉だ。

技術や社会ニーズの変化に応じてデザイナーとエンジニア領域の重複も増えるなか、プロトタイプレベルではあっても「自分の手で作りきる」ことを通し、専門分野を越境しながら具体的に未来を構想するものづくりに携わっていきたいと考えたのが2つ目の理由。

先を少し見えなくするための決断

私は未知の体験に出会うのが大好きだ。正直上記に述べた関心事項こそあれ、日本で心地よい環境にいた私がデンマークに来る必要性は一切なかった。キャリアを中断してCIIDに来ることを決めた最大の理由は、大手企業のサラリーマンによくある「予定調和感」「何かが飽和状態に近づきつつある感」をいったん取っ払って自由に考える時間が欲しかったというしょうもない理由なのだと思う。この先大きな挑戦をしなければ派手な失敗をする可能性も低い。しかし快適な環境を少し離れ、先が見えなくなるような選択をした方が人生面白くなると思った。

CIIDというカオスなデンマークのインタラクションデザイン学校は、長期的に追求したい領域でありながら、自分がそこで何をどう感じるか予想がつきにくい、その先どうなるか計画が立ちにくいという意味で、ちょうど良い選択肢だった。

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