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試し読み:『今日からはじめる情報設計』

2015年10月に刊行した書籍『今日からはじめる情報設計 ―センスメイキングするための7ステップ』をご紹介します。静かに、ゆっくり売れ続け、このたび重版の運びとなりました(※電子版も販売開始しました。2018.11.15)。

デザインプロジェクトを始める際、自分たちが「何をわかっていないかがわからない」といった状態になることがよくありますよね。私も同様です。そんなとき、本書に立ち返り、情報を整理整頓して、心を鎮めます。そうすることで、勇気を持って問題に立ち向かえるようになります。

著者はアビー・コバートさん。米国のインフォメーション・アーキテクトです。原書は出版社から刊行されたものではなく、ご自身でオンデマンド+電子版を作成して出版されたもの。近年はこういったインディペンデントなやり方で出版される良書が増えています。

今回ここでは、訳者の安藤幸央さんと監訳者の長谷川敦士さんによる「まえがき」、そして本編よりいくつかの項目をピックアップして掲載します。[村田]

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訳者まえがき

部屋中に散らばった子供のオモチャにげんなりしたことはないでしょうか? 大量にあるネットワークケーブルの、どれがどれにつながっているのかわけがわからなくなったことはないでしょうか? あまりにも大量に押し寄せる情報に、途方に暮れたことはないでしょうか? あまりにも複雑な仕事に、さじを投げたことはないでしょうか? 自分では理解していると思っている情報を、うまく人に伝えられなかったことはないでしょうか?

本書の原書タイトルは、『How to Make Sense of Any Mess』です。しっくりとくる翻訳は難しいのですが、「どんなMessでもMake Senseする方法」となります。Messとは、しっちゃかめっちゃか、めちゃくちゃで混乱している様子、整理されるべき事柄が整頓されず、散乱している、混沌として、窮地に陥っている状態を示します。

そしてMake Senseとは、情報設計の世界ではよく使われる言葉で、直訳だと「認識を作る」、意訳すると「要点を作る」「意味を成す」といった感じの言葉です。たとえば、学校の先生に「Make Sense?」と聞かれたならば、その問いは「意味はわかった?」ということです。本書では「混乱(Mess)を解きほぐして整頓する」といった意味に対応させています。

人やものごとは複雑であり、複雑であること自体は悪いことではありません。世の中には、複雑な相関関係を持った複雑な事柄はいくらでもあります。すべての事柄が、単純なボタン1個を押すだけにすればよいわけではなく、整理整頓されていることが重要なのです。1冊しかない図書館ではなく、どこに目的の本があるのか見つかればよいのです。複雑なものも、複雑なまま、わかりやすく整頓されていればよいのです。

スマートフォンアプリもWebサイトも、資料もプレゼンテーションも、料理のレシピも、素敵な見映えや気の利いたアニメーションも良いですが、いちばん重要なのは情報設計です。整理されていないまま、どれが必要かもわからない複数の数百件のリストを見せられても、何も見つけられず、何も判断できません。複雑な混乱を解きほぐして整頓し、情報設計に配慮することで、格段に見やすくわかりやすく、親しみやすいものになるはずです。

この本は、情報設計の専門家だけでなく、デザイナーにも、エンジニアやプログラマーにとっても、ヒントになる事項と実践手法が満載です。また、教育者、経営者、研究者、誰かのために何かの仕事をしているすべての人へ、読んでいただき、活用していただき、混沌を解きほぐして整頓できるようになるヒントを手に入れてほしいと思います。

本書の翻訳と編集の作業自体もMessでした。そのおかげで、なによりMake Senseの大切さを実感しています。

本書を一通り読み終わったら、どんなに混沌とした、どんなにややこしい出来事も、解きほぐせることがわかり、そのための糸口が見つかるはずです。さぁ、みんなでMake Senseするのです!

2015年8月27日
混沌とした机に向かいながら
安藤幸央

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監訳者のことば

本書は、米国で活躍するインフォメーション・アーキテクト(情報建築家)、アビー・コバート氏による、情報設計の考え方をビジネス一般、そして問題解決一般に適用するための指南書です。

よく「IA」と略される情報設計(Information Architecture)は、2000年頃からWebデザインの分野にて発達を遂げてきました。これは、ネットの発達と共に、これまでの紙メディアから大きく可能性を広げたWebメディアにおいて、その根本である構造(architecture)から見直す必要が出てきたことによるものです。米国を中心としてInformation Architecture Institute(IA Institute)というプロフェッショナル団体が組織され、毎年IAサミットという国際会議も開催されています。コバート氏は、過去にIA Instituteの代表を務めたこともあり、現在もIA業界のキーパーソンによって構成されている組織、The Understanding Groupのメンバーとなっています。もともと氏は古株というわけではありませんでしたが、2000年代の中頃にIAに興味を持ち始め、そして今に至るという、まさに現在進行形のIA(この場合はInformation Architect)であると言えるでしょう。

前述の通り、本書はこのWeb IAの業界で培われた考え方を、Webに限らず、一般のビジネスパーソンの課題解決に適用するための思考法、そして手法を紹介しています。コバート氏がこういったアプローチに至った過程はまさに本書のなかで語られているので、ここでは別の観点からのIAのありかたを紹介しましょう。

多くの人が知るように、情報設計の重要性を最初に指摘し、インフォメーション・アーキテクトを名乗ったのは米国の編集者リチャード・ソール・ワーマン氏です。氏は、ガイドブックやインフォグラフィックのプロデュース、そしてTEDカンファレンスの創立など、数多くの情報設計の仕事を成し遂げていますが、日常生活における情報設計リテラシーについても多くの著作を残しています*1。日本でも有名な『理解の秘密―マジカル・インストラクション』『それは情報ではない―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン』は、原題がそれぞれ『Information Anxitety(情報不安症)』とその続刊であり、情報過多の時代を生き抜く個人のための情報設計指南書であったと言えます*2。

本書は、ある意味このワーマン氏の著作群を引き継ぐものとも言え、個人が自分の情報といかに向き合い、そしてそれらを解決していくかを具体的に述べています。本書では、2000年代のVisual Thinking(ビジュアル思考)の試行錯誤の成果をふまえた、最新のダイアグラミングテクニックもとりあげられ、まさに2010年代の情報設計の集大成とも言えます。

また、本書では、「もの」についての情報だけでなく、「こと」が引き起こす混乱も対象にしていることが特徴としてあげられます。情報過多を越えて、社会の多様化によって画一的な問題解決や理解が難しくなった現代において、本書のような個人のための情報設計技術は、まさにこれからの時代を生きるためのデザインであると言え、多くのビジネスパーソンにとって必須のものとなるでしょう。

氏の軽妙な語り口と、そこに秘められた情熱を感じながら、ぜひ本書によって人生を意味あるものにしていただければ幸いです。

*1 私事になるが、監訳者である長谷川も氏の書籍に影響を受け、大学での研究者からインフォメーション・アーキテクトへのキャリア変更を行った経緯がある。

*2 余談となるが、2010年のIAサミットにはリチャード・ソール・ワーマンが基調講演で登壇し、カラオケナイトにも参加した。このとき、この基調講演をコーディネートしたのもコバート氏であった。

インフォメーション・アーキテクト/コンセント 代表
長谷川敦士, Ph.D.

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イントロダクション

あなたが日々考えなければならない、すべてのことを考えてみてください。仕事のプロジェクト、製品、サービス、仕事の手順、情報収集、イベント、発表、倉庫の箱、引き出し、衣装タンス、部屋、明細書、仕事の計画、説明書、地図、料理のレシピ、仕事の方向性、人間関係、人との会話、アイデア……、考えは尽きません。

私たちは皆、混沌、混乱、そして複雑さにさらされながら、前に進んでいかなくてはなりません。

「情報設計」というのは、ある一連のコンセプトのことです。それは、誤った情報や偽りの情報、十分ではない情報や多過ぎる情報によって引き起こされる混乱に対し、あらゆる人がその混乱を解きほぐして整頓(センスメイキング)することができるよう、手助けとなるものです。

あなたが学生であっても、教師であっても、またはデザイナー、作家、技術者、アナリスト、事業主、マーケティング担当者、社長であったとしても、本書はきっと役に立ちます。

約3時間ほど、飛行機でニューヨークからシカゴへ移動するのにかかる程度の時間で、私はあなたに情報設計の実務を手ほどきすることができます。そうすれば、あなたはこれから訪れるどんな混乱に対しても、あなた自身のやり方で混乱を解きほぐして整頓することができるようになるはずです。

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本書について

:本書は、情報と人間からもたらさられる混乱を解きほぐして整頓する=センスメイキングするためのプロセスを、段階を追って説明しています。その各ステップは最初から順番に書かれていますが、現実のほとんどのプロジェクトは順番通りにはいきません。ですから、自由にあちこち飛ばし読みしたり、巻末の用語集から特定の言葉を読み始めてもかまいません。

セクション:各セクションは1ページで完結しています。1ページが1つの教訓になっています。掲載順は私が皆さんに語りたい順番になっています。

ケーススタディ:各章の最後には、混乱を解きほぐして整頓(センスメイキング)する必要がある人の事例紹介が掲載されています。

ワークシート:各章末には、あなた自身が混乱を解きほぐして整頓(センスメイキング)するのを助けるワークシートがあります。各ワークシートは、あなた自身の目的に応じて簡単に再構成できるような、シンプルなものになっています。印刷可能なテンプレートへのリンクは次ページで紹介しています。

用語集:巻末には、本文の中で太字で示した用語を定義付けし、順番に紹介した用語集があります[原書の用語集はオンラインでも閲覧できます]。

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情報は、異なるニーズを満たすために設計される

あなたのお気に入りの本のコンテンツ(内容)であるページを破り取り、床の上にばらまいたら、そこにできた言葉の山はもう、お気に入りの本ではありません。

お気に入りの本に書かれている言葉をひとつひとつ定義し、アルファベット順に並べたら、それはお気に入りの本ではなく辞書になるでしょう。

お気に入りの本に書かれている言葉について、その言葉と同様の定義を持つ単語を集めて整理すれば、それはお気に入りの本ではなく類語辞典になるでしょう。

この辞書も類語辞典も、書かれている内容はもとのものと同じであっても、あなたの気に入っていた本とはすっかり別のものになっています。本というものは、その構造と内容の両方によって、どう解釈するか、どう活用するかが定められるものなのです。

たとえば、「10人中8人の医者がお勧めしません」と「医者がお勧めしています」という言い方は、どちらも間違ってはいません。しかし、それぞれは別の意図を持っていることがわかるでしょう。

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意図は言葉

意図とは、私たちが何かあるものに持たせたい効果のことを指します。私たちは、意図について語るときはいつも、言葉によって決断を行なっています。

私たちの言葉の選択は、私たちがどのように私たちの時間やエネルギーを使うかに影響します。行きたいところを示す言葉があるということは、離れたいところを示す言葉もあるのです。

アミューズメントパークを作るというとき、それはビデオゲームを作ろうとしているわけではないでしょう。子供を楽しませようと思うのなら、物語を使うべきで、メタファーを使うべきではないでしょう。リラックスできるものがほしいのなら、教育的なものではないほうがいいでしょう。

選ぶ言葉が重要なのです。それらは、私たちが世界にもたらそうとしているアイデアを表現しているのです。

計画を作るためには、言葉が必要です。アイデアをものごとにするためには、言葉が必要なのです。

たとえば私たちが、持続的でエコなデザインソリューションを作ろうとするとき、私たちはその顧客向けに、分厚くて派手な紙のカタログを使うわけにはいかないでしょう。言葉の選択によって、私たちは自身の選択肢を制限しているのです。

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言葉が重要

私は以前に、「asset」[資産、財産、利点などの意]という語を5つのチームが3通りの異なる意味で使っているプロジェクトに関わったことがあります。

私は以前に、「customer」[顧客、得意先、取引先などの意]という語が何を表すかを定義するのに3日をかけたことがあります。

私が以前、ある大企業のプロジェクトに関わったとき、(あまりにも独自の略語が多かったために)最初の1週間で100以上の略語の定義をメモらなければなりませんでした。翌週以降、その数は30にまで減りました。

こんな話は大げさで、本来必要のない努力をしたのだと言いたいところです。でも、そこから始めなければならなかったのです。

言葉とは複雑なものです。けれど、私たちが選んだ方向性を正しく理解してもらうためには言葉は欠かせません。言葉を用いて、私たちは、自分がしてほしいことや他人への期待、力を合わせてやり遂げたいことなどを、人に伝えるのです。

言葉がなければ、人と人は力を合わせることができません。

残念なことに、ユーザーやステークホルダー、あるいはその両方に対し、意味をなさない言葉を使って方向性をまくしたてるのは実に簡単なことです。しかし私たちがユーザーやステークホルダーと言葉の意味を共有せず、同じ言葉で話さなければ、きちんとコミュニケーションすることは難しくなるのです。

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大半のものごとは複数の分類手段を要する

この世界はただひとつの決まった状態で構成されているように見えますが、実際には形あるあらゆるものは、分類法における複数の方法で分類することができます。

階層、並列構造、シーケンス、ハイパーテキストは、いくつかの一般的な分類方法です。形あるものの多くは、これら複数の要素の組み合わせで分類されています。

典型的なウェブサイトには、階層的なナビゲーション、登録ページやコンテンツ選択のための画面遷移シーケンスのほか、関連するコンテンツへのハイパーテキストリンクがあります。

典型的な食品スーパーには、階層的に分かれた通路と、店員がバーコードをスキャンすることで商品情報を呼び出せる並列構造的なデータベースのほかにも、会計やその他の顧客サービスを行う手順としてのシーケンスがあります。私が最近行った食品スーパーでは、ショッピングカートの目立つところに、一般的な25品の商品の売り場が書かれたリストがありました。これはハイパーテキスト的活用法として素晴らしいものです。

典型的な書籍には、順序立てたシーケンスにもとづいた話題、階層的な目次のほか、図書館で使われているデューイ十進分類法や、書店やAmazon等のウェブサイトで使用されているジャンル別の分類方法といったさまざまな分類要素があります。

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全体は部分の総和に勝る

持っている課題の意味を理解するために、たくさんの要素を組み合わせ、全体を把握する必要があります。

たとえば、私たちはある製品を市場に送り出すための仕事をしているとしましょう。この一連の作業をサポートするために、私たちは以下のものを用意するでしょう。

・その製品をどのように組み立て、顧客をどのように分類するかを示した階層ダイアグラム

・その製品を顧客が体験していく順序を示したフローダイアグラム

・その製品を使う顧客のために、十分に吟味しセンスメイキングされた用語集

以下はそれぞれ個別に重要な要素ですが、全体像として考える必要があります。以下のような全体像をとらえた質問に答えましょう。

・ユーザーは何を体験するのか?

・誰が何を、なぜ、誰と一緒に取り組むのか?

・製品はいつ、どのようにして発表し、出荷されるのか?

・時間がたつと、製品はどのように変化していくのか?

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フィルターになろう。
コーヒーかすではなく

コーヒーを淹れるとき、フィルターの役割はコーヒーにコーヒー豆を残さないことです。同様に、センスメイキングとは、ユーザーに提供しようとしているアイデアから、余計なものを取り除くようなものです。

取り除かれるものは、加えられるものと同じくらい重要です。仕事はアイデアだけでは終わらせられません。

単にアイデアを持ち込むだけの人にならないでください。そのかわり、他の人たちのアイデアを濾(こ)して、それが飲めるようにする人になってください。

・人々が目にしていても話題にはしない混乱に着目しよう。

・共に行なっている作業の背後にある意図について、誰もが同意していることを再確認しよう。

・人々が方向を定めるのを手伝い、進捗度を測るためにゴールを設定しよう。

・ゴールに到達するために用いる言葉や構造を評価し洗練させよう。

上記のようなスキルがあれば、あなたは常に引く手あまたでしょう。

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