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記憶に残るデザイン/『遊び心のあるデザイン ─視線を勝ち取る「ウィット」なアイデア』

デザインの良質なアイデアソースを求めている方へ。
前回に引き続き、2018年12月に刊行した書籍『A Smile in the Mind: Witty Thinking in Graphic Design/遊び心のあるデザイン ─視線を勝ち取る「ウィット」なアイデア』を紹介します。

前回の記事では、「ウィットとはそもそも何か?」を解き明かしました。たくさんの情報が飛び交う現代社会で、好奇心をそそり、記憶に止まる作品を作る術として、ウィットはデザイナーの強い味方であることがわかったと思います。

この記事では、本書において3つの章に分けて掲載している事例を、すこしだけ紹介したいと思います。それぞれにどういったウィットが含まれているか、あなたは閃くでしょうか?

ウィットの種類

"ウィットは芝居よりもオペラに似ている。さまざまな要素が連続的に発生するのではなく、同時に発生するからだ。もし芝居で2人の役者が同時に話せば、聴衆にはどちらのセリフもよく聞こえない。しかし、オペラのカルテットの本質は、複数の歌声が絡み合う点にある。ウィットもオペラに似て複数のものから構成されている。言葉のウィットであれ、視覚的なウィットであれ、必ず少なくとも2つの要素が存在する。それらが衝突したり、あるいは結合する瞬間に、脳内でカチッと喜びのスイッチが入る。ただし、こうした要素の種類とそれらを一体化させる方法には、ほとんど無限の可能性がある。(p.28)"

「ウィットの種類」ではウィットを構造別に分類して掲載しています。本来、ウィットは内容を分解して構造を考える分析法とは相性が悪いものですが、2つのものをひとつに合わせた概念など「対」をキーワードに手法を分けています。


MODIFICATION 変化

"ひとつで2つの効果を狙ったアプローチだが、介入の度合いはさまざまだ。主体となる画像に、微妙ながらも意味深いバリエーションが内在する。このテクニックには、馴染み深い象徴的なものがよく使われ、それぞれの象徴がお膳立てする期待が覆される。結果として見出される画像は、普通のイメージとはかけ離れているものの、確かにそれとわかる範囲を超えることはない。(p.42)"


ECONOMY 簡潔

"デザイン要件の範囲内でソリューションを見出した、最も満足度の高いウィット。製品を登場させる必要があれば、見た目を変える。切手に目打ちが必要なら、目打ちだけにしてしまおう。見出される瞬間を待っていて、奇跡のように出現するアイデアもある。もしドラマ『Friends』が木曜日に放送されていたら?(p.64)"


SHIFT: TIME 時間の推移

"時間という広がりが加えられたウィット。聴衆は最初に何が起こったのかを考えたり、あるいは次に起こることを推測したりするように誘導される。物語を完成させるように聴衆を促す、語り手のテクニックと同じだ。(p.71)"


ウィットの実用

「ウィットの実用」ではデザイナーがデザインするあらゆるアイテムを、小さいものから大きいものまで掲載しています。

"この章の結論があるとすれば、ウィットは媒体にとらわれないということだ。レターヘッド付き便箋やロゴであれ、カレンダーやポスターであれ、ウィットと相性の良い性質がもともと備わっているわけではない。どんなものであれ、たとえどれほど望みが薄いように見えても、ウィットを使ってもっと面白いものに変えることができるのだ(p.101)"


LOGOS ロゴ

"ロゴは死に、ロゴの時代は終わったという噂は大いに誇張されてきた。アプリとアバターの時代において、ブランドの本質を伝えるたった1個のマークには、かつてないほどのパワーが秘められている。(p.102)"


PACKAGING パッケージ

"パッケージと聞くと、「1点購入につき1点無料!」の謳い文句がぱっと浮かんだり、スーパーの陳列棚でいかに目立つかを競い合うイメージを思い浮かべる人もいるだろう。また、オンライン・ショッピングの時代となった今、パッケージの重要性は低下しつつあると推測するかもしれない。しかし、事実はその逆のようである。(p.100)"


SIGNAGE &ENVIRONMENTAL サインと環境デザイン

"ここでのウィットは重量を増し、物理的にも一段と大きい。ポスターや送付物、パッケージを見る人たちは、そこに説得力のあるメッセージの存在を予期しているかもしれない。しかし、(略)物理的な世界で何かに出会うときには、驚きという特別な要素が加わる。それは、初めて雪を見て驚く子供のように、再び新しい世界が見える瞬間だ。(p.101)"


世界のウィット 

"この章では、企業や暮らしにおけるウィットの影響力について考えよう。まず、ウィットと明らかに相性が良さそうなクリエイティブな分野から始め、最後に政治や、生と死など、一見ウィットが場違いに思えるような大きな問題へと移る。作品を見ればわかるとおり、場違いどころか実際はその逆であり、メッセージが深刻な分だけ、ウィットの効果がより一層高まっている。(p.156)"

「世界のウィット」ではウィット溢れる事例をコンテンツ別に分けて掲載しています。


RETAIL 小売

"看板に手招きされ、ショーウィンドウに誘われて足を踏み入れる……ブランド一色に染まった空間に包まれ、欲望に屈し、販売が成立する。ショップの空間はあの魔法の世界だ。小売店舗における購買体験のデザインは今やアートの一形式となり、そこではウィットが重要な役割を担っている。ときには名前と同じくらいシンプルなアイデアもある。(p.183)"


HEALTH 健康

"次に、人間の基本的ニーズのうち、飲食物、健康、教育を取り上げよう。この分野では、思考とコミュニケーションのテクニックとしてのありとあらゆるウィットが見られる。ウィットを使えば、スーパーマーケットの陳列棚から特定のブランドが飛ぶように売れ、あるいは高級品を購入するように消費者を誘うこともできる。しかし、体に良い特定の食べ物を勧めるといった、社会的に有益なメッセージを伝えることもウィットにはできる。「もっと魚を食べよう」キャンペーンの大使として、p. 190のキャラクターよりも説得力を持つものはあるだろうか?"(p.156)


POLITICS 政治

"金融の次は政治に移ろう。ここでのウィットは、複雑なメッセージを人々の記憶に残る、文化遺伝子(人々の心から心へコピーされる情報)の形に要約する力がある。この力は、政府や政党にとって利用価値が高いが、大衆の抗議活動のツールとしても同じくらい効果がある。紙幣に印刷されたポスターは、狂った経済を表す、美しく健全な表現だ。(p.157)"


いかがでしょうか? 便箋に小さく配置するようなロゴから、高架橋以上の大きさがある巨大な看板まで、ウィットに富んだ作品は日々、国・媒体を問わず、数えきれないほど作られています。ユーモラスな表現で見る人の心をくすぐる作品もあれば、琴線に触れる表現で感銘を呼ぶ作品、シニカルさを全面に出す作品もあり、それぞれの作品が違う表情を見せるウィットの世界は広がっていく一方です。本書では、世界中から1000点以上の事例を収録しています。この他の事例は、是非本の中でご確認ください。

次回は、ポール・ランド、ソール・バス、福田繁雄など著名なデザイナーのインタビューが掲載されている『アイデアが閃くとき』に関する記事をアップする予定です。

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