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展示でのドット絵の取り扱いについて

こんばんは。
この記事は「ドット絵アドベントカレンダー2023」のひとつです。
12月14日は私、びねつが担当します。
よろしくお願いします。

まずはじめにアドベントカレンダー主催者のMuscat様、毎年企画いただきありがとうございます。


そして毎年の継続に伴い、人気も注目度も上がっておりまして、今年のアドベントカレンダーは表・裏・端の3つもございます。

執筆するは腕に覚えのあるピクセルアーティストの方々です。そんな方々の読み応えある記事がまだまだ控えておりますので、ぜひとも最終日25日まで追い続けて読んでみてください。

本記事はマニアックな内容です。
たくさんのドット絵描きさんがいろいろな記事をアップされているので、私一人くらいはハードルを下げるような記事でもいいかなと思い、趣味バリバリの内容にしました。内容に関するコメントや感想コメントがほしいです。コメントください。

では、本文へ進みます。




展示でのドット絵の取り扱いについて

私が書くのは「展示でのドット絵の取り扱いについて」です。

私は今年1年で12回の作品展示の機会に恵まれました。
その中でデジタルの産物であるドット絵を現実の空間に展示すると、スマホやモニターの画面で見たときと同じようには見えないことに気づきました。その違和感は良い方向には作用することは少なく、鑑賞する中で特に目立ってしまうことにも気づきました。

その部分とはなにか、またどのように対処したかをこちらへ書き残します。のちの展示に際した作家様の一助となれれば幸いです。


ドット絵の展示の問題点は2つあります。

ドット絵の展示は
・作品の再現性に難がある
・鑑賞体験が制限されやすい

これらをひとつずつ説明したあとに対処のためにしたことを説明します。
よろしくお願いします。


作品の再現性に難がある

当たり前のことなのですがデジタルデータをアナログの物質へ、表現の情報や影響そのままに変換することは難しいです。

物体へ印刷すればその物体の質感が現れます。凹凸や光の反射、経年での劣化なども現れます。スマホやモニター上で見ているそのまま(本当にそのまま)を再現するには同じ状況をそのまま作るよりほかありません。

デジタル表現のアナログ展示はそもそもが変換時に変化が起こるのが当たり前ですから、まったく同じ状況を作ることは不可能です。

ここまで踏まえて、ドット絵の展示がデジタルデータをそのままアナログの物体へ印刷すればいい(デジタルでの鑑賞そのままの体験インパクトを与えられる)というほど簡単なものではないのはわかるかと思います。

なのでデジタル表現のアナログ展示はデジタルでの鑑賞体験の再現や延長を目指すより、そこから切り離されても自立できるだけの意義(作品としての強度)を持たせた別物として扱うことが妥当です。


鑑賞体験が制限されやすい

ドット絵の「解像度変化の影響を受けやすい」という性質が特に鑑賞体験を制限することにつながります。

これはドット絵というよりはデジタル作品全般にも言えることなのですが、特にドット絵で顕著な性質です(ドットが肉眼でとらえやすいので)。
現実の空間だと、作品から離れると相対的に作品の解像度が上がり、近づくと相対的に解像度が下がります。

この性質によって
1. 作品のサイズ、2. 展示会場の大きさ、3. 作品の見え方
これら三方向の釣り合いをとろうとすると必ずどこかが不完全なものになってしまいます。

スマホやモニターは展示会場に比べると小さな画面(加えてデジタルでの鑑賞は鑑賞者の意思で拡大縮小も思いのまま)です。そこでは気にならないような小さなことでも、現実の空間で鑑賞を成り立たせようとした際には大きな問題となります。


たとえば大きな会場に見合うように大きな媒体に印刷して展示したとします。
するとひとつひとつのドットが大きな点に感じられ、スマホやモニターで見たような絵や画面として作品を認識するためには、それなりの距離に離れて鑑賞する必要ができてしまいます。

これを避けるために小さな作品にします。小さな作品だと間(空間)が保たせられません。間(空間)が保たせられるようにたくさんの小さな作品を用意したとしても、ひとつひとつの作品に対する印象が薄れて、鑑賞体験が希釈されたものになってしまいます。


具体例をあげ続けてもくどいのでまとめると

・鑑賞に適した距離は作品の大きさに依存する
・会場の広さに見合った大きさの作品は適した鑑賞距離を実現できないことが多い
・画面としての確かさと与えられる印象、展示空間との釣り合いをとろうとすると必ずどこかが不完全なものになる

これらをまとめてひとことでいうと
「ドット絵の性質は鑑賞体験を制限しやすい」
となるのです。


どう対処するか

・作品の再現性に難がある
→ 再現性から切り離されても自立できるだけの意義を持たせる

・ドット絵の性質は鑑賞体験を制限しやすい
→ 特に鑑賞距離に鑑賞体験が左右されない作品意義や展示の配置にする

流れとしては
作品にドットで描かれた絵であること以外のアイデンティティを持たせる
→ その意義に合った展示空間を演出する。


例として現在開催中の展示「おいしくて かわいくて きれいで」をあげます。
この展示は上記を満たすように作り上げた展示です。



「おいしくて かわいくて きれいで」ではドットでの(デジタル)作品をアナログ作品として展示することそのものに「アナログとデジタル」の対比を見いだしました。

アナログを物質、デジタルを情報を受け持つ媒体として扱い、それらをつなぐものである作者や鑑賞者、ギャラリー、コレクター、評論家といった人々の介在への着目を展示テーマとして作品を制作、展示しています。

→ 「ドットで描かれた絵」以外のアイデンティティです


テーマを支持する時代性を担保するために、既存の美術の歴史上の出来事や扱われ方の流れを汲み、独自性としてグリッド描写による着彩錯視や描画ツールとしての既製品活用、アニメーション、漫画表現など複数の手法を取り入れました。

→ 展示空間と作品の意義(意義をもった作品)をつなぐ演出です。



実例

実際に見てない方は想像がむずかしいはずなので、展示タイトルにもメインビジュアルにもなっている作品「おいしくて かわいくて きれいで」を例に説明します。


おいしくて かわいくて きれいで

この作品はものの作りとしてはキャンバスへモノクロの絵柄をUVプリント、アクリル絵の具によって一部着彩し、グリッド描写による着彩錯視を採用しています。

グリッド描写による着彩錯視はグリッド状の色線があるとモノクロであるはずの画面に色がついて見えるというものです。
遠目で見ると特につよく感じます。近くで見た場合にはモノクロの絵にアクリルで描いたグリッド線が見えるのみです(記事内画像だけではわかりませんが)。

この性質により鑑賞距離が異なっても異なる性質の体験を提供でき(自然と鑑賞距離を変えるよう誘導でき)、またドット絵の性質によって鑑賞体験を制限されることを軽減できます。

そしてデジタルの図案とアクリル絵の具によるアナログの画面が合わさり、特有の錯視効果を発揮することは「アナログとデジタルの対比」を人によりつなぐ、展示のテーマそのものです。この作品は展示を象徴する作品です。



宣伝

この作品だけでなく、展示作品すべてにテーマ性や意図が含まれています。

用いた技法や設定した意図によって実物と写真では見え方や感じ取れるものが大きく異なるようになっておりますので、こちらの展示や作品が気になる方はぜひとも会場へお越しください。


展示「おいしくて かわいくて きれいで」

日程
12/8-12/17
平日 12:00-19:00
土日 11:00-18:00

16, 17日 12-18時 在廊予定

場所
151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目30−7 鈴木ビル 1F アエルベース

ドット絵の性質を踏まえて、ドット絵が美術史にどのような問いや答えを与えるかの可能性を提示した意欲的な展示となっております。
私はもちろん、ギャラリーの者も展示についての解説ができますので美術鑑賞の経験に乏しい方も歓迎です。

最後が宣伝となってしまい恐縮です。
この記事内で提示した問いや答えを、文章だけでなく実際の作品でお示しできればと思い、拙作を提示しました。のちの展示に際した作家様の一助となり、また、単純に展示を楽しんでいただければ幸いです。

皆様のご来場お待ちしております。



明日のアドベントカレンダーは
えきまく(https://twitter.com/liqupillo)さん
かなしの(https://twitter.com/kanashino_)さん
5bai(https://twitter.com/5baihayai)さん
の記事がアップされます。


おたのしみに。
最後までお読みいただきありがとうございました。


※この記事中の鑑賞距離に関する知見と対策は菊池遼氏の博士論文「鑑賞距離から考察する絵画の造形性 ──〈void〉シリーズの分析を中心に──」を参考にしています。


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