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的中に至る病


人生の初期において最大の危険は、リスクを犯さないことにある。

- セーレン・キルケゴール



Introduction


 どんな人生を歩もうと、幸せを得るためには何らかの我慢やリスク・テイクが必要である。食べるために働き、趣味のために苦行をし、恋をするために傷つき、子供のために我が身を捧げる。その繰り返しが人生だ。
 賭博は、その純粋な表現だと言える。金銭や快楽を得るために、金銭を払う。これほど分かりやすいリスク・テイクは存在しない。

「博奕の上手さ」とは、適切なリスクを適切な場面でとり、そしてとり続けられることを指す。私はそう思っている。
 未来は誰にも分からない。馬でも舟でも自転車でも、トランプでもルーレットでもサイコロでも、次にどうなるかはどうしたって分からない。様々な記事で書いてきたが、未来を見通す力などというものは博奕の本質ではない。単なる夢物語だ。
 この小論で、そんな当たり前のことをくどくど語るつもりはない。長々と読んで、結局のところ要約すれば「リスクを適切にとれ!」で済むような投資本を、私は何冊も知っている。
 なぜ人はリスクをとれなくなるのかを逆説的に学ぶことで、勝ち方が見えてくる。それはつまり、そのような敗者がどこにどうやって生息しているのかを見抜けるようになるということだ。これらについて現実的に語って初めて意義がある。

 一方で当記事は、筆者自身、相当に読者を選ぶ内容だとも認識している。『効率的市場論~レース選択の本質について~』の読者であれば、本稿はとてつもなく刺激的で、競艇をさらに楽しむきっかけになると思われる。初めてお目にかかる向きは、たとえば自分が「負けてもいいから当てたい」だとか、あるいは「目の前のレースの的中率を上げたい」などといった感情を捨て去れるか、今一度よく考えてから読み進めてほしい。

 上記に挙げた主要なテーマは、すべて表題に収斂する。
 ギャンブル市場とはいったい何なのか。そしてそれに参加する人間にはどのような性質が備わっていて、どう露出しているのか。どこに勝つ隙間があるのか。だれが勝っているのか。
 すなわち、敗者に内在する「的中に至る病」についての、長いエスノグラフィーである。


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