見出し画像

Big Thief Japan Tour 2022@O-EASTに行った

個人的備忘録としてのライブレポです。

開演前

会場はTSUTAYAからSpotifyに変わって以来、久しぶりのO-EAST。最もBig Thiefに合わない街だなぁと思いながら渋谷の街を歩く。開場20分後に到着すると、ちょうど自分の700番台の整理番号が呼ばれていたので、ストレートにステージ前に。グッズ販売はほぼディスコグラフィのみで、唯一用意されていたのはツアーTシャツ。Beatinkの通販で後でも買えるとのことだったので会場ではスルー。前から5列目程度の場所が取れた。適度な段差や2階席、スペースの区切りなどあって、記憶よりも見やすい箱だった。
後ろの外国人の兄ちゃんがブレイキング・バッドのハンクやソウル並のマシンガントークを繰り広げており、海外ドラマを見ているようだった。話す内容はDos MonosやPhoebe Bridgersについてなど、日本にいる音楽オタクのそれで、アンテナの高さが素直に凄いなと。演奏が始まるとトークがピタリと止んで、本当に音楽好きなんだなとほっこり。

ライブ

ゲストとしてLil Soft Tennisが出演。大阪出身のラッパーの彼に、Big Thiefメンバーからのラブコールで実現したそう。どういう繋がりなんだ。『mid90s』で感じたようなアシッドな雰囲気と、日本の若者や夏のイメージの気だるさが融合したような塩梅がほど良かった。メロディーもしっかりポップで、期待以上に楽しめた。連想したのはKid Fresinoで、彼もちゃんと聴いたらハマるかもと思えた。

Big Thief登場。開幕、底が抜けたような轟音を長尺で鳴らし続ける。言葉通りの意味でもシューゲイズしていて、ライブバンドとしてのタフネスを予感させるようなスタート。かなりアンビエントな方向で突き詰めた音像だったので、そのまま『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』に繋がっていくのかと思いきや、まさかの『Dried Roses』で驚いた。フィドルはなく、代わりにエレキギターが入ってラフになったアレンジ。

そのまま『Certainty』『Blue Lightning』と、彼らのスタジオセッションを目撃しているようなウォームなムードが続いていく。『Blue Lightning』などで向き合って演奏する姿はまさに新作のジャケットそのままで、シャッターチャンスとばかりにスマホを構える人も多かったのが面白かった。ベースのMaxは終始ニコニコしていて、他メンバーの演奏にリアクションしたり、微笑みかけるシーンも多かった。メンバーの中で唯一特筆して印象を持っていなかった彼について、今回のライブでは彼のベースのハイトーンでのプレイがいかに素晴らしいかを感じるシーンが多くあり、認識を改めた。他にメンバー4人ともがバリバリ歌っていたのも印象的。原曲ではAdrianneを重ねているところはBuckやJamesが主に歌っていたけれど、特にJamesの歌声の美しさに驚いた。

続く5曲目で早々に『Cattaills』が観られるなんて。ライブで観たかった度合いで言うと1番だったかもしれず、2.5年前の雪辱を果たすという意味でも聴けて感涙モノだった。Buckがエレキギターで入るアレンジになっているものの、他の曲のようにラウドだったりラフな方向性への変化ではなく、原曲の美しさを尊重した丁寧なプレイだったように思えてウルっときた。そのまま同作から『Contact』へ。これが来るか…!と意外にも感じたけれど、いかにもライブ映えしそうな大振りのダイナミクスがある曲なので不思議ではなかった。後半の絶叫からの爆発の後、ソリッドなタイム感が凄まじく、今日観たラウドなプレイの中では随一の完成度だったように思う。

その後は『Flower of Blood』『Not』と、明らかにタフネスを見せつけるラウドなブロック。曲順結構変えているらしいが、開幕のカントリーラッシュといいある程度は雰囲気で固めていそう。『Flower of Blood』は、原曲の摩訶不思議なスケールをライブで再現できるのだろうか?と思っていたが、ギター2本でここまでやれてしまうんだなと。シンセが廃された分、幾分肉体的なアプローチになっていた。正直聴けると思っていなかったのでお得感のあった曲。『Not』では更に武闘派なプレイで、エイドリアンの超長尺のギターソロが凄まじかった。ただ、ドラムのギアを上げきった後にもギターソロが続いていたようにも感じたので、もう1つ2つ前の山で離陸した方が気持ちよかったかもとも思ったり。そういう意味でも『Contact』の塩梅は絶妙だったように思う。更に、アンビエントな美しさを湛えた原曲をヘヴィなロックに魔改造した『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』へ。極めてわかりやすい跳ねたビートなど、原曲の霊的な気配はさっぱり消えていて、むしろメカニカルな跳動も感じた挑戦的なアレンジ。そんなアレンジにも意外と原曲のメロディーが合っているから不思議。このくらいわかりやすく頭を振れる曲が1個くらいあった方が良いよね。

ここから未発表曲が増えていく。ひたすら同じワードを繰り返す『Happy with You』はなぜか聞き覚えがあるように思えた。過去にライブ動画で見ていたのかな?結構ストイックな展開に感じた。その後、まさかの?『Mary』が聴けて感無量。Adrianneのアカペラパートの親密さは間違いなく今晩の最も美しい瞬間の1つ。バンドセットのライブでは中々弾き語りメインの曲の出番は少なめになるのは仕方ないと思うので、そこで『Mary』が聴けたのは大当たりだったな。コーラスワークの素晴らしさを存分に浴びる。続くは新曲らしい『Vampire Empire』だが、既存曲のアレンジか?と疑っている時間も長かったせいか、正直あまり印象に残っていない。ツアー中に育てているかのように進化しているというツイートも見たので、新譜やそのリリースツアーで再会できることを祈る。『Spud Infinity』のJamesのドラムプレイはやっぱり良い。『Terminal Paradise』では謎のキャンセル(機材トラブル?)が入ってしまったのが残念。最後にAdrianneのソロ曲『not a lot, just forever』をしめやかに演って終了。

アンコールでは新譜の一番人気であろう『Simulation Swarm』と1stの大名曲『Masterpiece』を持ってくる上手な演出。『Simulation Swam』前にはAdrianneがギターのチューニングを不安がる一幕があり笑いが起こる。この曲のギターソロの独創性は本当に素晴らしい。原曲の偉大なフレーズはそのまま残しつつ、ラフで対話向きなサウンドでの提供が良かった。正真正銘のラストソングである『Masterpiece』は完璧としか言えない大団円感。歌い出しでは会場でシンガロングが起こっていたり、会場の熱の高さもグッときた。そもそも原曲からしてライブ映えするというのもそうだけど、一点の曇りもなく最高のクオリティと体験で、曲単位のベストはコレかも。メンバー全員で歌うコーラスの厚みがエモーションに直結していたし、そのハーモニーの美しさで泣けるという完璧さ。メンバー全員が捌けてからも数分間拍手が鳴り止まず、今にもダブルアンコールが始まりそうな雰囲気だった。前回の来日公演がキャンセルしたという悲しい事情もあるのか、ここまで熱量の高い来日公演は初めて見たかもしれない。会場全体にBig Thiefを目撃することの幸福感が満ちていて、素晴らしい夜だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?