くにん

小説を読むのが好きですし、自分で文章を書くのも好きです。「ちょっと不思議な物語」、「ち…

くにん

小説を読むのが好きですし、自分で文章を書くのも好きです。「ちょっと不思議な物語」、「ちょっと奇妙な物語」、「ちょっとほんわかな物語」を書きたいです。 文庫本「九月の雨はクラゲ色」をBOOTHにて発売中です。(https://booth.pm/ja

マガジン

  • 【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

    今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の少年少女が頑張る長編ファンタジー物語です。「竹取物語」をオマージュしています。

  • 【マガジン】掌編・短編小説

    くにんの「短編・掌編小説」を集めております。

  • 【マガジン】詩

    くにんの「詩」を集めております。

  • 【マガジン】閑話

    くにんの閑話です。エッセイ調だったり論文調だったり。性格診断なんかもあったりします。

  • (仮題)魔法探偵シリーズ

    大震災と戦争の合間。ヒトもヒトでないものも落ち着かないでいる帝都を舞台にした、「魔法探偵」諏訪部涼魔の活躍譚です。

最近の記事

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単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

 みなさん、こんばんは。くにんです。   今冬一番の寒波が襲来しているとのこと、寒いですねぇ。  さて、今回は嬉しいお知らせです。  先日から制作作業をしておりました僕の初めての掌編・短編集が、BOOTHの秋風堂書房から文庫本として発売されました!  題名は「九月の雨はクラゲ色」。著者名は「秋野紅人」。これは「くにん」の元々の筆名です。A5の文庫本で266ページです。  ブログ「コトゴトの散文」やnoteに投稿を始めた頃の作品を中心に、全20編を収録しています。

    • 月の砂漠のかぐや姫 第308話

       もう羽磋は、自分の指一本でさえ、自由に動かすことができなくなっていました。  なんとか話を続けようと開いていた口から、意味のある言葉を出すこともできません。それどころか、呼吸をすることさえも困難になっています。  どうしてこうなってしまったのか、もちろん羽磋にはわかっています。でも、それらを引き起こした原因である恐ろしい眼球を、目を閉じて見ないようにすることもできないのです。  羽磋は、目前に浮かぶ巨大な眼球の表面で、「無」へと繋がっている黒い瞳孔がどんどんと大きくなる様を

      • 月の砂漠のかぐや姫 第307話

        「そうですっ、そうなんです!」  母親が投げつけて来た言葉からは、羽磋の言うことがとても信じられないという疑いの念が滲み出ていましたが、羽磋はそれを聞いても眉をしかめたりはしませんでした。それどころか、彼は即座に明るい声を返しました。  羽磋が一番恐れていたことは、母を待つ少女の母親が自分の話に腹を立てて、この場から立ち去ってしまうことでした。でも、母親はそのような事をせずに、彼に問いをぶつけてきたのです。それが疑いの念に溢れた問いであったとしても、羽磋にとっては、とてもあり

        • 【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時 ~サイド ビー

           これは、遠い遠い国の昔々のお話です。  その頃はまだ、電灯はおろかガス灯も発明されておらず、人々は朝日が昇るのに合わせて起き出し、太陽の光の下で畑仕事をしたり家畜の世話をしたりしていました。そして、夕日が沈むのに合わせて仕事を切り上げるのでした。  でも、農作業のような外での仕事を持つ人ばかりではありません。それに、農民にも室内で行う作業がたくさんあります。  そのような者たちが用いた明かりとしては、まず暖炉がありました。つまり、室内で薪を燃やし、その炎で室内を明るくしよう

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        単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

        マガジン

        • 【マガジン】月の砂漠のかぐや姫
          332本
        • 【マガジン】掌編・短編小説
          70本
        • 【マガジン】詩
          30本
        • 【マガジン】閑話
          12本
        • (仮題)魔法探偵シリーズ
          4本
        • 【マガジン】ココロにパフュームを
          4本

        記事

          【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時

           これは、遠い遠い国の昔々のお話です。  その頃はまだ、電灯はおろかガス灯も発明されておらず、人々は朝日が昇るのに合わせて起き出し、太陽の光の下で畑仕事をしたり家畜の世話をしたりしていました。そして、夕日が沈むのに合わせて仕事を切り上げるのでした。  でも、農作業のような外での仕事を持つ人ばかりではありません。それに、農民にも室内で行う作業がたくさんあります。  そのような者たちが用いた明かりとしては、まず暖炉がありました。つまり、室内で薪を燃やし、その炎で室内を明るくしよう

          【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時

          月の砂漠のかぐや姫 第306話

           もちろん、そんなことがあって良いはずがありません。それを止めるために、一刻も早く、地上に戻らなければいけません。  では、一体どうすればいいのでしょうか。  この地下世界はとてつもなく大きくて、どこかに出口があるようには見えません。先ほど見上げたように、地下世界の天井は王柔たちの頭からとても離れたところに有ります。地下世界の地面から何本もの太い石柱が伸びていて天井を支えているのですが、それはとても人がよじ登れるような形をしていません。  ここまで考えたところで、王柔は自分で

          月の砂漠のかぐや姫 第306話

          月の砂漠のかぐや姫 第305話

           でも、地下世界に天井があるということは、その上には地面の層があるということを意味しますし、さらにその一番上には地表があるということでもあります。  頭上を仰ぎ見ている王柔には、地下に閉じ込められている自分たちのちょうど真上に当たる地上で、いま正に繰り広げられているであろう光景が、容易に思い浮かべられました。  弓矢を背負い短剣を腰紐に差した冒頓の騎馬隊が、太陽の強い日差しに晒されて脆くなったゴビの赤土を巻き上げながら、勢いよく馬を走らせています。彼らは遠掛けをしたり家畜を

          月の砂漠のかぐや姫 第305話

          月の砂漠のかぐや姫 第304話

          「ははぁ、なるほど・・・・・・」  ヤルダンは砂岩でできた台地が複雑に入り組んだ地域です。そこには、人の世界ではないどこかへ通じていそうな妖しい岩陰や奇妙な形をした砂岩の塊がたくさんあり、人知を超えた精霊の力が強く働く場所として、人々から「魔鬼城」と呼ばれています。月の民が交易で使用している道は、このヤルダンの台地の隙間を縫うようにして、東へ、又は、西へと伸びているため、ヤルダンの管理をしている王花の盗賊団が、交易隊のために案内人をつけています。  王柔はその案内人の一人です

          月の砂漠のかぐや姫 第304話

          月の砂漠のかぐや姫 第303話

          「もう一つ付け加えさせていただきますと・・・・・・。王柔殿、理亜はあまりに良い子過ぎませんか?」 「はい? いや、理亜は良い子ですが?」  王柔は、どうして羽磋がこんな時に冗談を言うのだろうと、耳を疑いました。「いまはこの上もなく大事で真剣な話をしているところなのに、どうして」と思ったのです。  ところが、羽磋は冗談を言っているつもりなど、全くありませんでした。 「もちろん、それはわかっています。でも、あまりにも良い子過ぎると思うのです。あれぐらいの年の子供であれば、嫌な事が

          月の砂漠のかぐや姫 第303話

          月の砂漠のかぐや姫 第302話

           王柔の様子を見た羽磋は、少しだけ可笑しくなりました。  「あまりにも突拍子も無さ過ぎて・・・・・・」と首を捻っている王柔が立っているのはどこでしょう。いままでにこんな場所があるなんて考えたことは一度もなかった、ヤルダンの地下に広がる大空間です。王柔の向かい側で、地面から少し離れた空中に浮かんでいるのは何でしょう。昔話でも旅物語でも聞いたことのない、大人を数人重ねたほどの大きさで、荒れ狂う嵐を内包しその下部からは絶え間なく雨を降らし続けている、濃青色の球体です。そして、先ほど

          月の砂漠のかぐや姫 第302話

          月の砂漠のかぐや姫 第301話

          「理亜の身体の中に、理亜とあの昔話の少女の二人分の心が入っているのですか? 幾らなんでも、無理じゃないですか? それじゃ、上手く身体を動かせないですよ」  流石にこれは言わずにはいられないという様子で、羽磋と理亜を交互に見ながら、王柔が疑問を差し挟みました。  一つの身体には一つの心が入っているのが当たり前です。一つの身体に二つの心が入っていたら、どうなるでしょう。例えば、一方の心が前に進もうと思っても、もう一方の心は座って休もうと思うかもしれません。ですから、そのような状態

          月の砂漠のかぐや姫 第301話

          月の砂漠のかぐや姫 第300話

           せっかくのこの機会は逃せません。羽磋は胸に手を当てて高まりつつあった動悸を鎮めると、大きく息を吸ってから、声を発しました。できるだけ首を振って、濃青色の球体と王柔たちとの両方に顔を向けるように気をつけながら、羽磋はゆっくりと、そして、はっきりと言葉を続けました。濃青色の球体と王柔たちは、呼吸をすることを忘れるほどに集中して彼の言葉に聞き入ったので、地下世界の地面を流れる川の水音や球体下部から落ちる雨音などは、彼らの意識からすっかりと消えてしまいました。 「皆さんが知りたいと

          月の砂漠のかぐや姫 第300話

          月の砂漠のかぐや姫 第299話

           その少女が地下世界に入り込んできた時から、ぼんやりとした意識の中ではありましたが、母親は彼女から自分の娘に近いものを感じとっていました。その感覚があったからこそ、実際に彼女を見た時に、その容姿が自分の娘と全く異なることに大きな落胆を感じたのでした。また、そこで生じた激しい感情の動きが、久しく眠っていた母親の意識を呼び起こしました。ただ、働き出した母親の頭が導き出した結論は、少女が何らかの目的で自分を騙そうとしているということであり、決して母親本人にとって嬉しいものではありま

          月の砂漠のかぐや姫 第299話

          月の砂漠のかぐや姫 第298話

          「いた・・・・・・」  羽磋の口から、小さな声が漏れ出ました。  ずっと彼は必死になって、濃青色の球体の姿を探していました。ですから、ようやくそれを見つけることができて、もっと大きく喜びを表しても良さそうなところです。でも、身をギュッと固くしてしまった彼の口からは、それ以上の言葉は出てきませんでした。  羽磋が身構えてしまったのは、再び地下世界の空間に現れた濃青色の球体の姿が、これまでのものと全く異なっているように見えたからでした。  外部の物が映り込むほど滑らかだった濃青色

          月の砂漠のかぐや姫 第298話

          月の砂漠のかぐや姫 第297話

           あまりにも理亜の行動が理解できないので、王柔は「そもそも、球体の中で自分の見たことは、夢だったのではないか」とすら思い始めているようです。でも、羽磋は王柔に対してしっかりと頷いて、自分も理亜が自分たちでなく母親を守るよう行動したのを見たと伝えました。  羽磋にとっても王柔のいまの言葉は、自分が球体の内部で見聞きしたことが彼一人の体験やそれこそ夢などではなくて現実であったことを、確信させてくれるものでした。「やはり、自分の考えに間違いはない」と思った羽磋の顔には、再び焦りの色

          月の砂漠のかぐや姫 第297話

          月の砂漠のかぐや姫 第296話

           理亜の言葉で、いまでも彼女が自分を好きでいてくれていることを確認できて安心した王柔は、激しく感情を昂らせた反動もあってか、彼女の身体に手を回したままで少し気を緩めていました。そこへ飛んできたのが、思いがけないほど厳しい羽磋の声でしたから、王柔は仕事中に居眠りをしていたところを揺り起こされた子供のように、理亜の身体からすぐさま手を離すと、背筋をピンッと伸ばしました。 「す、すみませんっ、羽磋殿。あ、えーと、あの球体ですよね、濃青色の。あれは・・・・・・、いや違う・・・・・・。

          月の砂漠のかぐや姫 第296話