見出し画像

ひまわりのワンピース

小学生の頃、大好きなワンピースがあった。

そのワンピースは、少し大きめの、幼稚園児の手のひらぐらいの大きさのひまわりの花の刺繍がたくさんワンピースに施してあった。

お気に入りの理由はもうひとつあった。
それは、半袖の「ちょうちん袖」だったこと。
今はちょうちん袖と言わなくなったかもしれないな。
いわゆるパフスリーブのことで、袖の部分をふっくらとさせて縫いつけたもので、なんともかわいらしいのだ。

このワンピースを買ってもらったのは小学校の低学年の頃だったと思う。
お店に売られていたワンピースは、大きめに思えたが、これなら少しは長い間着られるだろうということで買ってもらえた。

こんな話を書いているが、小学生の時分に特におしゃれに目覚めたということはなかった。洋服に興味を持つのはずっと先の話だ。
それよりも外で遊ぶのが大好きで、男子と一緒に野球やおにごっこ、縄跳びなどを毎日のように楽しむ活発な子どもだった。
いつも日焼けしていて、泥だらけになって戻ることも少なくなかった。

だから、ひまわりのワンピースを着るのは特別な時だ。
学校で発表があったり、ここぞという時にキメたい気持ちになったとき。
半袖だから春から夏までしか着られない。
いや、秋に着てもいいのだろうが、ひまわりの柄だからなと思っていた。

そうやって大事に着続けたワンピースだったが、不測の事態が発生した。
急成長したのだ。私が。
背丈がぐぐんと伸びてしまった。
小学生の頃から背が高かったが、思った以上に背が伸びてしまった。

背は伸びたが小学生の頃は痩せていた。
だから、しばらくはひまわりのワンピースを着ていた。
でも、着丈はどんどん短くなった。
それでも、好きだったから着ていた。
今でいうところの「マイクロミニ丈」になるまで着ていた。

ある日、お店のガラスドアに写った自分の姿をみて、
諦めなくてはならない時が来たことを悟った。
あまりにも短い着丈になってしまっていたことに、愕然となった。

自宅に戻り、見間違いではないかと思い、もう一度着て鏡の前に立ってみたが、ガラスドアに写った時と同じだった。
いつものように洗濯してもらい、干して戻ってきたワンピースをしばらく机の上に広げて眺めていた。

私は観念してワンピースを脱ぎ、ていねいに畳んだ。
タンスの引き出しにそっとしまった。
名残惜しくてもう一度タンスの引き出しを開けて、そして閉めた。

それ以来、もう二度とそのワンピースを見ることはなかった。
母が処分したのだろう。
後にも先にも、あの「ひまわりのワンピース」を超えるほど好きな服には出会えていない。

いつかあの服を超えるほど好きな服に出会えることはあるのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?