「未練」

佐和ちゃんと別れた僕はまだ彼女のことが忘れられずにいた。

(もう一度やり直したい)
やりどころのない思いを悪友の良祐にぶつけた。

「どうすりゃいいんだよ?」

「そんなに好きなら彼女のウチにでも行くか?
そこまですりゃ向こうも気持わかるだろ?」

そのまま僕と良祐は電車に乗った。
もう終電近い時間だった。

とはいえ、彼女の家の住所はわからない。
僕が知っているのは彼女のウチの電話番号と「およそこの辺りに住んでいる」ということだけ。

彼女の住む街の辺りまで行って公衆電話から電話してみたが誰も出ない。
今のように携帯もない時代だ。
その時点ですでに電車はなく、このまま朝までここにいるしかない。

住所だけでも分かれば?

良祐は悪知恵に関しては天才的なやつだった。
奴は電話番号案内に電話をかけ、
「上司が急病ですぐに行かないといけないんです。
だから住所を教えてください。」
電話番号案内は住所から電話番号は教えてくれるがその逆はない。

良祐の悪知恵のおかげで彼女の家の住所を教えてくれた。

公団のような団地に彼女のウチはあった。
が、いくつも棟があり、どこが彼女のうちなのかはっきりとはわからない。

ここかな?と思われるところまで行き、もう一度彼女に電話をした。

彼女が出た。

「表で待ってる。
もう一度話をしたい。
ちょっと出てきて。
出てきてくれるまで待ってるから。」

彼女の話もろくにきかず、僕は電話を切った。

しばらく待ったが彼女は現れなかった。



そのまま僕と良祐はファミレスで朝まで苦い珈琲を飲み続けた。



つづく


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