「みょーじ」

何もすることのない連休。
彼女の名前、いや元カノの名前を検索バーに打ち込む。
彼女のいない僕はいつもこんなことを繰り返している。
友人達は、彼女とデートにでも行っているのだろう。
連休にまで部屋に引きこもって時間を持て余しているのは、僕くらいのものだ。
友人達が恋人との思い出をインスタグラムに載せているのを見てしまうのが嫌だったから、彼らのインスタグラムは全てブロックした。フォローしているのは、個撮モデルをやっているような女の子と女性向けのサロンだけだ。ショートカットを得意とする美容師のアカウントには、僕好みのショートヘアの女の子の写真がずらりと並んでいる。僕は、そんな人生を謳歌しているであろうキラキラした綺麗な女性が並んだホーム画面を見ていると何だかどうしようもなく惨めになって、FANZAのセールで買ったアダルトビデオを見てしこたまオナニーをして燃え尽きるように眠り込み、格安唐揚げ弁当を買ってついでに近所のゲオでポケカのパックを買ってレアカードが出たとか出なかったとかで一喜一憂する。別に、自分でカードゲームをするわけではないというか、そもそもする相手がいないのだから、レアカードが出たらすぐにメルカリで売り飛ばしてしまう。以前、当てたマリィのカードは五万円で売れた。おかげでポケモンカードでの収支は黒字だ。とは言っても、その臨時収入はすぐに風俗とパチンコで擦ってしまった。もう僕の人生は逆転しようのないところまで来てしまっている。僕の生活、いや人生における感情の起伏なんてこんな程度のものだ。僕は僕以上にはなれず、僕以外の誰でもない。

そんな僕にも、幸福になれる。いや、幸福になれたであろうチャンスはあった。それが彼女だった。
彼女との日々は、僕の無味乾燥な日々を美しく彩ってくれた。カラオケにすら行ったことのなかった僕をいろんなところに連れ出して、生きる意味やこれから生きていられるだけの思い出を僕にくれた。彼女と一緒に手を繋いで歩いた下北沢の街は、当時のバンド仲間と初めてスタジオに入った時よりもずっと輝いていて、アルコールによる幻惑や無謀な夢がもたらす高揚感と違ってしっかりと、地に足のついた幸福感があった。繋がれた手の温もりと同じくらい確かに。
けれど、彼女は僕から離れていってしまった。何が悪かったのかは分からない。彼女から連絡があればすぐに返事を返したし、呼び出されれば深夜であろうと原付を飛ばして会いにいった。それなのに、だんだんとデートをドタキャンされるようになってしまい、最終的にはふっつりとほつれていた毛糸が切れてしまうように彼女との縁は切れてしまった。何か悪いことがあったのだとしても、彼女はそういうことを何も言ってくれなかったから童貞だった僕には気付きようがなかった。インスタグラムは、ブロックされてしまったから見られないけれど別のアカウントから、アイコンだけは見ることができて、あれから何年も経っているのに、いまだに僕のイラストをアイコンに使ってくれていることに、僕は嬉しくなってしまうと同時にどうしようもない惨めったらしい気持ちになってしまう。そもそも、僕たちは付き合っていたのだろうか。彼女にとって僕は、単なる火遊び程度だったのかお知れない。チェンソーマンで姫野先輩が言ってたみたいに「やっぱ男の子からかうのが一番おもしれーや!」くらいの感じでさ。

彼女がくれたライブのチケットに記名された漢字のフルネームを検索バーに打ち込む。インスタグラムやラインで表示される名前と違って、全て漢字で記名されたフルネームはリアルに生きている人間なんだなと思わせてくれる。彼女のフェイスブックが検索に引っかかる。プロフィール画像の中の彼女は僕と親しかった頃の派手な金髪ではなく落ち着いた地毛に近しい綺麗な色に染められていて、桜を背景に学位記を抱えた袴姿だった。僕の知らない彼女の姿に涙が溢れてしまうけれど「君は僕と違ってちゃんと大学を卒業したんだな」と何だか親のような感動を抱いてしまう。ダラダラと四六時中、裸で抱き合って「二限間に合うかな〜?これ、落としたら留年だよ〜!」なんて言って笑っていたけれど、投稿を見る限り無事四年間で卒業して、就職もできたらしい。君が曲を褒めてくれたのが嬉しくて続けていたバンドに本腰を入れて大学を辞めて、曲作りに夢中になっていた矢先、コロナが流行してライブは軒並み中止になり、それでもコツコツ音源作っていこーぜと説得したものの、バンドメンバーは就活に切り替え始めあっさりとバンドは解散し、大学を中退したフリーター(笑)の僕だけが残った。僕には、もう夢も恋人もない。手元にあるのは惨めったらしくて卑屈な性格と持て余した性欲だけ。彼女の苗字が変わっていないことに安堵する。交際ステータスは設定されていないから彼女に彼氏がいるかは分からないし、設定されていなくてもセフレが何人もいる可能性だってある。でも、少なくとも彼女はまだ独身だということが僕にとっての救いだった。あのまま彼女と付き合えていてらどうだったんだろう。まじめにバイトして一緒に旅行に行って、思い出を作って、大学も辞めずに済んで、就職してやがては家庭を持って、週末には元バンドメンバーとスタジオセッションをする。いいじゃないか。僕は、夢を見ている。そんな夢を見ている。

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