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退職日記② 最初の決断

辞令はいつだって急だ。そんなものだとはわかってはいたが、家購入の一大イベントを前にした藤田家は大きな選択を迫られた。

当時、妻は米子市内の会社に勤務。子供は当時3歳で保育園に通っていた。そして、僕は3週間後には本社勤務につくよう命じられた。決断のタイムリミットは近づいていた。

優先順位

まず、決まっていたことは家族は一緒にいること。子供が小学生以上なら僕の単身赴任も選択肢に入ったが、まだ手がかかる年頃。妻が一人で働きながら子育てするのは負担が大きすぎた。(ただでさえ、運動部時代は長期出張も多かったり、だいぶ苦労をかけている)。

「家は諦めるしかないね」

妻はそう言った。内示から2日後には契約が待っていたこのタイミングでは「やはり無理か」と夫婦でその想いに蓋をするしかなかった。ようやく出会えた工務店さんに菓子折を持ち、事情を説明して泣く泣くキャンセルを伝えた。

人生の舵取り

それから数日。

僕の中でどうしてもしこりみたいなものが心に引っかかっていた。家を諦めたくなかったのだ。今考えると、単に一般的に家を持つ年齢で、心地よい住まいでゆっくり暮らしたい、くらいにしか思っていなかった。だが、当時の僕は、その夢が目の前からなくなるのが、どうしても受け入れられなかった。

「自分の人生の舵は、自分で決めたい」

そこからは、勢いもあっただろう。妻を説得した。「土地を買おう。仕事を変えてでもこの家に住もう。まだ公務員試験も受けれる」。計算のできない人生よりも、「安定」という人生を選ぼうとしていた。

妻は僕よりはるかに冷静に物事を見ることができる人だが、この時は滅多に押し切ることのない僕の意見に、そこまで言うなら。。。と一応の理解を示してくれた。

僕は貯金をはたき、土地を買った。
これで後戻りはできない。
人生を決めたぞ、僕は。

これが最初の決断だった。

(続)


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