sachiko takahashi / ulus

本の編集をしています。出版レーベルulus publishingの活動を通して気づいた…

sachiko takahashi / ulus

本の編集をしています。出版レーベルulus publishingの活動を通して気づいたことなどのメモ。

最近の記事

思って忘れて生きていく。

何事もそうだろうと思うけれど、自分のしている仕事に対して真に誠実であろうとすることは、言うほど簡単なことではないような気がする。 もちろん、いつだってできる限りのことはしているつもりだけれど、後になって思えば「締め切りが迫っていたから」「手間がすごすぎて割に合わないから」「そこまでは求められていなかったから」、、、反省と言い訳はいくつも考えつく。 人は、弱い。けれども、自分の弱さを自覚していることは、とてつもなく強いことなのだと、この本が教えてくれた。 大きな声、強い力、

    • いつも何度でも読む。

      高砂淳二さんの撮る写真が、どうしようもなく好きだ。どうしてなんだろう。高砂さんの撮る自然は本当に生き生きとしていて、美しいし、可愛いし、ほっこりするし、癒やされる。しかし私は、それと同時に「何があっても生きるしかないんだ。幸せになるしかないんだ」という決意表明を感じてしまう。その奥底に流れる覚悟のようなものに、心底魅了されている。 「yes」は、詩人の覚和歌子さん(千と千尋の神隠しの主題歌の作詞をした方)の詩と、写真の共鳴具合が絶妙すぎて、本を手に入れてから何年も経った今で

      • 何も写っていない写真に惹かれて

        それまでソール・ライターの名前なんてちっとも知らなかったけれど、フライヤーの赤い傘とアスファルトに積もった雪に足跡のついた写真に見せられて、写真展を見に行ったのは3年前。それはファッションフォトグラファーとして活躍していた時代にも大きくフォーカスを当てた展示で、あれ、期待とはちょっと違ったかと少しの違和感もありつつ、でも惹かれる写真も多かった。 2年が経ち、またもや写真展があると知り、やっぱり気になって出かけた。今度のチラシのメインビジュアルは、またもや赤い傘越しの街角。今

        • ウマに興味があったわけではなかった。

          べつに、ウマと話がしたいわけではなかった。ウマを飼う予定もなかった。たぶんだけど、この本を手に取った多くの人も、実用書としてこれを選んだわけではないような気がする。 犬やネコの気持ちなら、なんとなく推測することはできるかもしれない、と思う。けれど、ウマは違う。ウマに、「馬語」というほどの細やかな感情があるんだろうか? あるのかもしれないが、自分の守備範囲外すぎてうまく想像ができない。でもなんだろう、馬語。話せたらもしかして楽しいんじゃない? 自分の持つ好奇心に、ナナメから入

        思って忘れて生きていく。

          ぜいたくな時間

          沢木耕太郎の「深夜特急」、星野道夫の「旅をする木」、妹尾河童の「河童が覗いたインド」、武田百合子の「犬が星見た」……かつて夢中になった旅行記はいくつもあったけれど、そこに最近加わったのが、大竹英洋さんの「そして、ぼくは旅に出た。」。 何の脈絡もなくオオカミの夢を見たことをきっかけに自然写真家ジム・ブランデンバーグという存在を知り、彼に憧れ、ついには弟子にしてもらうために伝もないままに北米への旅を決意する。携帯電話もインターネットもSNSもなかった時代の話。本の中に流れる時間

          ぜいたくな時間

          ワイルドな昔

          トシを取ると、歴史が気になり出すのはなぜなんだろう。若い頃みたいに自分のことだけが関心事ではなくなったり、過去に生きた人たちがいたからこそ今自分も生きているんだということが胸に迫って感じられるようになったからだろうか。それに、かつて自分がいた「昭和」の時代はすっかり過去として扱われるようになり、当時意識していなかった良さみたいなものを再認識する機会も増えた。そうやって消えていった、名前も付けられていない尊きものが、遡ればもっとたくさんあるということに気づき始めたからかも知れな

          小さな世界への旅

          子どもの頃、よく遊んだ原っぱにはさまざまな雑草の花が咲いていた。シロツメクサ、オオイヌノフグリ、ハコベ、カラスノエンドウ。ペンペングサ、オオバコ、ネジバナ、ヒメジョオン、月見草、カタバミ。私が幼少期を過ごしたのは埋め立てられた土地で、豊かな自然とは縁がなかったけれど、それなりの種類の花があった。それの中に、どうしても名前の分からない花があった。10センチほどスッと伸びた茎から、一つだけ咲く小さな紫色の花。可愛いまん丸の実。摘んで持ち帰っても、すぐにしぼんで枯れてしまう。植物図

          小さな世界への旅