英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2017/18『マノン』

 感情が、ストーリーが、音楽が、すっと入ってくる。プロットレス作品のようにじっくり考えさせられる作品も良いが、何も考えずとも自然と感動し、心が充ちる作品も必要。それがケネス・マクミランの『マノン』だと思う。

 

第一にキャストが素晴らしい。サラ・ラムのマノンは、本当に人目を引く。主役だからではない。美しい金髪、顔立ち、スタイル等持って生まれたもので魅了する。しかし表面的なことだけではなく、感情表現も絶妙だった。愛を知り、その喜びを噛みしめるも、簡単に金に揺らいでしまう。決してその愛が軽かった訳ではないが、それほどに金の力は大きいのだ、と感じさせる。間で揺れ動く苦しげな表情がなんともいえない。美しいものが破滅に向かっていく様は痛々しくもある種の美学を感じさせる。
 ワディムのデ・グリューは物語で唯一の存在だろう。金がものを言う時代に、彼の愛にひたむきな純粋さが際立っていた。身体のラインすべてが美しく、「ああ、彼はバレエ大国・ロシアで育った人なのだ。」と改めて感じた。そこにロイヤルの演劇性を混ぜたハイブリッド。彼がロシアに留まらずロイヤルで踊ってくれていて本当にうれしい。
 平野亮一さんのレスコー。酔っ払いのシーンはユーモアと茶目っ気で溢れていた。先日彼のドキュメンタリーを観たからこそ「こういう役がやりたいから、耐えて耐えて耐えてロイヤルに居続けたんだ。」と思い涙が出てしまった。



そんなダンサーたちは「ロイヤルに憧れる理由の1つは、マクミラン作品を踊りたいから」と、口を揃えて言う。
 これを表現しきるダンサーたちはもちろんだが、やっぱりマクミランが、すごい。奥様のインタビューで、当時フィギュアスケートにハマっていたとの話があった。彼は子供の頃タップや映画好きであったこと、絵画も集めていたこと、など、彼はバレエの枠にとらわれないアンテナを持っていた人物なのだろう。音楽の選び方、バレエの枠を超えた官能的で美しすぎるパドドゥ、心情の書き方、キャラクター……。振り付けだけでなく、全体を扱うプロデューサーとしての才能に溢れている。

 前回のバーンスタイン・センテナリーに続き、ロイヤルの繁栄には振り付け家の存在が大きいことを感じた。

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nico

大学生。バレエを観るのが好き。ロイヤルバレエは箱押し状態。 歌舞伎や名画座通いも趣味にしたい。専門知識はないので、思ったことをつらつら書いてるだけ。
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