フローリスト的、感性をデザインに落とし込む方法 vol.3
禁断のバラ
S:禁断の黄色いバラ、しかもスタンダード咲き。レッスン花材とリンクさせたアキレアとキャロットソバージュでやってみます。
B : えー!!びっくり!
S:え~ですよね笑。これも、デモだから出来ること。私の中のチャレンジで、いきなりレッスンでは無理ですね。
B : じゃあ今日はこの禁断の花材で遊んでみようっていう感じですね。
S:そう、遊んでみます!
由美さんや幸恵さんのパリスタイルでは、使う花とあまり使わない花とがはっきり決まっていて、スタンダードローズ、しかもイエローローズを積極的に使うことは今までなかったと思います。なので花材を見てとても驚きました。
そして、この変化を生んだのは何なのか、幸恵さんの心境の変化はどうして?と好奇心がムクムク。デモブーケを束ねて頂きながら、さらに聞いてみました!
B : 私たちディプロマ生は特に、師匠である由美さんの花合わせがとても気になります。幸恵さんもやっぱり意識されてますか?
S:ディプロマレッスンでは、もちろん意識してます。由美さんが好んで使わないものは使わないです。でも出会った15年ほど前の由美さんの花合わせと、今とでは少し違ってきてるんですよね。由美さんが進化しているのに私だけ留まってるわけにはいかないと思う。ディプロマは基本的には由美さんの花合わせでやりますし、迷ったときは由美さんのInstagramとかは良くチェックしてますね。
B : なるほど。でも幸恵さんご自身のレッスンに関しては、幸恵さんの感性で自由に選んでいるってことでしょうか。
S:そう。そこは逆に由美さんに寄っていくのもおかしい。由美さんの延長線上に私がいるわけではなく、私は私としてやってるから。じゃないと、来てくださる方に申し訳ない。由美さんのほうを向いてやるんじゃなくて、私が向くべきは来てくださる方だからね。そこは大事にしてます。
長く一緒に仕事をしてきたからこそ、影響もたくさん受けているはず。師匠と慕う方と線引きをしてレッスンするのは難しいことだと思うのですが、でもしっかりと自分のスタイルを持っているからこそ、良いバランスで両方をこなせているのかなと感じました。
そうして話しているうちに、ブーケを束ね始めた幸恵さん。デモブーケについて伺いつつ、さらに幸恵さんの感性を育んだものについて探ってみました。
S:今日は禁断のスタンダードローズですが、バラがいい悪いと思ったというよりは、この黄色がいいなと思って選んだので、バラが主役というわけではないですね。
B : アキレアの花の中心が少し黄色いから合うんでしょうか?
S:あ、それもあるかも。私、主役の花から決めるわけじゃなく、かといって主役から選ばないと決めてるわけでもなく、何も決めてない。目が合って、さらに話しかけてくる子。会話が始まる子から、あ、そうなん?と思ってそこから広げていく感じ。良く花合わせいいですよねって言われるんですけど、秘訣とかほんとに無くて。
B : 植物と会話する、話しかけられるっていうのは、他の人にはわからない、伝えるのが難しい感性の部分なのかなと思います。
そういう感覚は、お花を始めてからのものですか?例えば前から、景色とか美しいものを見た時に同じような感覚はありましたか?
S:あ、それは前からあります。結構、感動しいです。みんなさらりと流すところをいつまでも立ち止まってウットリしていたり。私はあんまり自分を表現するのが得意じゃない。だから喜びとか悲しみとか、自分の中で完結しがち。「めっちゃ綺麗、見てみて!」とかあまり言ったりしないですし、逆に人に言われても響かないんです。例えばきれいと思った絵の前でじっと見てて、そんで勝手に物語作って自分でその中に入り込んだりしてます。
由美さんは私のことをメルヘンっていうんですよ。でもそれは自覚あります。私の中にメルヘンタイムっていうのがあって、待ち合わせに向かう途中でも突然メルヘンタイムに入ってしまうから遅れがち。信号待ちで目に入った向日葵が、めっちゃ頭もたげてるな~重そうやな~とか見始めてしまう。だから早く出てもいつも遅刻するんです笑。
B : いろいろと目に留めてしまうんですね。
S:そう、それは目だけじゃなくて匂いもそうだし、触った感じとか。木とか石とか気になったらめっちゃ触ります。
ちょっと変わってるかもね、と笑う幸恵さんですが、その心にひっかかる小さな何かをそのままにせず、五感を働かせて感じようとすること、その積み重ねが幸恵さんの感性を育てていったように思えます。彼女にとっては自然で無意識にやっていることなのでしょうが、そうやって小さなサインを見逃さないようにすることは、もしかしたら私たちでもやれることかもしれない。それができたら、私も幸恵さんのように植物と会話できるかも。そうしたらどんなに楽しいでしょう!
B : 目に留めたものの中で心に残ったものから、例えば色合わせなんかもこれがいいな、と思うものができていったのでしょうか。特に勉強したわけではなく。
S:はい、色合わせ、花合わせなんかは特に勉強したという事はないです。でも、レッスンで説明していく中で気が付いたことは、私は質感が好き。色、形だけじゃなくて質感にとても心惹かれて選んでいます。
B : こういう質感が好きと決まっているわけではなく、その時にいいと思うものを手に取る感じですか?以前、キイチゴの葉っぱがツヤツヤしすぎていてあまり好きではないと伺った記憶があります。
S:そうですね、その時にいいと思うものですね。でもキイチゴは今もやっぱり好きじゃないし買わないです。たぶんそれは、パリが好きだからかも。パリの街並みにあのツヤツヤは合わないと思うし、だから私もあまり心惹かれないのかもしれない。
やはり、パリは幸恵さんのなかでも大きな部分を占めているよう。確かに、ちょっとくすんだグレーでシックな街並みに、つやつやの葉っぱは浮いてしまいそうですね。石造りの建物、石畳の質感とそぐわない感じです。
そうして話すうち、デモブーケが出来上がってきました。あと一歩で気に入る感じになると言いながら調整を重ねてみえます。
S:久しぶりに使う剣先咲きのバラと、コミュニケーションがうまく行ってないです。会話ができてなくて、お互い一方通行。でも、もうちょっといじってたらいい感じになると思う笑。。
市場に行くと、お花屋さんとかガンガンお花を手に取って買っていくんですよね。全然、見てないんですよ。私には考えられないです。ちょっと挨拶くらいしいやーって思う笑。私はめっちゃ見ます。ぱっと見みんな同じに見えますけど、全然違うし、そこにあるもの全部をよく見ます。
私の花合わせがいいと言ってくれたり、ブーケが素敵といってもらえますけど、そこにはなんの秘訣もテクニックもないんです。でも唯一私が負けない、私だけの強みがあるとしたら、私だけの植物との世界、植物とのやり取りかもしれない。だからこそたぶん、真似はできないと思う。私だけのやり取りだから。
B : それはレッスンでも伝えるのが難しい部分ですね。
S:そうなんですよ、、難しい。できるだけシンプルに、そぎ落として伝えてます。市場ではとにかくこだわって選びます。なんとなくでは絶対に選ばないし、あきらめない。葉っぱ一枚、枝の先端まで一つ一つ見て、これだ!と思う子が入っている束を買います(注:市場では基本的に10本単位などの束で販売されている)。仕入れに関しては、由美さんが「この人、本気で死ぬ気で仕入れしてる」って言ってくれましたけど、確かにそれくらいのエネルギー量で植物を見てます。
めっちゃバラ喜んではる、可愛い、だいぶ愛着がわいてきました!と、徐々に今日の花材とも会話し始めた幸恵さん。そうして出来上がったブーケは想像をはるかに超えて素敵で、今まで禁断の花材だったスタンダードローズが一気に魅力的な花材に思えたのです。
ディプロマレッスンで繰り返し言われたこと、「花材をよく見て。枝ぶりや佇まいの素敵さを活かすところにいれてあげて」ということの大切さが、ああ、そうか!と、またひとつ理解できたように思いました。
最後にお聞きしたのが、パリに行けない今、何か意識してやっていることはありますか?ということ。その答えは、幸恵さんらしくとても前向きなものでした。
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