写真1_2_4_耕地整理予定図

坂元棚田の特徴-長方形区画-

坂元地区を一大耕作地へと変える今回の開田計画。その要となる灌漑水源が決まり、導水計画が定まったことで、ようやく農地(耕地)を設計する段階に移ることができた。

それ以前にもわずかな水田や畑があったものの、この地のほとんどが何もない原野だった。一から新しい農地を作っていく。そうであれば、できる限り生産性の高い使いやすい農地を作りたい。

農地区画の設計には、耕作の利便性や地積などを考慮しなければならない。この地は、過去の土砂崩れによって生まれた扇状地なため、傾斜が急で、下層に多くの石(礫)がある。そのため平地のように区画を大きくすることは難しい。そこで、下層の石を利用して石垣を築いて水平面を作ることにした。緩傾斜の場所では、長辺20間(36.4 m)、短辺7間5分(12.76 m)の五畝歩(約 5 a)、急傾斜の場所では長辺20間(36.4 m)。短辺4間5分(7.3 m)の3畝歩(約 3 a)の均一化した長方形区画の水田を上から下まで27段に渡って連なる119筆(区画)の水田群を計画した。

一般に、全国の棚田の区画形状は、不整形な等高線区画と整形された長方形区画の二つに分類される。等高線区画は、文字通り区画が等高線に合わせて配置されているもので、近世前に作られた古い時代の棚田の多くで見られる形状である。区画の長辺を等高線に沿って湾曲、または曲折させてた「折線型等高線区画」か、既存の小区画のいくつかの水田をできる限り既存の道路や水路を残しながら合併させてある程度大きくさせた「耕区拡大型等高線区画」があり、両者が混在していることも多い。長方形区画は、平坦地と同じような碁盤目状の配置になっている形状である。主に戦後の土地改良事業によって改めて整形された棚田形状で、1本の道路が2区画の水田の短辺に接する形を基本とする(2区画1道路方式)。等高線は長辺に平行で、長辺沿いに上下区画の段差が発生する。傾斜が一様で地形の湾曲がない所でよくみられる形式である。地形の湾曲が大きいところでは、道路と区画の段差が大きくなるため進入路を別に確保する。さらに地形の湾曲や傾斜が大きいところでは、1区画に1本の道路が対応する形態(1区画1道路方式)にすることで、道路と区画の段差を解消させる。しかしこの方式は多くの道路を必要とするため、農地内に占める道路の割合が多くなる欠点がある。

松井が計画したのは長方形区画の棚田形状で、緩傾斜区間に2区画1道路方式、急傾斜区画に1区画1道路方式を採用している。これは、耕作器具の運搬や労力としての牛馬、とくに馬を使うことを想定したものだった。それぞれの道から、他の耕作者の区画を通ることなく、自分の耕地区画に馬とともに入れるように小さな道をつけた。これは当時としては画期的なもので、現在の農業土木技術となんら変わらないことに驚く。松井の設計思想には、当時の近代化農業の在り方、耕地整理学の思想そのものを感じることができ、上野博士の思想がにじみ出る設計となっているのである。

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