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何がよくてそんなところにいるのだ

 菜園に、モグラが起こした土の隆起がよくできる。地中を移動するルートがそのまま軌跡となり、おもちゃの山脈のようになる。
 モグラは野菜を食うわけではない。主食のミミズや虫を求めて土中を動き回るのだ。野菜の種を播いた後や発芽直後などにやられると悪影響が出る。
 そういうのを目にするたびに、どうして土の中になんか棲んでるんだ、などと腹を立てながら土の隆起を踏んで歩く。

 モグラは生活圏が土中だから常に闇の中。で、目は退化してしまった。そんなことになるなら地上で暮らせばいいのに、と思うが、ま、自然がつくりあげた企画書通りに運命づけられているのだからしかたがない。

 先日、小笠原海溝の水深8,336メートルの深海で泳いでいる魚が発見されたという報道があった。
 発見したのは、東京海洋大学や西オーストラリア大学などで編成された国際チームだそうで、これまでの8,178メートルを上回り、「最も深い場所で確認された魚」としてギネス世界記録を更新したという。

 この魚はクサウオ科の魚だというが、名前は出ていなかった。科までわかっているのだから、たぶん名前もわかっているだろう。せっかくだから名前も披露すればいいのに。
 オタマジャクシとウーパールーパーを足して二で割ったような姿はかわいらしく、深海魚にありがちな奇妙な姿形とはほど遠いと感じた。ちなみに、体長は20センチから30センチと推定されるとのこと。

 このチームによると、魚類が生存できる水深の限界は理論上8,200メートルから8,400メートルほどだという。
 この魚が発見された水深8,336メートルの深海では、気圧が833気圧にもなる。想像を絶する過酷さであろう。加えて、地中同様真っ暗であり、水も冷たい。

 この魚、なぜこんな深海に棲んでいるのだろう。モグラと同じく、自然がつくった企画書通りになっているわけだけど、それにしてもなあ、と思う。何がよくてそんなところにいるんだ、と。

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