カレーライス (仮)01


「ねぇ、これぐらい?」
「どれ? あ、そんなもんでいい。もっとデカい方がいいか?」
「どうだろ? ま、いいんじゃない」

 松男は「まかせる」とだけ言うと、再び玉ねぎのみじん切りに取りかかった。キッチンからは時折、くしゃみとため息の中間のような音が漏れている。どうやらみじん切りは相当につらいらしい。

 紙袋一杯に入った玉ねぎをみじん切りにするには、相当量の涙と鼻水に立ち向かわなければいけない。涙をぬぐいながら、鼻水を袖でおさえながら、きっとひたすら包丁を動かしている。涙と鼻水で松男の顔はグシャグシャになっているんだと思う。

 ニンジンとジャガイモは私の担当。私はダイニングテーブルの上でそれぞれの大きさを切りそろえている。二人並ぶには狭すぎるキッチンだし、二人並ぶ理由を見つけないと一緒にキッチンに立つのはやり過ぎな気もする。首を伸ばせば松男の背中は見えるはず、いちいち確認しないけど、私はグシャグシャになった松尾の汚い顔を想像して、少しおかしくなった。声には出さないけど、自分の口元が笑っている。

 土曜日、松男は大きな寸胴鍋を持って現れた。

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カレーライス (仮)01

boobyn

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boobyn

カレーライス

すれ違いの物語。別々の時間に生きる人がある瞬間ふいに波長を合わせるような話です。大切に感じることを形にできたらと。
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