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First Man/ファースト・マン

これは最愛の娘を亡くし、ただ寡黙に最善を尽くしただけの一人の男の物語。

たぶん彼は死ぬことなんて怖くはなかった。だって自分の小さな娘も経験したことだから。それよりも怖いのは自分がベストを尽くせないこと。だってベストを尽くしたはずの仲間たちがことごとく死の淵へ向かっていった。その先のことは誰にもわからない。

だからこそ月面に降り立った彼の最初の言葉は、自分個人としての想いではなく、地球にいる人類全ての代表であるという証のものだった。

そんな彼にももう一人の子供がいる。強く家庭と彼を支える妻もいる。
寡黙で正直な夫を時には親友みたいに時には母のように包み込む妻はまさに母なる地球という感じだった。夫への信頼と労りを表現したクレア・フォイの演技が素晴らしくて「蜘蛛の巣を払う女」の彼女はなんだったのかと思う。

個人的には月面に無事辿り着くまでに、あんなに犠牲者が出ているとは知らなかった。国内での反対運動も酷かっただろうし、家族への風当たりが強い時だってきっとたくさんあったんだろうと思う。それに宇宙船の技術のひどいこと!全くの素人の私が見たって「あれはないわ〜」って思うレベル。きっといつ誰が死んでもおかしくない状況だったと思う。家族を含めての最大の緊張状態の連続だ。

アカデミー賞を受賞した監督の今作は「セッション」とも「ラ・ラ・ランド」とも全く違う一人の男の人生の一幕を描いた物語。世界中が注目した偉業を成し遂げた出来事だけど、それも彼の人生のハイライトのひとつだったと思わせてくれる映画。とにかく接写が多くて宇宙に出ても家庭にいてもそこにいたのは一人の人間に過ぎないと思わせてくれる。だからこそこの作品は、すごく体感型のエンターテイメントで、とても感情移入しやすいヒューマンドラマともとれる。
オープニングのテスト飛行はさながらディズニーランドのアトラクションみたいだし、家庭で妻の思いが爆発するシーンでは夫であり父である主人公の内面を思って辛くなる。(同じ立場である妻の心情も辛すぎる)

そんな作品ではあるけれど、今年のアカデミー賞では主要部門に食い込むことはできず視覚効果賞、美術賞、音響編集賞、録音賞のノミネートだけだった。だけどNASAに借りた本物の宇宙の映像を使っただけあって視覚効果賞は受賞。

宇宙服の中から覗くライアン・ゴズリングの眼差しは半分死んでるみたいですごく良かったのにな。

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