ビジネス本 千一日物語

経営や事業の参考となる本を要約・紹介していきます。

ビジネス本 千一日物語

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最近の記事

異説のようで王道「真説・企業論」

ここ数年に読んだ本でベスト3に入るレベルの傑作に出会えた。 著者の中野剛志氏は経済産業省の官僚で、経済思想批評が専門である。話題のMMT(現代貨幣理論)を肯定する論客の一人で、MMT関連の本を読んでいるうちに派生して本書に行き着いた。 本書ではスタートアップや関連業界では美徳とされているあらゆる事柄に反論が呈されている。例えば ・大企業は硬直的でイノベーションが生み出せず、スタートアップが世界を変えうるイノベーションを起こす ・日本の経済成長が硬直的なのは変革精神・挑戦者

    • 【書評】サイゼリヤ創業者「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」

      著者の正垣泰彦氏は学生時代のアルバイト経験から飲食店敬遠に興味を持ち、家族から借金をして千葉にサイゼリヤ1号店を創業。しばらく鳴かず飛ばずの時期もあったが、激安イタリアンをヒットさせ、今のサイゼリヤを築き上げた。 週1~2回のペースで通っていて個人的にもかなり気に入っているチェーン店なので、創業者の本に触れてみることにした。 仕事の無駄をなくす一番の方法は、何かを改善しようと考えるのではなく、今までやっていたことをやめること飲食店ならメニュー数を絞ることが一番無駄を減らせ

      • マインド・コントロール

        霊感商法・新興宗教、テロリストなどに共通する洗脳手法についてそのテクニックを紹介し、体系立てて洗脳を論じている良書。 洗脳といえば聞こえは悪いが、営業や採用活動で聞き手の気持ちを巧みに操ることは(嘘や法律違反がなければ)立派な企業努力である。 なぜ理性的な若者はテロリストになったか外部の世界からの遮断と、視野を小さな一点に集中させるということだ。トンネル(テロリストになるまでのプロセスの比喩)の中を通り抜けている間、そこを進んでいく者は、外部の刺激から遮断されると同時に、

        • 小沢一郎 「闘いの50年」

          1969年の初当選から議員在職50年を迎えた小沢一郎衆院議員。自民党田中派のプリンスとして金丸の寵愛を受け47歳の若さで自民党幹事長に就任。それから平成政治は常に小沢氏が台風の目として、永田町を騒がせてきた。 民主党の崩壊後、しばらく影が薄かったが立憲・国民民主党の合併で多少、存在感を回復しつつある。本書は、地元新聞社のインタビューで小沢氏が初当選以後、たどってきた歩みを自ら語るものである。90年代の証言というシリーズで一度インタビューを受けているが、民主党政権後の回想をま

        異説のようで王道「真説・企業論」

          城山三郎 「男子の本懐」

          今は消されてしまったがYouTubeで戦後の自民党史をTVタックル風に面白くまとめた動画を見たことがある。 田中角栄の立身出世に始まり宮沢喜一が論語の「智者は惑わず 仁者は憂えず 勇者は畏れず」という一節を引用しながら内閣が倒れるまでをまとめたものだが、とくに選挙戦で田中角栄のローラー作戦が先輩政治家の墓参りにまで及び、総裁選出馬の際に浜口雄幸の墓参りをしていたのが印象的だった。 本書はその浜口雄幸が、盟友の井上準之助とともに国家的政策であった金解禁(金本位制への移行)を

          城山三郎 「男子の本懐」

          「韓国 行き過ぎた資本主義」 書評・レビュー

          本書はフリージャーナリストの金敬哲氏による、韓国経済の負の側面を取り上げたノンフィクションである。 少年時代は幼少期から受験勉強に明け暮れ良い大学に入ることを求められる受験地獄が待ち受ける。青年以降は良い会社に入っても出世競争・社内政治に巻き込まれる。こうして韓国の若者も中年も希望を失って、地獄のような環境で生きている、というのが趣旨である。 確かに通読して韓国経済は一強多弱で負け組が悲惨な生活を送っているかのような印象を受けた。ただ、受験勉強に明け暮れ就職後も日々仕事に

          「韓国 行き過ぎた資本主義」 書評・レビュー

          民主党政権とは何だったのか キーパーソンたちの証言

          55年体制は細川政権という非自民連立政権によって一時的に中断したが、民主党政権成立まで長らく自民党は第一党の座を守った。そういう意味で民主党政権とは戦後初の本格的な政権交代プロジェクトだったわけだが、それがあらゆる点で失敗に終わったという認識は衆目一致するところだろう。 本書は民主党政権が理想としていたものと現実に待ち受けていたものを関係者から取材しまとめたものである。民主党政権についてはレッテル貼りや憶測に基づく非難、事実誤認、中国や北朝鮮とつながってる等の陰謀論によって

          民主党政権とは何だったのか キーパーソンたちの証言

          セゾン 堤清二が見た未来

          セゾングループは西武の流通部門を切り離して堤家の長男 堤清二氏が継承した企業グループである。 弟、堤義明氏が西武の本丸である鉄道・不動産業を継承したため堤清二のセゾンは外様のような扱いだったが、西友や無印、パルコなど消費者に馴染みのあるブランドを展開していたのでむしろセゾンのほうが西武系企業としては知名度が高いかもしれない。 父 堤康次郎氏への反発から、清二氏は左翼運動や作家としての活動にも傾倒する。活動は晩年まで続き、企業経営者というより文化人のような振る舞いが本書でも

          セゾン 堤清二が見た未来

          宮内義彦 私の中小企業論

          オリックスCEOだった宮内義彦氏が語るベンチャービジネス論であり、起業家向けの本。 オリックスは宮内氏がオーナーとなって立ち上げた企業、というわけではなく日綿実業と三和銀行が中心となって3商社・5銀行が関与してできたジョイントベンチャーである。 宮内氏は25歳で日綿に入社し、すぐにリース業の立ち上げ準備のために海外でリース業を学ぶために派遣される。64年にオリエント・リース(現オリックス)の創設メンバーとして出向し、以後はそこで中核メンバーとしてオリックスを急成長に導く。

          宮内義彦 私の中小企業論

          日本政治のウラのウラ

          ネット上では全く人気がない森喜朗氏のインタビュー本。というより、多くの国民にとっても「棚ぼたで総理大臣になったがトラブル続きですぐ辞職に追い込まれた政治家」程度の認識しかないだろう。 しかし私のような政治ウォッチャーには、森氏は自民党三役や3内閣での閣僚経験など政治家として申し分ないキャリアを経て首相になった本格派の政治家であり、著書を読むと広い人脈、深い慧眼に驚かされることもある。 プーチンの人柄についてのエピソードプーチンは誠実な人間で、東京オリンピック開催が決まった

          日本政治のウラのウラ

          堤義明は語る 休日がほしければ管理職を辞めろ

          堤義明氏は西武グループ創業者の堤康次郎氏の息子として西武グループ総帥となり、先代以上の活躍で西武の一時代を築き上げた実業家である。 異母兄・清二は西武百貨店・西友・パルコなどの流通部門(のちのセゾングループ)を率いたのに対し、義明は不動産事業・鉄道事業を継承し、そこに観光事業をバンドルさせて西武王国を築いた。買収による西武ライオンズの立ち上げを経て西武は黄金期を築く。堤義明は西武王国をトップダウンで仕切るカリスマ経営者として、政財界での影響力も持ち、フォーブスに"世界一の大

          堤義明は語る 休日がほしければ管理職を辞めろ

          ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした成功の普遍的法則

          東大にTMI、技術経営戦略学専攻という松尾研も所属する学科がある。そこの卒業生は外資コンサルや投資銀行、起業家などが多く、要するに東大でもトップティア人材が多い(とされる)のだが、本書はそこの教授がおすすめしている本らしい。 著者はノースイースタン大学で複雑ネットワーク研究を行う学者であり、本書は学術論文ほどの厳密性はないにせよちまたの自己啓発本に比べて科学的アプローチを採っているというのが売りである。確かに本書は実証的であり規範的でないので、自己啓発として読むと「で結局

          ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした成功の普遍的法則

          溝口敦 「闇経済の怪物たち グレービジネスでボロ儲けする人々」

          著書の溝口氏は暴力団関係を始め、アングラ社会に切り込むノンフィクション作家である。本書は暴力団未満の人間たちの犯罪すれすれの金儲けを紹介するものである。 犯罪スレスレというか、正確にいえば「犯罪なんだけど罪が軽い or 検挙されづらいような穴場の商売」が多く、この内容を儲けの種にとらえて実践するのは基本的には推奨されない。しかし悪質出会い系サイト→パパ活のように、類型で成立しているビジネスも多く、人間の欲望をがっつり掴むことについてはアングラビジネスに学ぶところは多少あるか

          溝口敦 「闇経済の怪物たち グレービジネスでボロ儲けする人々」

          野中広務 権力の興亡

          野中広務は90~2000年代、自民党の党人派政治家として活躍し、小渕政権・森政権において影の総理大臣とも呼ばれた人物である。本書は朝日新聞の月刊誌「論座」において90年代の政治キーパーソンに対して行われたインタビューをまとめたものである。 小沢一郎について竹下派分裂のきっかけとなった、金丸信の政治資金問題の対応を巡り、小沢一郎(当時竹下派会長代行)と梶山静六(当時、自民党国対委員長)が対立する。小沢氏は徹底抗戦を主張したが、そのことが結果的に金丸氏を追い落とすきっかけにな

          野中広務 権力の興亡

          瀧本哲史 「僕は君たちに武器を配りたい」

          先日亡くなった瀧本氏の代表的著書である。私は直接存じ上げないが、良くしてくれている先輩経営者で瀧本ゼミに出入りして瀧本さんを慕っている人がいる。その先輩経営者も非常に優秀であることから、瀧本さんが知名度先行でなく実力を伴ったコンサルタント・投資家であったことが窺える。 本書は瀧本氏がコンサルタント時代から投資家時代に得た教訓を20代の学生や社会人向けに説いた内容になっている。 コモディティ人材になってはいけない金を稼げる大人になるにはどうすればよいか。経済の原則からいって

          瀧本哲史 「僕は君たちに武器を配りたい」

          帝国データバンク情報部 「あの会社はこうして潰れた」

          本書は企業の信用調査を行う最大手帝国データバンクに所属する調査員が、企業倒産の経緯をレポートしたものである。本書で紹介されているのは業績の悪化のような単純なものから、二代目経営者の乱脈経営、財テクの失敗、詐欺まがいの取引に巻き込まれる/当事者になるなど、様々な形で会社が潰れる過程を記録している。 本書で紹介されていた倒産例のうち、興味深いいくつかをご紹介したい。 婦人バッグ輸入卸売業者中国の協力工場からバッグを輸入し、日本の小売店へ卸すビジネスモデルの会社だったが、円安に

          帝国データバンク情報部 「あの会社はこうして潰れた」