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「アイリスオーヤマの経営理念」 大山健太郎 私の履歴書

アイリスオーヤマは宮城県に本社を置く生活用品の販売会社である。プラスチック製のケースのような日用品では国内トップシェアを誇る。もともと下請け町工場から始め、消費者向け製品の販売に着手。きめ細やかな商品の供給を可能にするため問屋機能も自社で担うようになり、小売店の品揃えや販売協力に行うメーカーベンダーとして発展した。

上場こそしていないが、18年12月期のグループ売上高は4,750億円、経常利益は270億円と好業績で成長を続けている。

本書は日経新聞に連載された創業者の大山健太郎氏のエッセイをまとめたものである。

若さで勝負した時代

20前後で父が他界し大山氏は大学受験を中断し大阪で町工場を継ぐ。

父親から継いだプラスチック工場は下請け仕事が大半だった。(中略) 会社の強みは私の若さしかないと営業は「全てイエス」で臨むと決めた。納期、コスト、内容などで他者が断るような注文も積極的に引き受ける。もともと向上心や探究心が強く、あれこれ考え工夫することが好きな性格なので、無理難題ほどやる気が出た。(中略) 得意先から見ると、常にニコニコ、答えはイエス。こんなに便利な下請けはない。発注は右肩上がりに増えていき、経営は順調に滑り出した。

経験も実績もない大山氏にとって取り柄は若さと体力だった。朝8時から夜8時まで操業したあと、工員が帰ってから朝まで一人で機械を動かす。朝に工員と交代したらそのまま営業に出て、昼頃仮眠を取る。そんな生活が続いたという。

資金繰りの不安などはあったが幸い下請けとしての事業は順調で、ある程度軌道に乗った大山氏は下請けからの脱却を意識するようになる。

漁業用のブイや農業用品を手掛けるようになり、事業拡大のために宮城県に工場を作った。

受難の時代 オイルショック

オイルショックでは商品が高騰し、消費者が商品を買い込んだため、値上がりが落ち着くと急速に売上が冷え込んだ。

良好な関係だと思っていた問屋が手のひらを返すように値切り、取引を中止してくる。流通業者の意向次第で、時間をかけて築いた商権を突然失うこともあると知った。恨みはない。生き残るために皆、必死だっただけだ。

設備投資を行った矢先の出来事に大山氏は重大な岐路に立たされる。10年かけて蓄えた資金は2年で底をつき、新設の宮城工場と父から譲り受けた自宅と一体の大阪の工場、どちらかを閉鎖しなければならない。心情的には大阪の工場を残したいが、宮城の工場のほうが最新で規模も大きかった。宮城を残し大阪を閉める決断をする。

プロダクトアウトからユーザーインへの転換

それまでの大山氏の経営はプロダクトアウト、品質のいいものを大量・安価に作ってシェアを獲得する戦略だった。しかしオイルショック期にも利益を挙げていたのは消費者ニーズをいち早く取り込むマーケットインの企業だった。toBよりもtoCのほうが景気に左右されにくいこともわかった。

手始めに園芸用品を手掛けるとこれがヒット。そこから消費者向けの商品ラインナップが拡充していく。

ビジネスが漁だとすれば、魚のいるところに船を回すのが企業のトップの役割だ。園芸に続くペット用品のヒットで売上高は2年間で2倍以上に増えた。

メーカーベンダーへの挑戦

当時の商慣習としてメーカーが売りたい商品があっても納入の決定権を持っているのは問屋だった。問屋の都合で消費者にものが届けられない状況を打開するため、問屋を通さずに小売店に販売することにした。ルール違反だと非難を浴びたが、消費者ニーズがついてくれば問題なしと楽観視した。

商流も製品も新しいことを試し続ける

提案型商品は陳列だけでは良さが伝わらない。2002年、売場作りと接客を請け負う「セールス・エイド・スタッフ(SAS)」という新しい制度を作り、得意先の店舗に派遣することにした。
SASは地元採用者である。チェーン店の店長は異動があるためSASの方が店長よりも地域に溶け込んでいる店もある。以前買った商品を店員が覚えていてくれればお客様も嬉しい。SASから本社に届く日報は約8万件。売り場で集めた声から、データだけでは見えない潜在ニーズや既存商品の課題もわかり商品開発に活かせる。

消費者の声・反応との距離を縮めることが成長の原動力というわけだ。

経営への考え方 日本型経営の良さを活かす

私はかねて経営判断で「本質的、多面的、長期的」であることを心がけている。(中略) 日本企業は日本型経営の良さを捨てるべきではないと私は思う。相手を尊重し、共助の精神を持ち自然とも共生するのが本来の日本のビジネスだ。会社経営も無理のない仕組みのほうが社員も納得でき、うまく機能するように思われる。

アイリスオーヤマの経営理念

前回のグッドウィルの経営方針でも、理念・社訓の唱和があった。

1991年に大山ブロー工業からアイリスオーヤマにすると同時に、それまで培ってきた基本的な経営の考え方を明文化したものだ。当社の新入社員はまずこの企業理念を覚え、唱和することで当社の一員となる。また、毎週の朝礼をはじめ、ことあるごとに全社員で唱和している。まさに経営の根幹をなす5か条だと言えるだろう。
1. 会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立すること。
2. 健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
3. 働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
4. 顧客の創造無くして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
5. 常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体を作る。

その他に経営方針、管理者十訓、業務指針なども細かく制定されているが割愛する。

他に企業成長の五原則というのもあるが、これは大山社長が考える商売成功のための秘訣だと思うので、かんたんに紹介したい。

1. 積極経営なくして成長なし。リスクを恐れず、果敢にチャレンジ。
2. 現場視点によるビジネスチャンスの発見と提案。
3. 自立型マネジメントによる任せる経営。
4. 給与は高く、人件費は低く。
5. 常に自己改革。

社員に向けたメッセージより

本の後半にはアイリスオーヤマの朝礼で大山社長が社員に語った内容を書き起こしている。(過去20年、1000回に渡る朝礼の言葉を記録化していること自体、組織ピラミッドを徹底して社員に理念を意識付ける努力の現れである)

いくつか目に止まったところを紹介すると

勝ちにこだわるための基本は、お客様のニーズに応える、そして競合メーカーに圧倒的な優位性をつけることです。これらを実践できれば、会社は成長し、間違いなく事業計画が達成され、増収増益になるはずです。

いろいろな事業KPIはあるだろうが、定性的に社員に徹底させるのは「お客様のニーズに応える」という単純なものだ。

当社はこれまで実力主義を採用しており、優秀な人にはそれに見合うポストを与えてきました。しかし、能力や意欲がない人がそのまま組織に残っています。今回の研修結果を受け、今年からリーダー職についても能力、意欲のない人については、イエローカード制度を導入していきたいと考えています。研修を受けない人や研修を受けた人のうち下位10%の人には、奮起を促すためにもイエローカードを出し、3枚たまると降格人事となります。

下位10%となると毎回かなりの人数が自動的にイエローカードとなりそうだ。一定の成績以下、のようなものならともかく定数でやっているのはあまり聞いたことがない。このほうが恣意性なく運用できるから引き締まるのかもしれない。どのみち飴だけではなく社内の引き締めの鞭も一定程度必要ということだろう。

主力製品が固定化せず常にプロダクトを生み出す組織の強み

アイリスオーヤマはなにか1つのブランドが売れている会社ではない。ヒットを生みだし続けるため、プロダクト志向の技術者を集めている。ヒット作の下に組織がぶら下がる会社は無数にあるが、システマチックにプロダクトを生み出すのは容易なことではないと思う。



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