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【読書会】宮本輝『流転の海』全巻読書会(11)~第2部『地の星』第5章

こんにちは。

宮本輝さん親子がモデルとされている『流転の海』全9巻を完読しようと始めたこの読書会も、回数が2桁となりました。第2部(=第2巻)からは、基本的に1回につき1章を読み進めています。宮本さんご本人である「松坂伸仁」が生まれた昭和22年から40年までを貫くこの物語では、昭和史の史実についても触れられているので、時折、それらについても言及しています。ご関心のある方の参加をお待ちしております。

ここまでのあらすじ

自動車の部品の輸出入で成功した事業家の松坂熊吾は、40歳になってなお兵役を務めており、中国大陸から生還後の昭和22年、大阪で事業の再興に向けて奔走していた。熊吾は、50歳になって初めて、実子の伸仁を授かる。壮健とは言えない妻・房江と子・伸仁を慮って、熊吾は事業を打ち捨ててて故郷の南宇和での数年を過ごすことを決意する。

熊吾に負わされた怪我を根に持っていた伊佐男が絡んでいた闘牛騒ぎを収めた後、熊吾は茂十の選挙参謀を務めることとなった。また、旧知の中国人・周との約束を果たしに金沢へと赴き、病床の井草とも再会する。

概略

①周の娘・麻衣子と井手の京都での生活が始まっていた。台風が近づく中で、「和田茂十君を励ます会」が開かれる。

②伊佐男の実父が宮崎巡査を恨んでいることを知る。

③政夫は、熊吾に勝ちたい一心で伊佐男の元に出入りしていた。

④房江と茂十との噂を耳にして激昂し、二度と暴力を振るわないと誓ったことを忘れてしまう。

私的「ポイント」

・賢いやつの一票も、馬鹿なやつの一票も、一票は一票じゃけんのお(p.235)

・所詮、選挙の要諦が、人心をつかむこと以外にないと考えたからであった(略)とすれば、人々は何を求めて、和田茂十のために票を集め、県会に送り出そうとするだろう(p.236)

・人が見ちょるやと? 人目もはばからず、この狭いいなかで、恥知らずなことをつづけてきたのは、どこの誰やっちゅうんじゃ(p.241)

・ああ、もうこんないなかは、わしには狭すぎる(p.242)

・百姓に跡継ぎなんかあるかや。誰が好き好んで百姓の跡を継いだりするかや(略)わしはお前が、親の言うことを聞く子やとは思うちょらせん。そんなふうには育てんかったけんのお(p.243)

・けれども、昆虫と人間の違いは、長命を得ることによって、人間が何かを為せるということだ(略)しかし、昆虫のような人間もいるな。経験から何も学ばず、本能の遂行しか念頭にないやつが、人間の中にもたくさんいる(p.244)

・〈持って生まれたもの〉という言い方があるが、おそらく、そのような表現以外に正しい表現はないだろう(p.251)

・蛇は蛇を産みよる(p.261)

・〈子は親を選べない〉という言葉には、大きな錯覚と誤謬があるように感じられてきた(略)〈子は親を選んで産まれてくるのだ〉と(p.261)

・〈恥〉か・・・。恥のために命を捨ててきたのが、あるいは男というものの習性かもしれない。相手がどんな男であろうとも、人前で恥をかかせてはいけない。なるほど、俺はまちがっていた(p.265)

・わしは、おじさんを尊敬しちょる。わしも、どうにかして、松坂のおじさんみたいな男になりたいと思うて・・・(p.267)

・人を叱るには芸が要るっちゅうが、そんな芸もないのに、わしは、ようもまあ大阪で商売をして、何十人もの人間を使うてこれたもんよ(p.268)

・あんなものは、真の度胸ではない。あれは、一種の自己愛なのだ(p.274)

・わしは、つまりは、いっつもいっつも、瞬間芸で世渡りをしてきたようなもんよ(p.275)

閉会後の追記

・いささか「濃い」登場人物が多い中にあって、清涼剤的であった房江さんに暗い陰が落ちていて心配だとの意見がありました ←「房江はそう言って、ふいに蒲団から起きあがった。そして、熊吾の手から一升壜と茶碗をひったくり、酒を飲んだ。房江がそんなことをするのは初めてであった」(p.292)

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今回は以上といたします。最後までお読みくださり、ありがとうございました。Twitterスペースでお待ちしております。それではまた!



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