涙彩画

ある日母が言った、昔から静かに涙を流す子だった。覚えてないけど。
言いたい事はあった、
それでも言葉にすると失くなっちゃいそうで言えなかった。

押し殺して積み重なった、感情廃棄物の残骸。
この中から意味を見つけ出すのはもう無理かな。
道徳の時間に習った、心と心のお話。
使い方も分からないまま大人になった。

描き方を忘れた世界を手探りで探す日々。
滲んでしまった輪郭の無い心を探した。
頬を伝う何かに気付かず零れてしまった今日が、
昨日に成り果てもう届かないなら。

少しだけ眠らせてくれないか。

環状線廻って行く。ヘッドライトに照らされて。
自分だけじゃ輝けなくて 。 妙に白い肌をなぞる。
命の気配に触れたくて。 刻まれた赤い線を辿れば。

心の中で出逢った愛されたいと願う君は、
嫌われたく無いと呟く僕を置き去った。
結局嫌われたから、水筒の涙飲み干した。
このままじゃ乾いて死んでしまうと思ったから。

僕等の事を忘れた世界をちゃんと嫌えたとしたら、
今見える景色も少し違うかな、なんてさ。
埃をかぶったキャンバスに映る描きかけの君が、
光を失くした瞳で睨むんだ。

「ごめんよ。」

此処に居たい?それとも嫌い?
愛されてない世界、愛せない。
矛盾、理不尽と交差して、悲運な事故、失われた未来。
優しい子だと撫でられたあの日はもう額縁の中だけの世界。
今更何も描き足せやしないだろう。

零れ落ちた涙が空白へと沁み込み描いた。
淡く儚い題名の無い絵が生まれた。
明日には消えてしまうかもしれないけど忘れたくないんだ。
僕等から溢れたこの色彩が、心だと、そう信じたいんだ

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