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リンゴの木の上のおばあさん

さて、古典的な名作を2つ取り上げたので、今回は『ピグルウィグルおばさん』と同じ新しい世界の童話シリーズから『リンゴの木の上のおばあさん』(ミーラ・ローべ作)をご紹介したいと思います。

↑これは岩波少年文庫版ですが、挿絵などは新しい世界の童話シリーズのもの(絶版)と同じです。

まずは簡単にあらすじを。

友達にはおばあさんがいるのに、自分にはおばあさんがいない、と寂しく思っていたアンディ。いつも遊んでいるようににリンゴの木に登ると、そこにはおばあさんがいました。おばあさんは写真でしか知らない、アンディのおばあさんでした。
アンディは喜び、おばあさんはアンディを遊園地へ連れて行ったり、草原で野馬をつかまえたり、なんでも出てくる夢見たいな車に乗ったり、2人はゆかいな冒険をするのです。
そんなある日、アンディのお隣に1人のおばあさんが引っ越してきます。そのおばあさんのお手伝いをしたりするうちに、アンディとお隣のおばあさんは次第に仲良くなっていきます。
お隣のおばあちゃんは冒険はできないけれど、人付き合いのコツを教えてくれたり、お手伝いをしてくれるアンディに感謝して、アンディに人に必要とされる喜びを教えてくれたりするのです。そしてアンディはお隣のおばあさんのことも好きになっていきます。リンゴの木の上のおばあさんもお隣のおばあさんも大好き。これからはどちらと会うか選ばなきゃいけないと思ったアンディは悩むのですが……

児童書というのはネタバレしたからといって魅力が消えてしまうものではないので、思い切ってネタバレしてしまいます。なので結末を知らずに読みたい!と思われた方はここでこのページは閉じてくださいm(_ _)m

リンゴの木の上のおばあさんはアンディが友達の話やお母さんの話を聞いて作り上げた想像の理想のおばあさんです。
だからアンディが喜ぶことをしてくれます。遊園地に行ってソーセージと綿菓子を好きなだけ食べさせてくれたり、車からはジュースや果物、お菓子、好きなものがどんどん出てくるし、海賊と渡りあったり野生の馬を手なづけたり。
これはすべてアンディの空想なのですが、空想とは思えないほど豊かに描写され、読み手もアンディと一緒に冒険を楽しみます。
子供の頃に読んだ時は本当にわくわくして、こんなおばあちゃんが私にもいたらいいのに、と思ったものです。
素敵で粋なおばあさん。
子供の時に、本やアニメ、特撮、マンガなどから影響をうけて頭の中でいろんな空想をして遊んだことは誰しも経験していると思うのですが、これほど豊かでリアリティのあるイマジナリーフレンドはなかなか作れるものではないと思います。
おばあさんとの楽しい日々をすごすアンディですが、残念ながらずっとはそこにはいられません。
お隣のおばあさんと交流していく中で、だんだんと現実へと帰っていくのです。
けれどそれは決して悲しいものではなく、現実の中で実在する人たちと暖かな繋がりを作っていくということなのです。
ずっとリンゴの木の上では遊んでいられない。アンディ自身がそのことに気づき、受け入れていくという、1人の少年の成長に暖かな気持ちになるのです。
彼を見守るお母さんやおとなりのおばあさんもまた優しくて素敵な人たちです。
アンディがお隣のおばあさんにリンゴの木の上のおばあさんのことを話し、どちらかを選ばなきゃいけないと思い悩んでいることを打ち明けるのですが、お隣のおばあさんはアンディにこう言います。
「どうしておばあさんが2人いてはいけないの」
この言葉の暖かさ!!!私はここが大好きです。
子供の荒唐無稽なオチのない話を否定も邪魔もせず聞いてくれて、そしてその世界を手放すことはないのよ、あなたが必要なだけその世界もあっていいものなのよ、と受け入れてくれるこの暖かさ。
アンディのおばあさんがいないという子供らしい寂しさに寄り添えばこその言葉ですよね。
子供の頃は素敵なおばあさんが2人もいるアンディが羨ましかったですが、大人の今になるとこうして子供の想像力や寂しさに寄り添える人間になりたいと思わせてくれる素敵な作品。
私には子供はいませんが、恐竜の話をたくさんしてくれる甥っ子やお姫さまのお話をしてくれる姪っ子に途中で疲れて切り上げたりしてしまうことに反省……。
お母さんやお父さんは忙しくても、遊びに来てる伯母ちゃんは時間があるんだからちゃんと付き合ってあげないとね!
自由に楽しく想像の世界に遊ぶ子供。
決して急かさずに、ゆっくりと自分で気づきながら成長していく子供を見守る優しい存在。
そんな素敵なものがギュッと詰まった1冊です!

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