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レベッカ

さてさて本日はイギリスのゴシックサスペンス、『レベッカ』。

いつ頃読んだかなあ、中学生にはなってなかったような。そのあたりの記憶が曖昧です。ミュージカルも人気ですし、ヒッチコックの映画も名作で、ゴシックサスペンスとしては定番の小説ですよね。
あらすじはこんな感じ。

ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た―この文学史に残る神秘的な一文で始まる、ゴシックロマンの金字塔、待望の新訳。海難事故で妻を亡くした貴族のマキシムに出会い、後妻に迎えられたわたし。だが彼の優雅な邸宅マンダレーには、美貌の先妻レベッカの存在感が色濃く遺されていた。彼女を慕う家政婦頭には敵意の視線を向けられ、わたしは不安と嫉妬に苛まれるようになり…。
アマゾン商品ページより

読んだ時期は覚えてないんですが、この小説を読んでみたいと思った理由は覚えてます。
一条ゆかりの短編漫画がいくつか入ったコミック、『シンデレラの階段』(余談ですがこちらも面白い。アイドルを主役に据えたサスペンスです)に収録されていた『私が愛した天使』という漫画がありまして。母がその漫画が『レベッカ』に似てる、というので面白そう、読んでみたいと思ったのがきっかけです。
これも余談ですが、あの頃のりぼんはけっこう大人っぽい作品も載っていたなあ。だんだん対象年齢が下がっていった印象。それはさておきまして。
わりと長めの作品ですが、絶妙な緊迫感とトーンの暗さに引っ張られてスイスイ読めてしまいます。
大富豪に身染められる天涯孤独の若い女性・“わたし”、そして美しいマンダレイの館。豪奢で美しいその姿とは反対に陰鬱な空気を醸し出す館と、以前の女主人・レベッカに執着する女中頭のダンヴァース夫人。道具立てがもう最高です。
イギリスの古いお屋敷が好きな方にはたまらない小説でもあります。選び抜かれた調度品の数々、整えられた庭園、そして美しい領地。想像するだけでワクワクしてしまいます。ところがレベッカがその美しいマンダレイに影を落としているんですよねえ。
水難事故で亡くなったマキシムの前妻レベッカは、ダンヴァース夫人によると完璧なレディで美しいマンダレイにふさわしい女性。ことあるごとにダンヴァースにレベッカのことを持ち出され、さらには彼女の策略で一時はマキシムとの関係もギクシャクしてしまい、だんだんまいってくる“わたし”。ところがそのレベッカが死んだ水難事故の真相が明らかになり、物語は大きく展開していくのですが……。
ネタバレしないように感想を書くのが難しいんですが、もうね、ダンヴァース夫人の狂気じみたレベッカへの執着がなかなか怖いです。
もう古典の域に入っている作品ですから、それほどラストに衝撃はないかもしれませんが、そこに至るまでにきっちりと描かれているレベッカの存在がこの物語を面白くしているんですよね。
美しく驕慢なレベッカ。自分以外を愛さない所といい、マキシムに仕掛ける罠といい、強烈なサイコパスかげんがいいですねえ。きっとこれほど心酔しているダンヴァース夫人のことですら手駒ぐらいにしか思っていなかったことでしょう。ダンヴァース夫人もそのことはわかっていたはず。他ならないダンヴァース夫人がレベッカのことを「誰も愛しておられませんでした」と語るんですから。
そんなレベッカが自分の好みどおりに作り上げたマンダレイはもしかしたら彼女自身と言ってもいいかもしれないですね。だからこそそのマンダレイを“わたし”の好きにさせることをダンヴァース夫人は許さなかったんでしょう。彼女の最後に取る行動は、自ら選択したものだったのか、それともレベッカの支配によるものだったのか。彼女をそこまでさせたのはなんだったんだろうと考えてしまいます。
このひたひたと侵蝕してくる得体の知れない薄気味悪さと恐怖、死人の影に怯える様、いいですねえ、ゴシックサスペンスの醍醐味ですよね!
この本を読むころにはもうクリスティやディクスン・カーなんかも読んでいたので、ミステリー慣れはしていたんですが、なんというかこう、ホラーとも違う、本格ミステリーとも違う全体に漂う薄ら暗い感じが新鮮で面白くて、一気読みしたと思います。
ちなみにだいぶ後になってから映画の方もみたんですが、これまたとっても良かった!さすがヒッチコック。
美しいマンダレイも再現されて、ジョーン・フォンテインの“わたし”もマキシムのローレンス・オリビエもいいし、ダンヴァースのジュディス・アンダーソンは最高に気味悪くて。いやもう、“わたし”ににじり寄るダンヴァースの顔ときたら!怖いよ、まじで怖いよって感じです。モノクロなのもまた良かったんだろうなあ。
ゴシックサスペンスが好きになるきっかけの本だったかもしれない。元々伝奇小説なんかも好きで、これ以前にも前に記事であげたレ・ファニュやポーなども読んでいましたが、それらともちょっとテイストが違う感じです。
レベッカの気配がするという点ではホラー的なんですが、1番怖いのは人、というありがちなオチではあるもののミステリー要素もがっちり取り入れてあって。
薄暗くて美しくて、怖くてワクワクして。
由貴香織里の『伯爵カインシリーズ』とかが好きだった人にはオススメですね。
古典的な名作ですが、やっぱり面白いものは面白い!

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