夏の朝(著:本田昌子/画:木村彩子)

幼い頃に五感で覚えたあの夏の香りや音・情景・空気感は、今でも覚えている。

蝉が鳴き始める前の朝の庭の空気は妙に澄んでいて、でも一斉に鳴きだした途端にかき乱されて、暑さとだるさがぐっと押し寄せてきたり。
ぽつぽつと降りだした雨の、足元からせりあがってくる土の匂いが割りと好きだと感じたり。
夕方、虫の音色の変容で、もうすぐ夏も終わりかなぁって、ちょっと切なくなったり。
エアコン漬けの生活ではなかなか感じることのできない夏の情緒を、本書は思い出させてくれるだろう。

もうすぐ取り壊されてしまう田舎のお祖父ちゃんちの庭にある蓮の花は特別。開花とともに、大切な人達が育んだ優しい時間や、心の中にしまっていた「想い」が時空を越えて解き放たれる。

小さい頃に死んでしまったお母さん。
1年前に逝ってしまった母方のお祖父ちゃん。
そして、もうすぐ取り壊されてしまうお祖父ちゃんの家。
田舎ならではの夏の息吹きが、莉子ちゃんの焦燥感や喪失感、もういなくなってしまった大切な人への想いを募らせる。

不安 という表現はされていないけれど、莉子ちゃんが抱えている漠然としたもやもや。
蓮の花が教えてくれた、力付けてくれた家族という消えない絆に、じんわり。
莉子ちゃんはきっと、もっと強く優しくなれる。

カラーの挿し絵がとってもきれい。
小学校高学年くらいから読めそう。


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