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人新世を知る【国際地質科学連合会で否決?投票規約違反?】

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50万部超のベストセラー『人新世の「資本論」』(斎藤幸平)のタイトルにもなっている”人新世”というキーワードがある。
この言葉について、走り書き程度にその定義付けをメモしておく。

2024年3月6日㈬の報道では、国際地質科学連合が"人新世"を地質年代として認めるかの投票を行ったが、僅差で否決されるに至ったとのこと。
しかし、「投票規約違反があったのでは」として、調査が入ることにもなったようだ。

ニュースにもなりよく聞くようになった地質年代の”人新世”とは、そもそもどういったものなのか。
ザックリ解説する。


地質年代

まずは地質年代とは何ぞやから。
地球に地殻ができてから、今日までのことを指す。
以下の通り、細かく区分されている。
※年代は資料とか論者によって大なり小なりズレるので目安くらいに捉えておくんなまし…

大まかな年代区分

冥王代→始生代→原生代→古生代→新生代という順番に区切られている。

・冥王代:地殻が形成されて、最初の生物も誕生したと考えられている。地球誕生の46億年前から38億年前まで。
・始生代:この年代の地層から微生物の化石が見つかっている。38億年前から25億年前まで。
・原生代:藍藻類の光合成で酸素が増え、真核生物や多細胞生物が誕生した。25億年前から5億4000万年前まで。
・古生代:生物が爆発的に発達・多様化し、陸上に進出する種もでてきた。5億4000万年前から2億4000万年前まで。
・中生代:海では軟骨魚類やアンモナイト類が栄え、陸では恐竜が闊歩した。2億4000万年前から6500万年前まで。
・新生代:哺乳類と鳥類が繁栄し、裸子植物に代わって被子植物が繁栄する。6500万年前以降。

より詳細な年代区分

先カンブリア時代、古生代のカンブリア紀→オルドビス紀→シルル紀→デボン紀→石炭紀→ペルム紀、中生代の三畳紀→ジュラ紀→白亜紀、新生代の第三紀→第四紀という順番に区切られている。

・先カンブリア時代:冥王代・始生代・原生代のすべての時代のことを指す。地球誕生の46億年前から5億4000万年前まで。

【カンブリア爆発:生物の爆発的進化】

・カンブリア紀:無脊椎動物を中心に生物が爆発的に発達・多様化した。5億4000万年前から5億年前まで。
・オルドビス紀:海で三葉虫・筆石・オウムガイ・甲冑魚などが栄えた。5億年前から4億3500万年前まで。
・シルル紀:海では三葉虫・筆石・サンゴが栄え、シダ植物が陸に進出した。4億35000万年前から4億1000万年前まで。
・デボン紀:海では魚類が栄え、陸生植物が発達し、両生類が陸に進出した。4億1000万年前から3億6000万年前まで。
・石炭紀:爬虫類や昆虫類が出現。この年代のシダ植物の化石が石炭となる。3億6000万年前から2億9500万年前まで。
・ペルム紀:海ではフズリナが、陸では裸子植物が繁栄した。2億9500万年前から2億4500万年前まで。

【古生代末/中生代始:三葉虫など大量絶滅】

・三畳紀:海ではアンモナイトが栄え、陸では恐竜の先祖型が誕生した。2億4500万年前から2億500万年前まで。
・ジュラ紀:大型の恐竜が出現し、鳥類の祖先である始祖鳥も出現した。2億500万年前から1億3500万年前まで。
・白亜紀:海ではアンモナイトが、陸では恐竜が大繁栄した。1億3500万年前から65000万年前まで。

【中生代末/新生代始:恐竜など大量絶滅】

・新生代第三紀:一時は大型鳥類も繁栄したが、哺乳類が取って変わる。6500万年前から270万年前まで。
・新生代第四紀:すでに登場していた人類がさらに発展していった年代。270万年前以降。

さらに詳細な新生代の年代区分

新生代の第三紀と第四紀は、以下のとおりさらに細かく区分される。

古第三紀:暁新世→始新世→漸新世
新第三紀:中新世→鮮新世

第四紀:更新世(≒旧石器時代)→完新世(≒新石器時代)

人新世はどう位置付けられるか

大学受験で地学を選択していた私は、以上のような地質年代の区分を高校生時代に暗記したものであった。
ただ、高校生レベルでは新生代は第三紀と第四紀までのザックリした暗記で十分であったが、最後の更新世と完新世だけは覚えた記憶がある。

私見だが、新生代の詳細な時代区分は、今現在の気候条件や生物のあり方がどういう経緯で出来上がってきたのか、そのロードマップで区切られているような感じがする。
完新世などは、今現在の気候条件と生物が出揃った時期、くらいの意味合いで語られることも多い。

最近提唱されている「人新世」(ひとしんせい、じんしんせい)は、この完新世より後に、さらにもう一つ年代区分を設けるべき、という学者の意見によるものだ。
ノーベル化学賞を受賞したこともあるパウル・クルッツェンは、2000年にメキシコで開催された地球科学に関する会議で、以下のように叫んだという。

「違う!我々は完新世ではなく、既に人新世の中にいるのだ!」(ボヌイユ/フレソズ2018︰18頁より)

最早、人間の活動の痕跡が地質年代においても無視できなくなってきているということに対する警鐘だろう。


人新世を地質年代に追加するかどうかは、今まさに議論がされている。
今後、もし追加されるようになるとすると、三つの疑問が生まれる。

 ①人新世はあくまで新生代の最新の年代区分なのか、違うのか
 ②そうだとしたら、それは第四紀に含まれるのか、含まれないのか
 ③人新世は西暦何年頃から始まるのか

報道を見ている限りでは、どうやら人新世は新生代の第四紀に含まれるものとして区分される予定のようだ。
個人的には、人類に強く警鐘を鳴らす意味で、人新世を第四紀からも新生代からも独立させて、ヒトが動植物の生態系を破壊したから年代区分が生まれてしまった感、を出した方がいい気もする。

人新世の始まりを1950年代以降とする方向で議論が進んでいたようだが、2024年3月の国際地質科学連合による投票で”人新世”が地質年代と認められなかった一因は、この1950年代という時期設定のせいだったようだ。
それより以前から人間は地球環境を破壊して影響を及ぼしていただろ、と。

そんな経緯も考慮すると、個人的には、産業革命が始まって資本主義が広まった1784年からを"人新世"とするのが良いように思うし、パウル・クルッツェンも同様に考えていたらしい。
もちろん、人類は誕生してから数多の生物を絶滅に追い込み、森林や大地や海洋にも影響を与えてきたのだが、そのスピードが格段に増したのは、産業革命以降ではないか。

人新世を第四紀からも新生代からも独立させ、開始を1784年とすると、年代区分のイメージは、だいたいこんな感じになる。

※この画像の年代と、この記事の前半で書いた年代にもズレがあるが、お気になさらずに。

まぁ何にせよ、他の地質年代が純粋に科学的な基準で決められてるのに対して、人新世は政治的というか、社会的な意味合いはどうしても大きいと思う。
エビデンスはちゃんとあるし、政治的・社会的な地質年代が必ずしも悪いとは思わんのやがね、知らんけど。

参考文献

・ウェブ記事①地球史に「人新世」新設の提案否決 国際地質科学連合 | 毎日新聞(mainichi.jp)
・ウェブ記事②人新世否決の投票「規約違反」、国際学会小委が調査へ - 日本経済新聞 (nikkei.com)
・ボヌイユ、クリストフ・フレソズ、ジャン=バティスト著 野坂しおり訳(2018)『人新世とは何か──〈地球と人類の時代〉の思想史』青土社

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