ハッピーエンドを迎えるためにすべきこと

幻冬舎、そして見城さんの対応について本屋がすべきことについて考えている。作家さんからの声はたくさん出ている。もちろん読者からも。

しかし本屋は声をあげにくい。以前の『日本国紀』騒動や昨夏の「新潮45」問題などでも同様だったが、本屋が出版社から本を仕入れて営まれるものである以上、どうしても上下関係を意識してしまい、批判の声をあげることが難しく思えてしまう。もちろんこれは作家-出版社間の関係でも同様だし、さらに言うと「出版社は本屋に本を置いてもらってる/作家に本を書いてもらってる」とも考えられるため、場合によっては上下は逆転しているかもしれない。

でもやはり本屋は出版社に対して弱いのだ。少なくとも幻冬舎や新潮社のような「大手」に対しては。まあとにかく。今回、幻冬舎が津原さんに対して行なったことは、そのまま本屋に向けられる刃でもある、ということは、知っておかないといけないと思う。

津原さんは『日本国紀』ひいては幻冬舎を批判した。そして文庫化を取り消された。で、(なぜか)さらに部数を公表された。

これを本屋に置き換えてみる。

・幻冬舎に客注の出庫をすっぽかされてお客さんからクレームを受けたから批判した。あるいは客注だと言っているのに減数くらって入荷せずお客さんからクレームを受けたから批判した。
・すると、うちのやりかたに文句を言う本屋には配本しない、と出荷を減らされた(とめられた)。
・そのことに対してさらに批判をすると、きみのとこはこれだけしか売ってないんだよ、と販売数を公表された。

出庫云々では例としておかしい、というのならそこを「本としての信頼性に乏しい『日本国紀』を当店では置くことができない」と批判した、と置き換えてもいい。そしたら配本を減らされた。で、それに対して批判したら販売数を公表された。

というように、津原さんが受けた仕打ちは、本屋に対しても向けられる可能性が大いにある。あるいはすでに向けられている。そして「本屋が幻冬舎に対する批判をしないこと」によって、これが起きる可能性は高まってしまうとも言える。出版社から「本屋は歯向かってこない」と思われてしまったら、出版社はやりたい放題になるからだ。というかすでになっているとも言える。とにかく前述した「上下関係」の意識が確立されてしまう。

そしてこの本屋に対する「歯向かってきたら配本しない」という行為によって被害を被るのは、本屋だけではない。作家と読者もだ。というか作家と読者がいちばんの被害者だ。

きみのとこは実売これだから、配本しないよ。というのも同様だが、とにかくそこの本屋で幻冬舎の本を買おうとしていた読者はどうなるのか。地域にそこしか本屋がない場合はどうするのか。ネット(書店)を自由に使えない読者だったらどうするのか。どうしようもない。本屋は詫びるしかない(なぜ詫びなくちゃいけないのかわからないまま)。読者は諦めるしかない。作者も悲しい。喜んでいるのは、権力を濫用した出版社だけだ。

本屋は出版社に対してきちんと批判をしなくてはならない。おかしいことには「おかしい」と言わなくてはならない。それは本屋自身のみならず、読者と作家と、そしてその出版社で働くひとたちのためでもある。

バカな経営層のせいでその会社から本を出している作家、そしてその作家とともに本を作っている編集部、さらにその本を売り込んでいる営業部などが、悲しい思いをしてはならない、生活が苦しくなるようなことがあってはならない。だからこそ本屋は「行ないを改めよ」と声をあげねばならない。あなたの出版社の本を前向きな気持ちで、心地よく店頭に置くために。そしてなによりも読者が、本屋同様に前向きな気持ちで、心地よく本を買うために。そのことであなたの出版社(とそこで働くひとたち)が、しあわせになるために。

だからいま、というか以前から、批判の声をあげることに尻込みしてはならないと思っている。権力に逆らわないことで得をするのは権力を持つ者だけだ。「わたし」より下にいる者はもちろん、「わたし」も悲しい思いをする。批判をしてその仕返しを理不尽なかたちでされたのなら、それはもう栄誉の負傷とでも思ったほうがいい。そして長い目で見ればその負傷は損にはならない。なってはならない。だからきっと誰かが助けてくれる。

もちろん批判と罵倒はちがう。相手が非道を働いているからといってこちらも非道で返していいわけではない。とことん真摯に、丁寧に、理路整然と、批判する。その積み重ねの先にしか、作家から読者にいたるすべてのひとが迎えるハッピーエンドはない。



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