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レティシア書房店長日誌

篠田節子「ドゥルガーの島」(新潮社/古書1700円)
 
 
いやぁ〜ハマりました!昨年読んだ奥田英朗「リバー」以来、長編小説の醍醐味に浸りました。久々の篠田節子の本でした!
 1997年に出た「女たちのジハード」(直木賞)、「ゴサイタン」(山本周五郎賞)、2009年の「仮想儀礼」(柴田錬三郎賞)、2015年の「夏の災厄」と読んできました。さて本作は、宗教と信仰、開発される地域と消滅してゆく伝統、という今日的な問題をベースにした大冒険小説です。


 元ゼネコンの開発部にいた加茂川は、趣味のダイビングで訪れたインドネシアにある小さな島で、海中に聳え立つ仏塔を発見します。その希少価値に注目した彼は、この遺跡の調査と保護を進めようと日本専門家たちとともに開始します。考古学の専門家である藤井は、これが仏塔ではなくヒンドゥーの祠であると断言します。しかし、海中のより詳しい調査をしようすると島の人間たちの態度が変わり、非協力的になってきます。さらに、ここを開発し、ゴミ処理場にしようと画策する地主の妨害やら、宗教間の複雑に入り組んだ争い等々が勃発し、彼らの計画は一向に進捗しません。そこへ、大地震、火山噴火、津波と、まるで神々の怒りに触れたかのような自然災害が島を襲います。

「イスラムなんてこの島の表層よ。いえ、インドネシアという国の表層に過ぎない」と、日本から来た文化人類学者の人見は、イスラム国家インドネシアを解き明かしていきます。
「イスラムの一枚下には、ヒンドゥーや仏教が埋まっていて、一番底にはそれぞれの地域の土着の素因があるのよ。この島の人たちの心の根っこ部分にあるのは火山への信仰。だから、噴火が起きそうになって恐怖がつのると、山羊でも何でも投げ込んで鎮めようとするのよ」
 民間信仰、迷信、祟り、恐れなどが絡み合って賀茂川たちの前に立ちふさがります。冒険小説の王道を行くような緊張感とサスペンスに満ちた描写が、読者の心をガッチリ掴んで離しません。
 この国の民族史を揺るがすような遺跡の真偽を巡って、様々な宗教を信仰する人たちの過激な感情が錯綜してゆく姿は、今の社会を象徴しているのかもしれません。終わりが近づいてくると、一体どーなるの?とドキドキさせてくれた小説でした。

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