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レティシア書房店長日誌

坂巻弓華「寓話集」

 盛岡にある書店BOOKNARDは、出版も行い、素敵な本を送り出してきました。くどうれいんの「わたしを空腹にしないほうがいい」もここからでした。先日、坂巻弓華の「寓話集」(2420円)を入荷しました。どこかで聞いた名前だなぁ?と思っていたところ、BOOKNARD店主の早坂大輔さんの本「いつも本ばかり読んでいるわけではないけれど」の挿画を描いた方でした。

 著者は、画家・童話作家で、猫飼いの熊好き。著者が個展のたびに作り続けていた私家版の小さな冊子があります。その中の寓話や散文を集め、書き下ろしの掌編を加えて出来上がった一冊が本書です。目から毛が生える少年、ラムネパン屋さんの親子、にんじん屋さんの一日、喋るぶどうと画家、というナンセンスと不思議に満ちた世界に足を踏み入れる、八つの物語が収録されています。ちょっともの哀しくて、センチメンタルな気配が満ちています。著者の描き下ろし装画もなんとも素敵です。
 モデルでエッセイストの前田エマが、巻末に解説を書いています。「いちばん最初に収められている『光の詩人のおはなし』は、人間という動物が、言葉や絵や音楽といった芸術を生み出さずしては生きていけない、その切なさと喜びを見事に描いた一編だ。誰しもの心の中に存在するであろう創作の原体験を、瑞々しい言葉と絵で私たちの元へ届ける。そして”悲しみ”はひとりひとりそれぞれの大切な持ち物であることを教えてくれる。」と書いています。
 『光の詩人のおはなし』の主人公は「十歳になると眼から毛が生える」という呪いをかけられます。実際にそうなったとき、少年は落ち込み、生きる気力をなくしてしまいます。ある日、少年は「目を覆う毛の隙間から漏れる光」を観察します。
「今、毛の隙間を通った光たちは、みな美しく優しい結晶となり、少年の目に届きました。悲しいことがあると、少年は光を探しました。」やがて、彼は自分が見た光を言葉にすることを始めます。様々な光の中に見えるものを、どんどんと言葉にしていきました。
「それは、自然と詩になりました。 森の草花、動物たちは、少年を もじゃもじゃ詩人と呼び、毎日、少年の詩を聞きにきました。」この文章の横には、彼の詩に惹かれた少女や森の動物たちが、楽しそうに耳を傾けている絵があって、和ませてくれます。

もじゃもじゃ詩人

 ラムネパンしか売っていない猫の親子のパン屋の「ラムネパン屋」、畑で育った人参だけを、マフラーを首に巻いたウサギが販売する「にんじんやさん」が特に印象に残りました。幸せは小さいもので、身の丈に合う仕事と、ほっこりする時間があることではないかと思いました。あっちにいったり、こっちにいったりしながら読み返していると、不思議にあたたかな気持ちになります。

●レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」



⭐️入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」
(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)

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