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レティシア書房店長日誌

近藤ようこ「蟇の血」

 新潮社が出している無料の月間雑誌「波」に、梨木香歩原作「家守綺譚」を近藤ようこが漫画化したものが連載されています。原作の世界にぴったりのコミックで、「波」の新しい号が出ると本屋で探しています。おそらく書籍化されると思うのですが。
 今回ご紹介するのは、怪談文芸の作家田中貢太郎の退廃的な怪談物語「蟇の血」の漫画化です。(古書500円)

 田中貢太郎は明治13年高知に生まれ、高知実業新聞の記者を経て、作家に転身しました。大正12年に本作を収録した怪奇小説集「黒雨集」を刊行しました。
 将来を嘱望された青年が、ある日訪れた海岸で仔細ありげな若い女性に出会います。そして、深い仲になってしまいます。青年は、先輩に女との生活を相談に行ったその帰りの夜道で、別の若い女から道を尋ねられます。彼女に同行して、その親戚の家に送り届けるのですが、そこから青年は地獄のような体験をする羽目になって……..。
 近藤はあとがきで、「おそらく関東大震災直前くらいの作品。昭和のエログロナンセンスを先取りするような、奇妙で、しかも訳のわからない恐ろしい話だ。(中略)楽しすぎて少し悪ノリしたかもしれない。」と書いていますが、後半は本当に怖い。著者の漫画に出てくる女性のラインって、どこか儚げで、この世のものとは思えないような人物も出てきます。正体不明の艶かしい女たちに、ジワリジワリと絡め囚われてゆく男の悲劇をご堪能ください。
 近藤が、文豪に挑戦した作品として傑作の評価が高いのが、夏目漱石の「夢十夜」(古書1250円)。隙のない構成で出来上がった短編小説集で、漱石は長編よりもこんな短編集の方が個人的には肌に合っていました。「漫画化するのは自分が好きな小説を漫画に描いてみたいというかエゴというか、自分の欲望のためであり、読者にはまず原作の小説を読んでほしい。それから私の漫画と比べて、うまくできているかどうかを判断してほしいのだ。」と「夢十夜」のあとがきにありました。ぜひ、そうしてみてください。きっとより深い世界が広がるはずです。


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