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レティシア書房店長日誌

大白小蟹短編集「うみべのストーブ」(新刊/リイド社880円)

 コミックを中心にした出版社リイド社が、Web上で運営する新しい表現を模索するトーチweb。当店でも人気のスケラッコさんの「大きな犬」もここから出ました。ここで連載されていた大白小蟹(おおしろこがに)の短編コミック集が「うみべのストーブ」です。
 

 著者は、沖縄生まれの漫画家&イラストレーター。ほとんどの作品の舞台が冬で、雪が重要な演出装置になっています。
 偶然出会った女性2人の連帯のドラマ「雪を抱く」。整体師の若葉は、自分が妊娠したことを知り、複雑な気持ちになります。大雪で電車が止まり家に帰れなくなったある夜、深夜のカフェで出会ったコウコという女性と朝までの時間を過ごすお話です。浮かび上がってくるのは、女性の身体をめぐること。二人は銭湯に行って始発を待ちます。コウコは妊娠に揺れる若葉に向かって、こう言います。
「妊娠が怖いって気持ちはよく分かる。自分の身体が自分だけのものにできないなんて、そんなのおかしいって気持ちも」お湯に浸かりながら話し合い、朝を迎え、降り積もった雪の上に一緒に寝転ぶところで終わります。
 女性トラックドライバーと雪女の奇妙な友情を描いた「雪子の夏」。雪の夜、千夏が出会った雪子は雪女だと名乗ります。雪女なので夏のあいだは消えてしまうという雪子に、なんとかして夏を見せてあげようとします。二人にとって忘れられない夏の物語が始まります。そして、なんと花火を見ている最中に雪が降るのです!ファンタジーと優しさに満ちた作品です。
 シチュエーションが面白かったのは「きみが透明になる前に」。ある日事故で透明になってしまった夫。彼の顔が見えないことにちょっとほっとしていることに気づく妻ですが、人は一人では生きられない。透明の夫が雪の中を歩くシーンがとても印象に残ります。

 雪と同時に、もうひとつ通底するモチーフが身体感覚。自分の身体に対する認識、感覚が作品に顔を出しているような気がします。清潔感のある絵柄と詩的なセリフで、独特の世界を展開します。
 表題作は、えっちゃんとスミオの二人の出会いと別れ。傷心のスミオを海に連れ出したのは、いつも部屋で彼らを見守り続けていたストーブでした。
「ふたりが…お互いに、好きだったこと 私はちゃんと覚えてる 何度だって思い出すよ」と、えっちゃんを待つスミオに寄り添ってくれます。(連載時のカラーを再現し、2色刷で収録されています)
 どの作品も、読者を温かい気持ちに包んでくれること間違いなしです。


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