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レティシア書房店長日誌

服部 文祥「北海道犬旅サバイバル」
 
 
著者は登山家です。ただし変わっているのは、狩猟をして、食料の現地調達をしながら、荒野や山々を徒歩でサバイバル登山をするのです。
 「北海道犬旅サバイバル」(みすず書房/新刊2640円)は、2019年10月に稚内空港に降り立ち、大雪山系を越え、襟裳岬まで行き、11月末に帯広空港から帰路に着くまでのノンフィクションです。ちなみに彼は自宅のある横浜から羽田空港まで、そして帰りも、車や電車を使わずに歩きます。
狩猟を始めて世界観が変わったことをこう記しています。

「サバイバル登山でイワナを食料にすることで、食べ物とは本来、自分で獲って殺すものだと実感した。それが狩猟を始めた大きな原動力だった。狩猟はやってみると、とても興味深い行為だった。始める前はまったく想像をしなかったような感情を体験し、そこから思いもよらぬ思考が育まれた。食料とはいのちであること。いのちはいのちを食べ、いのちはいのちに食べられて、生態系はまるで大きな生命のうねりのようにつづいていること。明日私が食べるかもしれない生命と、明日私を食べるかもしれない生命が共に生きる。それが生命のありかただ。狩猟はそんな世界観に私を導いた。」
そして、現金もカードも一切持たず、彼は北海道の原野に立ち、銃で鹿を撃ち、その場で解体して自分の体に取り込んで行く。旅のお供は、赤毛の愛犬ナツ。
 「一日の移動距離は15キロがせいぜいになる。その移動感覚で大雑把に行程を区切ると襟裳岬までで、たっぷり三ヶ月になっていた。実際には林道を歩くことが多いと予想されるので、一日に20キロ歩ける日もあるだろう。計画通りなら山旅中に50歳になる。」
 そう、彼は紛れもなく中年のオッサンなのである。それがなぜこんな無謀な旅を?本書の中で著者自身が、その理由を問い直すシーンが出てきます。
一丁の銃を肩にかけ、犬と共に荒野を旅するイメージを持ち、老後に人生を振り返った時に、後悔しないための思い出作りだということなのですが、あまりにも過酷な旅です。でも、文章にはさほど悲壮感もなく、いい旅だなぁと思えてくるから不思議です。
 後半、山中でナツが行方不明になります。呼んでも帰ってこない!
「ナツがいなくなっても、旅を続けるのか?意気消沈して帰宅するのか?
いまさらながらこの旅の根本的な目的を突きつけられた。
ナツがいない状態で一人、襟裳岬へ向かうことはイメージできなかった。そんなのは、むなしすぎる。となると私にとって計画の完遂よりナツと旅することのほうが重要ということになる。だが、この旅はナツのためにやっているのだろうか?」と、またまた悩むのです。ナツはひよっこりと著者の元に戻ってきて、え?何悩んでるの?という顔をするのですが。
 と、こんな風に山をこえ、峡谷を渡り、廃道を突き進み、我々もまた長い旅を経験することになります。ラストシーンがいいです!
 「鷹野大橋を過ぎたあたりで、ナツのリードを引く力が強くなった。家が近づき、自分のテリトリーに入ったことがわかったらしい。いつものジョギングコースに入り、大綱橋から住宅街に入っていく。あと1キロも歩いたら、とりあえずもう、歩かなくていい。」二人とも、お疲れ様でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
12/13(水)〜 24(日)「加藤ますみZUS作品展」(フェルト)
12/26(火)〜 1/7(日 「平山奈美作品展」(木版画)
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」

●年始年末営業案内
年内は28日(木)まで *なお26日(火)は営業いたします。
年始は1月5日(金)より通常営業いたします

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